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8話 混ぜられた2つの世界

「やった……のか?」


 オレの緊張が解けると同時に服装は元通りになった。網も右手の不思議な感覚も消えて、あとかなり疲れてしまった。

 その場に座り込んで周りを見てみると、クラスメイト達は相変わらず不思議そうにこちらを見ている。まるでこれは夢であると言わんばかりに、自分の頬をつねる人もちらほら見られる。


「これから、こうやって戦うことになるのかぁ……大変だな、実際に体験してみると」


「キミ、お疲れ様。ちょっと話があるからさ、目立たないところでお話でもしよ」


 話しかけてきたのはエミナだ。どうやらここでは話せないことでもあるのだろう、オレはエミナに付いて行くことにした。


 屋上に出ると、そこはやっぱり誰もいない空間であった。エミナは屋上のドアを閉めてパチンと指を鳴らす。するとそれに合わせてガチャンと鍵が閉まるような音が鳴り響いた。それを確認し終わると、エミナはゆっくりと話し始めた。


「まず、今起きている現象を改めて説明するね。さっきも言ったけど、キミが今朝まで生きていた世界は、私の世界に転移してしまった」


「うん……それがよく分からなくて」


 オレは首を傾げる。


「んー……例えばさ、2つの大きなバケツを思い浮かべて。片方は泥水、片方はきれいな水」


「うん」


「本当は、きれいな水から水を泥水の方に少し移して、少し移してを繰り返してを繰り返し……言うなれば、私のバケツの水を少しずつきれいにする予定だった」


「そ、それで?」


「でも、間違えてきれいな水を全てバシャーン! と勢いよく泥水の方に流し込んでしまったの、確かに水はほとんどきれいになったんだけどバケツという世界は1つにまとめられてしまった」


「つ、つまりそれって……」


「……そう。まとめると、残ったのはキミの世界に私の世界のディストピア要素。私の世界自体は消えてしまった」


「そ、そんな……」


 ようやく理解できた。エミナが言っていたことが。どうやらエミナが元々いた世界は、そのいくつかの特徴だけをこちらに移して消滅してしまったらしい。オレはもしかしなくても、大変なことをしでかしてしまったようだ。


「じゃあオレ、多くの人々の命を奪って――」


「その心配はないよ。さっきの敵みたいに、命を持つ存在は全てこちらに移動してきた」


「な、るほど……」


 まぁ、それもそうか。冷静に考えれば……だが、冷静に考えるとすると1つ疑問が浮かぶ。

 オレが「やらかす前」から確かにクラスメイトだった柚野さんは一体何者なんだろうか? エミナが違う世界からあの本を持ってきた存在だとすれば、明らかにクラスの人気者の柚野アイリ? さんと今話している柚野エミナさんは別人のはずだ。しかし、アイリ? さんは確かに教室にいなかった。


 それに、エミナさんとはこうやって会話イベントが起こっているが、アイリ? さんとは全くたりとも話したことがない。これはどういうことなのか? オレは恐る恐るその話題を切り出すことにした。


「……あの、変なこと聞くかもだけどさ」


「んー? どうかした?」


「オレが転移の方法を実行したあの日まで、確かにクラスには柚野……アイリさん? って子がいたんだ。けど、今オレが話しているのは異世界から来た、柚野エミナさん……」


「……うん」


「どこに行ったのかな、アイリさん」


「……分かんない」


 急にエミナはしらを切った。存在の乗っ取りとかか、もしくはドッペルゲンガー的なやつか!?

気付くとオレの額は冷や汗でいっぱいだった。


「ただ、この世界のどこかにいるはず。だからこそ、キミに頼みがあるの」


「た、頼み?」


「バケツに残った泥の部分を取り除くこと。それをキミにお願いしたい、いやキミにはその義務がある。だって……」


「……」


「泥の部分をしっかりと洗い流さないと、魔王の手というバイ菌が暴れちゃう。そして世界が透き通る水に再び戻れば、きっと探しているその子もその中から見つかる。つまりキミにお願いしたいのは……」


 エミナはオレの手を握ってきた。


「世界を、洗ってほしいの」







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