昏倒
〈アレ〉を行う為、レーミアはぐんぐんと天高く飛翔した。
空は黒雲が立ち込め、雷が満ちているが、夜がやってきつつあるのが、魔力が満ちてくる感覚でわかる。
「さて…」ピタリと空中で動きを止めた。
呪文を詠唱しながら、印を結ぶ。
魔法は古く強力になるほど、手順が複雑化する。
パリッパリッ、と空気が帯電する。
目を瞑り、脳裏にイメージを描く。
帯電している空気を集め、一気に放つ。雷よりもずっと強烈な光。
「破天雷」
城の中から見た外の光景は凄絶だった。あたりの空気は帯電し、髪の毛が逆立つ。そうして、目を開けていられないほどの光が、無数に地面に突き刺さる。
更に。レーミアは今度は急降下した。素早く地面を転がり、衝撃を吸収する。そのまま、地面に右手を置く。
「凍てつけ、〈氷盤〉」
地面はもとい、周囲の木々、城の壁すら凍りつく。
空気が急激に冷えつつあった。
「寒い…」と呟く者もあった。
見張りも奴隷もみな、外の光景に釘付けだった。
地面を覆う氷。
そして…。
レマは光に貫かれ。ドルチは凍てつき。
それぞれ、絶命していた。
ふたつの上級魔法を(展開範囲を狭めたとはいえ)立て続けに使用したのにも関わらず、レーミアは息ひとつ乱していなかった。
頭は冴え渡り、その瞳は全盛期の輝きだ。
―そう。私はレーミア・ヤグール。
〈氷雷の女神〉と呼ばれた吸血鬼だ…。
「さて、次は…」
遙か天空に頂きを誇る、魔王城を見上げる。
〈時使い〉…だろうか?
そう思考した瞬間、レーミアの意識は突然、暗黒に包まれた。