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一筋の希望



「バカな…!この〈冥府の王〉たる、私が負けるなど…!!」

胴体を袈裟斬りにされた半獣半人の魔物はそう言って、事切れた。

レーミアはその鋭い爪で取り出した敵の心臓を握り潰した。紫の血に似たものが手を汚す。

「あと三人か…」

呟いて、レーミアは先を急いだ。


魔王城の周りは〈惑わせの森〉と呼ばれている。

結界術がかけられているのだ。

幻惑・混乱・虚像…結果として、同士討ちになった者たちもいるという。

だが、レーミアには、ちょっとやそっとの幻術は効かない。

さっさと森を抜けるべく、早歩きしていたところに現れたのが〈冥府の王〉である。

彼は初っ端からノリノリだった。

「喰らえ!我が滅命の魔法を!!」

空中に書かれた血文字の呪文は、しかし、何の影響もレーミアに与えなかった。

「残念だな…私は〈不死〉だ」

すれ違いざまに、囁いた。同時に敵の心臓を抉り盗った。

「さようなら、〈冥府〉で幸せにな」


「魔王様! ご報告でございます!!次鋒に立たれたモハイ様(冥府の王の事である)、敗れたとの事です!!」

伝令の報告に、魔王は翼をバサリと動かした。

「ヨーランよ」伝令の名を呼ぶ。

「急ぎ、伝えよ。まもなく、捕らえた人間どもが暴動を起こすはず。容赦なく〈殺せ〉、と」

その瞳には何の感情もなく、また声音はごく静かだった。

それが逆に恐怖だった。

「はっ!!しかと、仰せの通りに!」

背筋を緊張の汗が伝うのを感じながら、ヨーランは伝達魔法を展開した。


その少し前。

「働け、人間ども」と鞭を持った見張りに言われながら、〈イルファス〉各地から集められた人々―奴隷である―は、懸命に立ち働いていた。粗末な衣服に一日一度の薄いスープ。逃げ出そうにも〈冥府の王〉に刻まれた〈死の紋章〉がそれを許さない。

ひとりの女性が「えっ!?」と声を上げた。運ぶ途中の料理の盆を落とす。

見張りがたちまち近付いてきて、鞭を振るおうとした。

けれど、出来なかった。

その女性の胸の辺りが、強烈な光を発していた。それが収まると、彼女は確認した―無い…。

刻まれた〈死の紋章〉が、無い。

他の人々も光に包まれた後、声を上げていた。

「消えた!」

「呪いが消えたぞ!」

「死なずに済む!」

見張りは最早、誰に鞭を振るえばいいか、わからなかった。と。

ヨーランの伝達魔法で彼ら、見張りたちの脳裏に直接命令が届いた。

彼らは一斉に床を鞭で叩いた。

「鎮まれ!人間ども!!余計な真似はするな!! 騒ぐ者は〈殺せ〉との命だ!!」

束の間の歓喜を握り潰された人々の中に、しかし、一筋の希望―連帯のようなものが生まれていた。

―いまは、静かに従おう、と。


森を抜け、魔王城の門前に肉薄したレーミアは〈炎使い〉と〈操り師〉ふたり(二体?)と睨みあっていた。

「なるほど…貴様ら、門番か?」

レーミアの言葉に〈操り師〉が慇懃いんぎんに頭をさげた。

「いえ、普段はわたくし、ドルチが務めております。貴女様が大層お強い、との事で」傍らの筋骨隆々の大男―人間に見えた―を手のひらで示し「こちらのレマとともに迎え撃て、と」

レーミアは頷いた。

「そうか、じゃあ、さっさと始めよう」

右手で空中に魔法陣を描き、〈氷嵐〉を発生させる。

呑み込まれたが最期、無数の鋭い氷片に身体を切り刻まれる代物だ。

レマがスっと動いた。相反する魔法陣を空中に描く。〈炎嵐〉だ。

こちらは呑み込まれたが最期、まとわりつく炎に消し炭にされる代物だ。

ふたつはぶつかり合い、空高く昇っていった。

その間にドルチが〈ゴーレム〉を召喚した。身の丈4メートル程のそいつはでかい身体に似合わず、俊敏に殴りかかってきた。

「レディを殴る気か? マナーがなってないな」

再び、蝙蝠で漆黒の翼を顕現けんげんさせたレーミアは空中にいた。

そこへ炎を纏った拳でレマが襲いくる。凄い跳躍力だ。

ひょい、と躱しながら、呪文を詠唱する。破棄した方が展開は早いが、威力が違う為だ。

「〈氷雷雨〉!」無数の氷の粒が降る。しかもひとつひとつが帯電しており、触れるとたちまち電撃で黒焦げになる仕様だ。

ドルチもレマもそれぞれ、防御魔法を繰り出した。レマは飛翔魔法も。

二体目のゴーレムが現れていた。


その戦い―ゴーレムの地響きや雷などで、城の者たちも、外で戦闘が行われている事を知った。

ざわつく人々。

「ありゃ、女の子…じゃないか?」

レーミアの姿に唖然となる。

最近、奴隷にされたばかりの男が叫んだ。

「そういえば、魔王討伐の為に、〈聖女様〉を召喚するという話を聞いた!あの子じゃないか?」

一気に色めき立つ城内。

見張りが鞭を鳴らしても、効果は薄かった。


ゴーレムがもう一体増えた。

薄ら笑いを浮かべているドルチには、まだ手があるのだろう。

レーミアは空中でレマをいなしながら、小刀で、左腕を斬りつけた。流れる血に命じる。「〈我が血の盟約に従い、彼の者を殺せ〉」血が矢となり、ドルチに降り注ぐ。

無数の矢に防御魔法が破壊されるが、ドルチは落ち着き払っていて、

「〈行け〉」と新たに召喚した大蛇のような化け物に命じた。

その硬い鱗に血の矢が弾かれる。

レマが殴りかかってくるのを躱す。

ゴーレムが足を掴もうとしてくる。鬱陶しい。

「〈アレ〉をやるか…」

ボソリと呟いたレーミアの声が聞こえた者はいなかった。




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