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第7回 覆面お題小説  作者: 読メオフ会 小説班
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魔法少女フォーチュンさくらの災難

 私は橘さくら。健康が取り柄のごく普通の高校三年生だ。ひとつだけ普通の人と違うのは、実は魔法少女ってこと。ただ、お馴染みの日曜朝の魔法少女アニメと違って、あんなに毎週のように変身して戦ったりはしない。大体年に二回から多くても四回程度かな。私が魔法少女になって、かれこれ三年が経つけれど、敵と戦ったのは十回も無い。年に二回の定例イベントがあって、あと数回あったり無かったり。

 そしてその年に数える程しか無い定例イベントの一つが今日、二月十四日だ。


「あーあ、前回からまだ二ヶ月も経ってないのに」

 朝の通学路を歩きながら、ついつい愚痴がこぼれ落ちる。私にとって変身は極力避けたいイベントなのだ。

『毎年のことだっぴ。さくらもいい加減に慣れるっぴ』

 右肩に吊り下げた学生鞄からつっこみが返ってきた。正確には鞄の持ち手にぶら下がるぬいぐるみ。見た目はキューピッドをアニメ調にデフォルメしたようなキャラクターだ。一見するとただのキモカワ系ぬいぐるみだけど、実はこいつ、魔法少女ものにお約束のマスコットなのだ。名前はマッピィ。本人いわく、世界の調和を保つために天界から遣わされた精霊で、私に魔法少女なんて厄介な属性を付け足した張本人だ。

「あのねえ、去年と今年とじゃ事情がまるで違うでしょ。私は絶賛受験生なんですけど」

 共通テストが終わって本丸の入試日程が目前に迫っている今、変身して敵と戦っている余裕なんて一ミリも無い。

『ふ〜ん。人間って大変だっぴ』

 イラついた私は電柱に軽く鞄をぶつけた。情けない声をあげてマッピィは沈黙した。

 私は重い足を引きずって学校へと歩を進めた。



 教室に入ると想像通りの空気が私を出迎えた。女子はお互い牽制するように目配せ、男子は男子でやたらそわそわと挙動不審。あんまり刺激しないように気をつけようと思っていたら

「あー、糖分は脳に必須の栄養分だからな。先生はチョコとかいいと思うぞ!わっはっは」

 担任がホームルームの終わりにそんな余計なことを言うものだから教室の空気が一気にピリついた。

「ねえ、さくらは誰かに渡すの?」

 隣の席の島田あかりだ。この手のイベントごとは全力で乗るタイプ。

「さあ、どうでしょうかね」

「えー、なにそれ。照れなくていいのに」

「別に照れてないし」

 島田は年末に別れた彼氏のことは振り切れたようで、近頃は「バレンタインが勝負!」と意気込んでいた。狙っているのは同じクラスの細谷。サッカー部のエースを張っているスラっとしたイケメンだ。今はフリーらしいので狙っている女子は多そうな印象。

 高校三年生のこの時期は自習がメイン。それでも休み時間のトイレ休憩や、昼休みの食堂から帰るたびに、机の中を確認して一喜一憂する男子たち。女子は女子で時間が進むごとに張り詰めた表情をしたり、一仕事終えたような晴れやかな表情をしたり。


 あっという間に放課後になった。

 私たち受験生は当然部活動も無いので自習をしたい人以外は特に学校に残る理由は無い。机の上でお店を広げて積みあがったお菓子を見て満足顔をする者、項垂れていそいそと帰り支度をする者、悲喜こもごもの光景が見られる。

 私は頃合いを待つ。

『さくら! 気配が強くなっているっぴ! えーと、一階の西側だっぴ』

 マッピィが緊迫した調子で直接脳内に語りかけた。

「はいはい」

 私は不承不承重い腰を上げた。

「あれ、さくら、もう帰るの?」

 晴れやかな表情の島田が聞いた。この様子だと目的は果たせたらしい。なんか、すごいなって素直に思う。

 私は中途半端に開いたままになっていた学生鞄のファスナーを締めて、立ち上がった。

「私の本番はこれからだから」

 島田は何を勘違いしたのか目を輝かせた。

「そうなんだ!グッドラック!」



 コツコツと私の足音が一階の廊下に反響する。

 チリチリとした嫌なオーラが充満したこのエリアは不自然に人気が消えている。これから起きる出来事は、極力人目に触れさせたくは無いので私としては好都合だ。

 思えば何度やっても慣れることがないこの仕事が始まったのは三年前のちょうど同じ日だった。中高一校の私たちは受験とは縁遠くて、バレンタインデーで浮かれていた。そんな中、同じクラスの一人が暴発したのだ。


