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第7回 覆面お題小説  作者: 読メオフ会 小説班
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バレンタイン・デーにおける変愛物語の生成についての一考察

論文タイトル:バレンタイン・デーにおける変愛物語の生成についての一考察――CritiqueとEtiquetteのある理論の構築を目指そうと頑張ってみた

論文投稿者:甘虹かんこう 木苺きいちご

桃郷とうきょう大学世界観察学部准教授)


序論

 太陽系史の誕生からあらゆる生命は、自身の存在を生物的複製に行ってきた。本稿では、太陽系史に登場するいくつかの生命体(ヒト科ヒト族ヒト属、重力族重力人間属物質変換装置付き)について、地球標準年における2月14日に発生する物語について考察する。地球標準年の2月14日は1地球標準年において文化的、社会的、生物的特異点的出来事であるバレンタイン・デーが催される日である。この特異点的出来事を詳細に考察することで、太陽系史に登場する生命体の生物的複製とその背景の物語の生成について、理論的に構築し、バレンタイン・デーの言説について新たな語り口を提供することとなると思われる。

 なお、本稿における長さや重さ、時間の単位は地球標準(All Earth Standard, AES)に統一する。


第一章 ヒト科ヒト族ヒト属の場合――性的かつ非性的関係の頽廃性について

 地球上のヒト科ヒト族ヒト属(以下、人間という。)を数える研究所(ICOUNTYOUアイ・カウント・ユー)によると、2022年の世界人口は80億人を突破し、減少傾向にあることを報告している。同研究所によると11月21日に誕生する子供たちが毎年増えていて、分析によれば2月14日の行動が起因となって11月21日を生誕日とする子供たちが多いという。この章では、人間の2月14日の行動とそれを誘発する言語的行為を分析したい。

 人間の口語的・電子的情報伝達の事例をまとめた文献(『社会的人間の発話による情報交換の具体事例集』(大学出版会、MMXII)、『既読無視されたメッセージ事例集』(独身パブリシャー、MMXIV)等)によると、2月14日が週末のとき、その数日前の平日の特に夕方から夜間の時間にかけて「今週末はひま」というフレーズ(文言)のやり取りが頻繁に行われている。高度に成長した現代資本主義社会において、土曜日ないし日曜日は週末と定義されており、各人が公的・私的・法的に休みをとることが認められている。一般的な人間である筆者も、週末は小説――いや、論文の執筆に勤しんでいる。週末は学校・会社・病院・百貨店が休みとなり、多くの人間は週末を利用して月曜日から企業戦士をして行動するために英気を養っている。

 「今週末はひま」というフレーズは2月14日が週末となることに高い期待感を表していると理解される。ちなみに、筆者の調べによるとおよそ6年の周期で2月14日が週末となり、2023年2月14日が火曜日の時、同月同日が土曜日となるのは3年後の2026年であり、日曜日となるのは4年後の2027年である。およそ6年の周期で2月14日が土曜日ないし日曜日となる(筆者調べ)。

 「今週末はひま」というフレーズを、言語分解的解釈を行った時、2通りの意味がある。第一の意味は、前述のとおり2月14日が週末であることに高い期待感をしめした意味であり、これ以上の意味はない。一方で第二の意味は、「ひま」を人名と解釈する場合である。実際に『既読無視されたメッセージ事例集』(独身パブリシャー、MMXIV)を参照すると、以下のような事例が紹介されている


A >「今週末はひま」

B >「あなたのワイシャツから嗅いだことのない香水の匂いがするんだけど。それにジャケットのポケットからは私がずっと行きたかった高級中華レストランのレシートが出てきたし、レシートをよく見ると2名になっている。最近帰りが遅いのはなぜ? どういうこと? あなたの鞄から知らない女性の写真が出てきて、裏に「ヒマ」と書いてあるんだけど、この女、ヒマっていうの? かわいいね、こういうのがタイプ?」

A >「今週末、弁明、させてください・・・」


 上記の事例は、二人の男女の間で行われたメッセージアプリの文章である。夢と恋を体系的にまとめ、攻略本として出版された『夢恋夜説』によると、上記の事例はいわゆる「修羅場」と定義されるものである。なお、『夢恋夜説』の筆者である夏目ニヤンせき氏は、裏切った恋人からもらったチョコレートを食べながら攻略本を執筆したことは周知の事実である。

 筆者はこの「週末はひま」というフレーズに別の切り口を見いだしたいと考えている。このフレーズには遠慮(=リフレイン)が含まれていると理解する考えである。人間の2月14日までの行動を一般的に解釈した時に、人間は2月14日を目標にさまざまな贈り物を準備している。週末はその贈り物を購入したり、制作したり、譲渡したりするため、週末を自由に過ごすことができないことを示している。つまり、「週末はひま」というフレーズは言外に「忙しい」と言っていて、具体的に週末にチョコレートづくりを行うことを言っている。チョコレート以外をつくるかもしれない。


