様子見
神官とロエから自身の姿が見えなくなった事を確認したレーミアは蝙蝠たちを漆黒の翼に変えた。
空を切り裂き、ぐんぐん飛翔する。
事前に得ていた情報を頼りに〈魔王城〉を目指す。
飛び続けると段々と空が暗くなってきた。
黒雲が立ち込め、ゴロゴロという雷音が響き渡る。
〈魔王城〉は、バベルの塔と見紛う高さ、との事。その周囲は常に暗雲と雷に満ちているそうだ。
―そろそろだな…。
レーミアが遠くに霞む、〈魔王城〉の影を視認した時、同時に魔力を感じた。
咄嗟にその攻撃を躱す。
「来たか…」と呟いた。
どうやら、敵方にも情報は筒抜けらしい。まぁ、別に構わないが。
フンと鼻息を吐く、ペガサスの翼を巨大化させたような怪物―が口をきいた。
「我の攻撃を躱すか…しかし…そなた、本当に〈聖女〉か…?どちらかというと、その魔力、我らの…」
ぶつぶつと重ねられる言葉を切るように、レーミアは呪文を唱えた。
集束した光―雷の束が何本も、ペガサスの身体を射抜く。
「カハッ」ペガサスが血を吐く。しかし、敵も弱くはない。
「これしき…」と呪文を唱えた。
バサリと動かされる翼。
凶刃と化した風がレーミアを襲う。
「…バカな!」とペガサスが呟いた。
レーミアの左頬が切れ、血が一筋、流れた。
「ん? どうした? ペガサスもどき?」
涼しい顔で血の盾を自身の周囲に展開したレーミアは言った。
「もう少し、スピードあげた方が良いぞ? 詠唱破棄出来ないのか?」
ニッ、と笑い、頬の血を腕で拭う。
「今度は、私の番だ」
無詠唱で繰り出された雷がペガサスの身体を撃ち抜いた。と。
そのまま、ビキビキと音を立て、凍てついていく。凄まじいスピードだ。
ペガサスは翼をもうひと振りしたが、勢いも何も無かった。
そよ風に、レーミアの前髪が揺れた。
完全に凍てつく寸前、ペガサスが言った。
「我は…魔王様に認められし、五人衆でも最弱…いい気になるな…」
レーミアはボリボリと頭をかいた。
「そこは〈四天王〉じゃないのな…知ってたけど」
レーミアは思い起こした。
いま倒したペガサスもどき。
他に四体の魔物が、王を守っているという情報を得ていた。
ひとりは〈冥府の王〉。まぁ、多分、平気だ。
ひとりは〈炎使い〉。膂力勝負に持ち込まれたら厄介なので、早期決着が必須だ。
ひとりは〈操り師〉。傀儡使いとの事。相当な手練を傀儡にしているらしい。本体を叩けば、問題ない。
厄介なのは〈時使い〉だ。事前情報が少ない上に、名前(あだ名?)からして、上級魔法の使い手だ。
流石のレーミアも、これ以上若返ってしまったら、どうなるか…。
―まぁ、対策は考えてきたがな…。
先を急ぐべく、レーミアは翼に力を入れた。
「魔王様!ご報告でございます!!
先鋒に立たれたリヤス様(ペガサスもどきの事である)、敗れたとの事です!!」
伝令の報告に、しかし、魔王はバサリと翼を動かしただけで、無反応だった。
その瞳はレーミアが駆けている方の空を見ていた…。