『クソがァ!てめえらいい加減にしろよォ!!なんで誰もチョコくれねえんだよ。義理でもいいんだよ。畜生なんなんだよ俺の人生』


 口汚く罵り、机を持ち上げて暴れまわっていたのはクラスの中でも目立たない男子生徒だった。普段友人がいるようにも見えず、休み時間には机に突っ伏しているか、いつの間にかふらりと消えて、いつの間にか戻っているようなやつだった。

 突然の豹変に、クラス中がどよめく中、私だけは違うものを見ていた。

 彼の身体を包む、どんよりとしたくらい粘性の靄のようなものが私にだけは見えていた。

『君はあれが見えるのっぴ?ようやく見つけたっぴ!』

 そう叫んでどこからともなく現れたキューピッド風のぬいぐるみ。

『よかったっぴ。ようやく適正者が発見できたっぴ。僕は天界から遣わされた精霊マッピィ。きみ、僕と契約して魔法少女になってっぴ!』

一般的なリテラシーがあったらこんな言葉に同意するなんてあり得ない。けれど世間知らずで暇を持て余していた私は深く考えることもなく契約をしてしまった。そして今に至る。


 光が強くなれば影もまた濃くなる、とマッピィは私に説明した。

 バレンタインデーで浮かれた気分が街を満たす一方で、浮かれることが出来ない人々の負の感情もまた膨れ上がる。その負の感情が固まり、無作為に選ばれた依代を得て顕現し災厄を振り撒くのが『ルサンチー』という哀しき怪物だ。

 ちなみに二ヶ月前の定例イベントはどうかと言えば、当然十二月二十四日のクリスマスイブだ。午後九時からの数時間は、一年でもっとも負のエネルギーが蓄積される時間帯なのだ。


 一階の廊下の西の端、生徒指導室前に到着した。私にだけ視認可能などす黒いオーラが染み出ている。

 扉を引いて足を踏み入れた。

 散乱した書類、転がる机と椅子。床に横たわる男、そしてその隣に腰を下ろすもう一人。

 倒れ伏しているのは生徒指導の石川先生だ。長身で彫りの深い渋めのイケメンで、一部生徒に熱狂的な人気がある。実際に私の友人の一人も石川先生にお菓子を渡すと息まいていた。いつも丁寧にセットされた頭髪は無惨に乱れ、鼻血を垂れ流して昏倒している。

 そしてその隣、部屋の中央にはこちらに背を向けて座り込み、一心不乱に何かを貪っている男子生徒がいた。座っていても分かるほどに横にも縦にも大きい。部屋を満たす靄はこの背中から滔々と湧き出している。私はその背中に問いかけた。

「お取り込み中に悪いけど、こっち向いてもらっていいかな」

 びくんと反応し、ゆっくりとその体が向き直る。太い胴回りと同じように肉付きのいい顔に眼鏡、飾り毛の無い髪型。口元は恐らく石川先生から強奪したであろうチョコレートで茶色く汚れている。知っている相手だ。

「大田原くんかー。嫌な役任されちゃったね。お互い様だけど」

 隣のクラスの大田原くんと個人的な関わりは一切ない。すれ違っても挨拶すらしない、ただお互いに名前を知っているだけの間柄だ。交友関係が被っているわけでもないので個人情報はあまり持って無い。えっと、幼少期から身体が大きくて力が強かったからわんぱく相撲で活躍していたとかは聞いたことがあるような。