第二章 重力族重力人間属の場合――二人の間に発生する重力的現象によって生み出される食品の変化について

 重力族重力人間属(以下、重力人間。)とは、超高度重力の中心部に発生する知的生命体である。その知能指数は地球標準のヒト科ヒト族ヒト属を1とした時、同程度とされている。一部の重力人間には、物質変換装置を所持している。この物質変換装置とは、重力人間の重力拍動数ないし重力流通量によって作動し、任意の物質を変化することができる。(人間でいう重力拍動数とは脈拍数、重力流通量とは血流のことである。『重力人間とは』(アウタースペースボヤージ、MCMLXXXVII)参照。)

 2月14日における重力人間の行動について、DOKU2023在住の重力人間である杉村氏が詳細な報告を残している。2月14日当日、杉村氏は恋心を抱いていた後輩の女性からチョコレートを貰った。その時、自身の重力拍動数及び重力流通量が上昇し、物質変換装置が作動した。物質変換装置の作用により、貰った通常のチョコレートはメルティー・チョコレートに変化した。しかし、女性は杉村氏の好意に気づいていたものの、そのチョコレートはあくまで義理であげたものであるため、彼女の物質変換装置はメルティー・チョコレートをメルティー・ビター・チョコレートに変化させた。

 後日、筆者は杉村氏から物質変換装置で変化されたメルティー・ビター・チョコレートを食べてみた。溶けた苦いチョコレートだった。(杉村氏は晩年までそのチョコレートを大切に保管していた。)

 この杉村氏の報告から重力人間は物質変換装置で生成されたものから、本人の感情を推測することができる。


結論

 本稿では、二つの生命体、人間と重力人間の物語を分析したことになっている。第一章では、「今週末はひま」というフレーズの中には複数の意味があり、それは「ひま」を人名とする考えから、2月14日は「忙しい」ことを言い表している遠慮の表現まで幅広く存在する。第二章では、重力人間である杉村氏の報告に着目した。本稿では物質変換装置の仕組みについて詳細に論じていないが、物質変換装置で生成されたものを観察することで重力人間本人の感情を理解することができる。ちなみに、メルティー・ビター・チョコレートはおいしい。


謝辞

 本研究は以下の創作者のみなさまの存在があって完成したものである。なお、筆者は以下の作品は一切読んでおらず、これらの作品への明示的・黙示的な言及はすべて筆者の妄言と妄想によるものである。チョコレートやバラといったバレンタイン・ギフトは以下の創作者のみなさまではなく、本稿筆者に投げつけるべきである。


『リフレイン』の作者

『夢恋夜』の作者

『今週末はひま』の作者

『杉村亨の恋愛』の作者

『メルティ・ビター・バレンタイン』の作者

『虹』の作者

『甘い熱』の作者

『ラズベリー』の作者


※ ※ ※


「発表は以上となります。ご清聴ありがとうございました」

 左手に持っていたハンドマイクのスイッチを親指で切る。

 一拍置いたところで、ステージ前のフロアが怒号に包まれた。ステージに向かってバラやチョコレートが投げ込まれる。後片付けをする事務局が大変だな、とぼんやり思っていたところ、顔面に向かって小さな箱が飛んできた。すんでのところでそれを捕まえ、中身を見ずにジャケットのポケットに仕舞う。人前で顔面に小箱を投げつかれる醜態をさらすことを防げた。

 ステージの手前を見下ろすと、司会役の大学院生がおろおろしていた。仕方がないので、怒号が少し落ち着いたところでマイクのスイッチをいれる。

「まだ時間が少し残っていますので、質疑応答の時間にしたいと思います」

 一瞬でフロアが鎮まる。フロアの中央当たりで白いひげを長く伸ばした男性が立ち上がった。確か、彼は「自由恋愛研究会」の会長を務めていた。いや、元会長だったかもしれない。

「発表ありがとう。一言だけ言わせてもらう。これは恋愛物語ではなく、変愛物語だ」

 フロアはまた怒号に包まれた。


 質疑応答を終えてステージから飛び降りる。出入口で何人かの知り合いの研究者に挨拶をしてから講堂を出た。

 ジャケットのポケットから投げつけられた小箱を取り出す。

「ゴディバのチョコレートだ」

 包装紙を剥がし、高級な四粒のうち一粒をつまんで口に放り込む。

「チョコレートはうまい」

 研究発表で今日一日つぶれたけど、2月14日も悪くない。

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