7話 単騎急襲、アシナガデイム
アシナガデイムは一歩一歩背筋を伸ばしながら歩いてくる。その姿はまるで騎士のようだ。だが、いつまたあの俊敏な動きを見せてくるか分からない。選択を間違えれば、ここでゲームオーバーだ! 自然と、虫取り網を握る拳に力が入る。
クラスメイト達は不思議そうにこちらを見ている。だがそれも仕方ないだろう。見知らぬ人物が2人、教室の中で戦っている。これではオレも不審者として見られるのも無理はない。でも、ここでオレは皆を守る必要がある。何しろ、オレは転移の元凶、ラノベなら主人公という立ち位置だ! 主人公補正っていう最強の力を見せてやる!
「はあああああああっ!」
オレは先制攻撃を仕掛ける。網を力任せにフルスイングだ。だが、オレの目の前にアシナガデイムの姿は無い。やってしまった、いきなり見失った!
「どこ見てんの、後ろよ!」
エミナが助言する。オレはすぐさま網を振りかぶりつつ後ろを振り向く。するとアシナガデイムは既にナイフをオレの背中めがけて突き刺そうとしていた。即死寸前、オレは攻撃を防ぐことができた。
「危ねぇっ……死ぬところだった……」
「あらあら、まだ死なないと決まったワケじゃないのよ?」
アシナガデイムは不敵に笑う。オレは一度間合いを取り、ナイフの射程範囲から離れる。
「くそっ、どうやって倒すんだ……身体能力も何もかもが高い」
「キミ、部活には入ってた!?」
「えっ!?」
急に話しかけてきたのはエミナだ。彼女いわく、どうやらこの世界では部活がスキルの1つになっているらしい。例えば陸上部なら俊敏性が大きく育ち、戦いでもそれを発揮できる。美術部なら描いた作品をそのまま武器や物として扱えるという。だが、転移前のオレは帰宅部だった。帰宅する速さを競う部活だとか仲間同士で冗談を言い合ったりしていたが、もちろんここで帰宅するワケにはいかない。
オレは絶望した。オレは主人公では無かったのだ、モブキャラだったのだと。きっとこの世界には別の「主人公」がいて、そいつがいつか世界を救うのだと。オレは……静かに目を閉じた。「武器を持った、敵意を剥き出しにした何者か」の接近を感じる。オレ卑屈だから、そういうの結構意識するんだよな。まぁ……アシナガなんとかが命を刈り取ろうと迫っているんだろうけど。
さよなら、ここでオレの物語は終わり………
「諦めないで、それは伸びしろがあるってことなの!」
「えっ!?」
エミナに一括されたオレは自然とアシナガデイムの攻撃をまたまた防いでいた。エミナは真剣な眼差しでオレを見ている。
「それに得意なことくらいあるでしょ!? 絵を描いたり、想像力があったり! 人に優しくできたり、それに……とにかく! この世界でヒーローじゃない人なんていないの! それに……」
「……想像力」
そうだ、思い出した。オレ、小さい時漫画家になるのが夢だったんだ。でも肝心の画力がなくて、いくらでもストーリーやキャラは思いつくんだけど……
『勉強や実技について行けないことは本当の意味で命取りになる。だってそれらが魔法や必殺技になるになるからね……』
エミナのあの言葉……そうか、そういうことか! ならばオレは想像力を1つの武器とする! そして、せめてヤツを追い払う!
「さっきから何を話してるの? このクラス、皆殺しにされてもいいワケ?」
「……アシナガなんちゃら」
「な、何よ?」
「思いついたぜ、単純だったことを!」
オレは殺虫スプレーを思い浮かべる。するとオレの右腕にぞわぞわと生々しい感触が走る。
「……いわゆる、毒魔法ってやつかな? まぁ最初に覚える魔法としてはしっくりくる」
「な、何よ……まさか!」
「いっけええええええええ!」
オレはその右手でアシナガデイムに張り手をかました。するとアシナガデイムは燃えて崩れるように体が小さくなっていく。
「や、やめ……テ……カラダガ…………」
みるみるアシナガデイムの体は萎み、髪は抜け落ち、服は消え、最終的に現れたのはアシナガバチそのものだった。だが、人間並みの知性は持ち合わせているのか、一度オレの顔に体当たりしてからフラフラと窓から逃げていった。