『くそが。なんだよ。教師の癖に女子からお菓子もらいやがって。なんで教師がもらえて俺がもらえねえんだよ。おかしいだろ。教師と生徒って犯罪じゃねえのか。淫行で通報するぞ。受験生の癖に浮かれてんじゃねえよ。学生の本分忘れやがってお前ら勉強しろよ。ていうかメディアに踊らされてて恥ずかしくねえのかよ。あとてめえらはよってたかってひょろい男ばっかりをもてはやしやがって。おれらみたいな太めの男に人権はねえのかよ。』


 ぶつぶつとリバーブの掛かった声で支離滅裂な怨嗟の言葉を吐き続ける大田原くん。一応言っておくと、これは必ずしも大田原くんの純粋な心情の吐露というわけじゃなく、街中のネガティブな感情を吸収したごった煮状態の滅茶苦茶な精神状態で吐かれている言葉だ。数千人規模の怨念が彼の口を借りて話している。だから無作為に悪意に憑りつかれた彼はただの被害者だ。すごく不本意だけど、曲がりなりにも魔法少女の看板を背負う私は、こんな状態になっている人を放ってはおけないのだ。

『さあ、さくら。お待ちかねの変身だっぴ! 準備はオッケーっぴか?」

 意気込んで私を急かすマッピィ。私が待ち焦がれていたような印象操作はやめて欲しい。

「あー、もう。いいから。なるべく早く終わらせる」


 私のゴーサインをトリガーにマッピィがその権能を解放する。ルサンチーが負の感情『アンハッピーエナジー』で出来上がるなら、魔法少女は幸せな感情『ハッピーエナジー』を力として闘う存在だ。天界より遣わされた使者であるマッピィに与えられた権能とは、人々のハッピーエナジーの強制的な収奪権だ。街中の浮かれたハッピーエナジーを瞬時に吸収し、眼が眩むほどの光の塊となったマッピィは、携えた弓を引き絞り、私の胸に光の矢を放った。


 円柱形に立ち上る七色の光が私を包み込むと同時に服が魔法の力で剝ぎ取られ、光の一色一色が私の身体の各部位を覆い、マジカルでファンシーな衣装に換装される。ハッピーエナジーは人々のその瞬間の感情が乗せられていて、季節折々の特色があるので、コスチュームにも季節性が現れる。前回は赤白緑のクリスマスカラー。今回はピンクとブラウンを基調としたバレンタインエディションといったところ。

 そして、雪崩を打ってハッピーエナジーが私の体内に流れ込む。身体の隅々にエネルギーが満ち溢れ、湧き上がる力の奔流が猛り狂う。フルスロットルで分泌されまくるドーパミンとエンドルフィンがもたらす多幸感と全能感が私の脳髄を痺れさせる。その抗いようの無い快感に塗り潰されていく私の自意識が小さく悲鳴を上げた。

 ああ、やめていやだいやだいやだ!いつものあれが来てしまう。

 情緒がぶっ壊れる。



 きゅっるるーん。

 なんて素敵な気分!

 目に映る全てがキラキラに輝いて見えちゃう。

 バレンタインデーの甘くて香ばしいビターなハッピーエナジーに包まれて最高の気分。みんなのハッピーな気分のおかげで私もミラクルハッピー!

 あは!ルサンチー化した大田原くんは変身した私を見てビックリ顔をしてる。

 ここは格好付けないと。なんたって一年に数回の貴重な晴れ舞台だもん。

 えいやっと軽くジャンプして渾身のダブルピースのポーズで決め台詞。

「フォーチュンさくら見参!」

 きゃー、決まっちゃった!

 おっといけない、いけない。いつまでも浮かれてちゃいられない。

 私は努めてまじめな表情を作り、大田原くん相手に見得を切る。

「大田原くん、いいえ、ルサンチー! 貴方の哀しいフラストレーションは私が発散させてあげる。さあ、眼鏡を取りなさい。貴方を失明させたくないから!」

 私の忠告なんてお構いなし。うなり声をあげて突っ込んでくるルサンチー。うーん、仕方ない。ボディを攻める!

