2話 呪いの転移術
早速この本を借りてしまったオレは、放課後を今か今かと待つことにした。万歩計はスマホに入ってるアプリで代用できる。あとは先生やクラスメイトになるべく見つからないように実行するだけだ。
「……ここで使うのは解の公式です。1の式のそれぞれを数字をね、こうやって解の公式に導入して……」
もはや授業内容は右耳から入っては左耳から抜け出すを繰り返している。真剣に考えればバカバカしいはずなのだが、今日は不思議なほどこの本の内容が気になる。いや、もう試さずにはいられない! オレの右手は天井へと向かって伸びていた。
「……せ、先生」
「おお奥川、どうした?」
「せ、先生トイレ……あっ、トイレに……行ってきます……」
「おぉ、すぐ戻ってこいよ」
……作戦成功。今どき我慢しろなんて言えないよな、そりゃ。オレはこっそり万歩計アプリを起動し、怪しい本を抱えて教室を抜け出した。
「……よし、やるか」
オレは無駄にくねくねと蛇行徒歩をしたり、その場で足踏みをしたりして歩数を稼ぐ。トイレの中でも無駄に何往復も便器の前を歩いたりするが、一向に目標達成できる気配はない。
「まだ500歩……あまり長いと怪しまれるからなぁ……」
俺はトイレの中でシャトルランを始めた。ああもう早く4444歩をクリアしたい! ちょくちょくスマホの数字を確認するがまだまだ目標には程遠い。
「700歩、750歩、800歩……もうラチがあかねぇ!」
オレはトイレを抜け出し、保健室へ向かうことにした。そしたら歩数は稼げるし教室に戻らない口実にもできる。よし、なるべく早く異世界ライフを満喫してやるからな……!
オレは校舎の中を歩き回る。ゴールは保健室というとても近い場所なんだけど、4444歩になるべく近づけておきたいからだ。てか、今日はやけに暑いな……温暖化は恐ろしすぎる。
「ハァ、ハァ、今は……1332歩……半分すらまだまだじゃんか……」
「…………か?」
「えっ?」
オレがさらに歩数稼ぎを開始したその瞬間、耳元で何者かの声がした。唐突だったので聞き取れなかったが、それはまるで死神のささやきのようだった。
「えっ、まさかこれ本当に呪いの遊びとかなの?」
そういえば、小学生の時は学校内の怖い話とやらが流行った記憶がある。理科室の模型が動くとか、音楽室の写真が睨んでくるとか、トイレにお化けがでるとか……結局、どれも遭遇したことはないのだが。
とりあえず、今は保健室に行こう。そうしないとサボったことにされかねないからだ。オレは本気で異世界転移に取り組んでいるのだ、サボりではない! サボりではないんだけど、そうしないと怒られちゃいそうだから。
オレは保健室のドアを開け、仮病でベッドに横たわることに成功した。




