第一話 キャラ設定はしっかりと①
「いけなーい。ちこくちこく!」
その日、俺は入学式だというのに寝坊してしまい、急いで学校に向かっていた。
口には朝食を食べる暇がなかったのでパンを咥えている。
後は全速力で学校に行くだけ!
「大河内様、なにしているのですか?」
「恋愛を楽しむための心構えだ」
「それが、ですか?」
大也の驚きはもっともだ。
よく、恋愛マンガの始まり方などの話題でこんなシチュエーションを例に出すが、実際にこんな始まり方をするマンガはほとんど見たことが無い。
それに恋愛マンガでのプロローグは大体がキャラたちの設定紹介をベースにしたものが多い。
だが、これをしたことにより、自分の恋愛を楽しむ気構えを整えたのだ。
「これは様式美だよ」
「は、はあ」
「まあ、これがファンタジーの世界でのみ許されることは分かっている」
「いえ、その」
何か聞きたいことがあるのだろうか。
「言いたいことでも?」
「あ、はい。まだ日も登り切っていないこんな時間で、遅刻も何もないだろうな、とか。曲がり角でぶつかるまでがシチュエーションの一環なのに、とか。色々言いたいことはありますが、一番に聞きたいことがあります」
「なんだい?」
「なんで、女子の制服なのですか?」
何だそんな事か。
「男がこのシチュエーションを実行しても意味がない。女子高生がやるからかわいいのだ。それに、俺は自分のスタイルを理解している。かっこいいというよりは美しい寄り、王子様タイプの顔だ。そういう顔の奴は大概女装しても美しいものだ」
「ご自身の容姿を十分理解しての女装だったのですね」
大也は背を向けて大きく息を吸う。
「手に負えねえ!」
うん。
やっぱり彼には素質がある。
ツッコミの良いキャラだ。
「さあ、学校に行こうか」
「え!? 着替えないのですか!」
「この格好も一興かな、と」
こんな綺麗な女子が男なわけがない。
そんな固定概念がある中で、次の日にはその女生徒が男の恰好で登校したときの男子生徒どもの絶望の顔。
うん、いいね。
「本当にいいのですか?」
「なぜ?」
「だって、恋愛したいの、でしょ?」
「いや」
「そうなの、ですか」
そうか。
こいつは勘違いしているようだ。
「残念ながら、俺は恋愛をしない。いや、してはいけないのだよ」
「え?」
「俺には婚約者がいるから。恋愛をして恋人ができようものなら、その恋人にも婚約者にも不義理だからね。恋愛を楽しむのなら見る専門になるんだ」
「でも、なんで、そんな奇天烈な考えになるのですか?」
「それは友人キャラを目指しているからだよ」
恋愛を楽しんで見るなら友人キャラになるのが一番だ。
どの恋愛マンガにも主人公を助けたり、魅力を引き出す身近な存在だ。
そして、誰よりもヒーローとヒロインのイチャイチャをニマニマするのが友人キャラだ。
「友人キャラに、俺はなる!」
「設定過多でキャラ崩壊しかけてますよ」
「大丈夫、金持ちや天才といったありふれたキャラは封印するから」
キャラ被りはいけない、絶対。
さて、そろそろ準備しないと。
俺は茂みに隠れると眼鏡をかけた。
「大河内様、何しているのですか?」
「ああ、設定レベルを測っているのだ」
「設定レベル?」
「ほれ、もう一つあるからこれをかけてあの女子生徒を見てみろ」
体躯会系Lv3
女子力Lv3
恋愛Lv1
「なんですか、これ?」
「俺が作った設定レベルスカウターだ。見た人間の設定レベルが分かる」
その昔、大学でキャラ被りを食らった俺は自分の立ち位置を見失い、絶望を感じていた。
そんな時に開発したのがこのスカウターだ。
だが、大まかな内容までしか分からないので、友人キャラになる際はもっと踏み込んでいかないといけないのだが。
それは後々考えよう。
「これで、ヒーロー、ヒロインになりうる人間を探すのだ」
「もう、付き合ってられません」
人間皆それぞれの考えがある。
その中で、お互いが理解できない思考も少なくはないだろう。
今回のヒーローヒロイン探しが俺と大也のそれであったのだろう。
辛いのなら一緒にいる必要はない。
「そうか、今まですまなかったな。先に行ってもらって大丈夫だぞ」
「そうします」
そう言うと大也は先に校舎の中に消えていったのだった。
私はスカウターで設定レベルを確認しながら一人ひとり生徒を見ていくが、高レベル設定のレベル7以上の設定レベルを持つ生徒がいないな。
「きゃー!」
悲鳴が聞こえる方を見ると可愛らしい女の子が男子生徒に絡まれていた。
どれどれレベルは。
美少女Lv7
女子力Lv10
ドジっ子Lv10
何だと!?
最高レベルが二つも!
これはあれか?
物語の始まりのシーンなんだよな!
さあ、来い、しゅじんこおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
「ねえ、名前だけでも教えてよ」
「や、やめてください」
「後輩になる子と仲良くしたいだけなんだよ」
「私は仲良くなるつもりなんてありません」
あれ?
来ないな。
それにしてもあの男子生徒はナンパのつもりなのだろうか。
ここまで脈が無ければ普通は諦めてもいいものなのだが、おバカなのかな。
時間的にまだ早いせいか助けてくれそうな生徒も教員も来ない。
全く、怠慢だよ主人公候補諸君。
ここは仕方ない。
「やめないか、その子が嫌がっているだろ」
「は? って、え?」
「なんだよ。って、うそ」
仕方なく俺が出たのだが、男子生徒が俺を見て言葉を失う。
何か変だっただろうか?
「「スゴイ美女」」
ん?
そんな女性がいたかな。
まあ、それは後で設定レベルを確認するとして。
「彼女が嫌がっているだろ。男なら紳士であるべきだ。ナンパをするなとは言わないが、引き際はわきまえるように」
「「は、はい。すみませんでしたー!」」
声を合わせて男子生徒は逃げるのだった。
男としては残念だったが、いいモブキャラだ。
それより。
「大丈夫かな、お嬢さん」
彼女は目を大きくしながら、驚いている。
顔も赤いし、もしかして怪我とか。
「お、お姉さま」
……
…………
………………
……うん?
あ、俺か。
二日続けて投稿できました!
まあ、二話は行くよね。
うん。
三話目も頑張ろう。
出来る限り。
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