 闘牛士さながらの突進をひらりと躱し、振り向きざまにガラ空きの脇腹目掛けて

「マジカルミドルキーック!」

 ルサンチーの身体が大きく揺らいだけれど……、ありゃりゃ、会心の一撃だったのにこの感触。分厚い脂肪の下の大きな筋肉と強い体幹がばっちり感じられる。バックボーンの相撲は伊達じゃない。相撲の立ち合いはお互いのおでこに1トンの衝撃があるって言うし、仮に眼鏡の無い顔面に必殺のマジカル正拳突きを叩き込んでも効果は怪しそう。

 体勢を立て直してルサンチーが攻めに転じる。低い姿勢から繰り出されるのは突っ張り!

 ボクサーのジャブばりの速度で繰り出される突っ張りは彼のウェイトを考えればありえない速さ。これもアンハッピーエナジーで強化されたルサンチーの力だ。あわわ、一発でももらったらKOされちゃいそう。

 でも大丈夫!

 いくら相撲が強いからってやりようなんていくらでもあるんだから。元横綱がK-1でまったく通用しなかった(※1)理由を教えてあげる!

 ハッピーエナジーを脚部に全集中。紙装甲の超高機動型キッカーにフォームチェンジ!当たらなければどうということもないんだから。

 マシンガンのように繰り出される突っ張りをダッキングやスウェーを駆使して躱す。彼我の速度差は歴然、前髪を敢えて掠らせるほど余裕を持って私は猛攻を潜り抜けた。

 さあ反撃開始!

 お相撲さんの弱点は、やはりその大重量を支える脚だ。でも丸太のような太ももを蹴っても私のパワーじゃ効果が薄いのは当然。それなら狙う場所はただひとつ。

 左脚のふくらはぎを目掛けて私は渾身の蹴りを放つ。

「必殺!マジカルカーフキック(※2)!!」

 右手の突っ張りの余韻でどっしりと体重が掛かったふくらはぎにカーフキックがジャストミート!膝から下の部位は脂肪も筋肉も付きづらくてダイレクトに攻撃が芯に届いちゃうのだ。

 効果は抜群、ルサンチーは体重の支えを失って膝をついた。

「決まり手はえーっと、マジカル蹴手繰り(※3)ってところかな!」

 もちろんこれは相撲の取り組みじゃない。

 膝をつきながらもルサンチーは唸り声をあげて私を睨む。

 その消えない闘志に私の背筋がぞくぞくと泡立ち、ノルアドレナリンの分泌が加速する。

「いいよ、どこまでも付き合ってあげる。私もまだまだ消化不良だし!」

 だって、この先いつまた変身して暴れられるか分からないんだから、精一杯この時間を楽しみたい。



 数分の戦闘の後、ルサンチー化が解けた大田原くんが横たわっている。

 私の変身も解けている。

 私の心身をはち切れんばかりに満たしていたポジティブ感情が風船から抜ける空気のように霧消している。街中のハッピーエナジーを取り込み、幸せ気分であっぱらぱーだった私は、反動で急激な離脱症状を発症した。元の状態に戻るだけと思うかもしれないが、数千人分の幸せな感情が飛び込んできて、そして一気に抜けていくこの感情の落差たるや、まるで情緒のジェットコースターどころか大気圏からのフリーフォールだ。そして何よりも、先ほどまでの情緒ぶっ壊れの醜態を演じていた事実が私を打ちのめす。


 ぶっ倒れていた大田原くんがのそのそと身体を起こす。

 先ほどまでの私とのバトルで、大田原くんは左ふくらはぎの筋断裂を始めとして全身の打撲と脳震盪という、割と満身創痍な状態だったのだけど、ハッピーエナジーの余剰分を使ったマッピィの魔法治療によってすべてが完治している。

