12話 口裂け女 その1
「あぁ、いきなり疲れた……」
「おかくんも色々大変だねぇ、お疲れよん」
オレと木南くんは一緒に下校していた。色々な話で盛り上がったが、オレは奥川という名字なのにおくくんでは無くおかくんの理由はただの「ノリ」らしい。奥から「お」、川から「か」という単純な理由だ。
2人が夕日に照らされ下り坂を歩いていると、ちょうど時計の前を通りかかったところで5時のチャイムが鳴った。
「んあー……そろそろ”アイツ“、出ちゃうかもな」
「アイツ? 不審者とかってこと?」
「あぁ、オレが小学生の時にマジで噂されてたんだけど……口裂け女、聞いたことある?」
「口裂け女!? え、なつかしくね!」
木南くんはテンション高めに話しかけてくる。こんな会話ができたの、オレからすればマジで小学生以来なんだよな。
「おかくんも知ってんだ! 急に自分が美人かどうか聞いてくるんだけど、マスクして顔の上半分は可愛いんだけどさ、その正体は……ってやつ!」
「確かそれでマスク外したかと思うと襲われる……ってやつ、だっけ? 小さい時それマジで信じててぇ、一時期トイレとか1人で行けなか――」
「ねぇ、私カワイイ……?」
「「……え?」」
突然、後ろから見知らぬ女の声がした。驚いて後ろを振り返ると、マクスをした黒髪ロングの女が、ぽつーんと虚ろな目で直立している。
オレも木南くんも、正直結構ビビっている。だってこの姿もシチュエーションも確実にあの「口裂け女」のものと同じだし、最悪なことにオレ達は今口裂け女の話題で盛り上がっていた。
口裂け女からすれば自分の陰口を叩かれているようなものである。「妖怪などの類」に気をつかうなんて日常生活の中でなかなか起こり得ないことではあるが、今は異世界と混ざった新たな世界にオレ達はいる。これまででは信じられないようなことが起こるなんてあり得ない話ではないのだ。
「……ねぇ今私の話、してたよね? 本人の前では言えないなんてダサいよ……? ねぇ教えて、私は綺麗ですか、どうですかぁ!」
その瞬間風がどおっと一瞬吹き荒れ、カラスの集団が頭上をくるくると飛び回り始めた。明らかにヤバい状況だ、オレが「役立ちそうな文字」を頭の中で思い浮かべていると、木南くんはニヤリと笑って息を大きく吸い込み、
「ポマードォォォォッ!」
と叫んだ。その瞬間、その声がまるで弾丸にでも変わったかのように女に突き刺さった。女は一瞬苦しむような動作を見せるも、虚空から突然鎌を生成してオレ達の方に向けてくる。
「弱点を知っている、そんな奴らにはいきなり始末するプランでいくしか無いわよね……」
「マ、マジかよ……ポマードって言えば追い払えるはずなのに……」
木南くんは慌ててスマホを取り出し、カメラを女に向ける。するとアドバイスコメントのようなものが次々と表示されるが、どれも今通用しそうなものは無い。
『怖すぎて草』
『それヤラセだろwwww』
『ポマードじゃなくてトメイトゥと叫んではどうメイトゥ』
「オイオイ、オレのリスナーちゃん……オレも困りなうだぜ……」
「き、木南くん……それどういう能力なんだ」
「オレの能力はどうやら、頭の中で一瞬でも浮かび上がった物事を文章化してくれるんだ……まるでバンドマンが空から降りてきたステキな歌詞を書き綴るようにな。だが変なコメントしか無いってことは、イコール、オレも困ってるってことだぜ!」
「困ったな、それは……ならオレがやるしかない!」
オレは適当に「Q」という文字を思い浮かべた。役に立ってくれ、というか立ってくれなきゃ困る……!