「あれ……、僕は一体。え、橘さん?」

 そしてなんとも都合のいいことに、魔法記憶操作によってルサンチー時の記憶まで消去済み。私の投身自殺ものの醜態は闇の中に封印されている。魔法って本当にすごい。

 呆然とした表情でへたり込んでいる大田原くんを見て、私はやりきれなくなって彼の前にしゃがみこんだ。

 先ほどまでの不動明王のような表情から一転、いつも通りの覇気の無さそうな顔に戻り、泳ぎがちな目でちらちらと私を見ている。

「はい、よかったらこれ貰っといて」

 鞄の中を漁って、昨日デパートで仕入れた包みを渡した。状況が分からず目を白黒とさせている大田原くん。

「別にあんたのために用意した訳じゃないから勘違いしないでよね」

「えっ……」

 図らずもツンデレのテンプレセリフを言ってしまったけど、実際本当に大田原くんのためじゃない。

「ま、気が向いたらお返しよろしく」

 返事を待たずに私はその場を後にした。



 肉体と精神の疲労がピーク状態の私は下校路を脚を引きずるように歩く。先ほどまでのどん底メンタル状態からは徐々に脱しつつある。こういうメンタルの回復の早さも私の長所だ。

 気の進まない定例イベントはこれでおしまい。次の機会があるとすれば夏。警戒すべきは夏祭り、BBQに花火大会。ここら辺はあったりなかったり。とりあえず数ヶ月の安寧は約束されている。まあ、私の受験はこれからが本番なのだけど。

 ルサンチーを祓ってご機嫌な様子のマッピィがふと私に問いかけた。

『チョコレートを渡していたけど、さくらはああいう男子がタイプっぴ?』

「違うよ」

 断然細身が好き。

『好きな人はいないのっぴ?』

「いるよ」

 全然、普通に。乙女ですので。

 本当は渡したいのに渡せない意気地なしの私のフラストレーションが、大田原くんのルサンチー化にひと噛みしていたのは間違いない。考えてみれば自分たちのネガティブ感情を一手に背負わせてルサンチーにさせたうえで、しばき倒すなんてマッチポンプもいいところ。大田原くんは泣きっ面に蜂どころじゃない役まわりだ。

 まあ一番悲惨な目にあっているのは、何も悪くないのに暴行された挙句お菓子を貪られた石川先生のような気もするけど。ちなみに石川先生の怪我は治療済みで、記憶も消去しているので大田原くんの暴行や私の魔法少女姿について知る者は私以外に誰もいない。魔法って本当に便利だ。

 それはそうと、せっかくあれだけうじうじ悩んで買ったチョコレートは、行き場をなくした結果、ルサンチーの一味ながら、蜂ポジションを演じた私の罪悪感隠しの小道具になってしまった。

『ふーん、人間って複雑っぴ。大変だっぴ』

 めずらしく労りが籠った言葉に私の心も少しほぐれる。

「そうだよ。大変なんだよ。だから早く後任見つけて引退させてよ」

『さくらを超える逸材はなかなかいないっぴ』

 もう法律上は成人しているのに魔法少女なんて看板は重すぎる。大学に入って二十歳になって、それからもっと先まで解放されなかったらどうしよう。私の考えを読んだマッピィは名案を思いついたとばかりに叫んだ。

『そうだっぴ。その時は魔女って名乗ればいいっぴ!おばさんになってもおばあさんになっても通用するっぴ!』

 イラついた私は朝の時よりも強く、鞄を電柱に叩きつけた。マッピィはやはり情けない声をあげて沈黙した。

 急に静かになった通学路を歩き、一人思いに耽る。

 こんな私にもいつか彼氏ができたりして、晴れやかな気持ちでバレンタインやクリスマスみたいなイベントを楽しめる未来があるのかな。いや、しばらくは見込めそうに無い。

「チョコレート、大田原くんになんかあげなきゃよかった」

 苦々し過ぎる未来予想図にうんざりして、私は理不尽な恨み言を小さく呟いた。



おしまい


(※1)ハワイ出身の某第64代横綱。2003年大相撲を引退後に突如K-1転向を表明。10戦1勝9敗という衝撃的な戦績を残した。

(※2)膝より下の筋肉の少ない部位を狙った蹴り技。脚に体重が乗っていれば乗っているほど受けるダメージが大きくなる。下半身への蹴りは即効性に欠くイメージだが、上手く入れば一撃で劇的に戦闘力を削ぐ。

(※3)相撲の決り手のひとつ。立合いの際に相手の足を蹴り、相手の手を手繰って倒す技。 実際は手繰らずに蹴っただけでも相手が落ちれば決まり手として認められる。


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