文学サロンミッションその一:カカオ100%チョコレートを作れ
JOJO氏のエラリーシリーズの設定を勝手に使用しています。
ご容赦ください。
設定を拝借していますが、作品としては独立しています。
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主要人物
九院偉理衣:くいんえらりぃ。エラリーと呼ばれている。文学サロンには子供のときから通っている。大学生。
愛内利理衣:あいうちりりぃ。リリーと呼ばれている。エラリーのことを「お姉さま」と呼び愛しすぎている。高校生。
愛新覚羅凜華:あいしんかくらりんか。エラリーの高校時代の同級生。現在は実家の熊猫飯店で料理人修行中。
愛新覚羅星燐:あいしんかくらせいりん。凜華の姉。超一流中華レストランのシェフ。
J会長:文学サロンの管理人。
「お姉さま、バレンタインデーはどうやって過ごします?」
リリーが上目遣いで聞いてくる。
「そうね……甘い物を食べたりして甘々な日にしちゃおうかしら?」
エラリーは少し照れながら返す。
エラリーとリリーは文学サロンに行く途中で、今年のバレンタインデーをどうやって過ごすか相談している。エラリーとリリーの仲はどういったものかは読者のご想像にお任せしたい。
文学サロンに到着すると
「エラリー、リリー待っていたよ」
J会長が出迎えてくれた。
「何かご用ですか?」
エラリーが問いかける。
「今度のバレンタインデーなんだけど、文学サロンでチョコレートを販売しようと思って、エラリーとリリーにやってほしいんだ」
いきなり無茶振りをされる。
「バレンタインデーはお姉さまと過ごす予定なんです~」
と、リリーは断ろうとする。
「まぁまぁ、リリー。話だけでも聞きましょう」
エラリーは聞く姿勢をみせる。
「世の中、甘いチョコレートばかりで健康に悪い。カカオ100%のチョコレートを作って、健康的にチョコレートを食べてもらいたいんだ」
健康マニアのJ会長が力説する。
J会長によるとカカオ自体は体に良いのに、砂糖が大量に入っていることによってチョコレートは健康に悪くなるという。砂糖さえ抜かして作ってしまえば健康100%のチョコレートになるのでそれを世の中に広めたいらしい。
「他の文学サロンメンバーにやってもらうのはダメなんですか~」
エラリーと甘いバレンタインデーを過ごしたいリリーは反論する。
「他のメンバーはバレンタインデーに発表する、甘々小説企画で忙しいんだ。エラリーとリリーは小説は書かないだろ?」
文学サロンでは定期的に小説企画がある。エラリーとリリーは読む専門なので小説企画には参加しない。
「わかりました。わたしとリリーでチョコレート作りはやりたいと思います」
エラリーは承諾した。エラリーは現在大学生だが幼少の頃から文学サロンに通っている。J会長にはずっとお世話になっているので、J会長からの依頼は断ることができない。
「お姉さまがそう言うならわたしも頑張ります!」
切り替えの早いのがリリーの長所である。
○
カカオ100%で作るので、なんといっても重要なのはカカオである。
カカオは主に中米、東南アジア、西アフリカなどのカカオベルトと呼ばれる地帯で栽培されている。
カカオを飲料にするとココアになる。アステカの皇帝、モンテスマ二世は一日50杯もココアを飲んでいたという話もある。
カカオはポリフェノールや食物繊維が豊富で体に良い。J会長も毎日摂取している。
ただしデメリットもある。カドミウムの含有量が高いことだ。カドミウムはかの有名はイタイイタイ病の原因となった物質である。健康マニアのJ会長からは、カドミウムの含有量の低いカカオを使ってチョコレートを作ること、という厳命が下っている。
エラリーとリリーは必死にカドミウムの含有量の低いカカオを探している真っ最中だ。
「カカオ選びからやれってJ会長は鬼畜ですよ~」
リリーはカカオ調査サイトを発見して、カカオ選びをしている。
「あ、リリーそこ」
リリーが操作していたマウスの上にエラリーが手を置いて操作を横取りする。
「ここの調査サイト、独自にカドミウムの含有量まで調べているのね。ここをこうして……カドミウム含有量順でソートをすると、熊猫商店が一番含有量が低いみたいね、リリー」
ついにエラリーがカドミウムの含有量が低いカカオを取り扱っている所を発見した。リリーを見ると顔を赤くしている。
「お姉さま、手」
とリリーが言うと
「あ、ごめん」
とエラリーは慌てて手を離す。ずっとリリーの手の上に手を置いてマウスを操作して、PC画面を見るためにリリーと顔も接近していたため、リリーは茹でダコ状態になっていた。
気を取り直してリリーが再び画面を見ると
「ついに見つかりましたね。確か、熊猫商店って」
熊猫商店に心当たりがあるようだ。
「わたしの同級生、凜華の実家がやっている商店だわ」
エラリーが答える。
凜華(初出、JOJO氏作『クリスマス配達人の謎』)は本名を愛新覚羅凜華と言い、エラリーとは高校時代の同級生であり、リリーの先輩でもある。高校卒業後は実家の熊猫飯店で料理人修行をしている。熊猫商店は凜華の父親が料理人を引退後、食材を取り扱う店としてやり始めた。
愛新覚羅、という姓に見覚えのある人は「もしかして」と思っただろうが、中国・清朝の愛新覚羅氏の末裔である。といっても清朝四代皇帝康熙帝愛新覚羅玄燁の子孫と自称しているだけなので信憑性は低いのだが。
しかし幸いにも求めていたカカオが近くで取り扱っているので簡単に入手ができそうだ。
さっそく熊猫商店に赴くと凜華がいた。
「いらっしゃいませ~。あ、エラリーとリリー」
凜華が元気よく出迎える。
「今日は商店の手伝いをやってるの?」
基本的には熊猫飯店の方にいることが多い凜華が、今日は商店の方にいるのでエラリーが疑問に思う。
「そうね~。爸爸(中国語で父)がぎっくり腰になっちゃって、しばらく商店の方をやっているよ。飯店の方は、わたしの代わりに姐姐(中国語で姉)の星燐がやってるね~」
星燐は凜華と十歳離れた姉である。
「えぇ~! 星燐さんがいるの!」
とエラリーが今まであげたことがないような声で驚く。
「どうしたんですか、お姉さま」
エラリーが驚いたことにリリーも驚く。
「星燐さんといえば、世界的に有名な中華シェフよ。フルコースで十万円は超える超一流レストランで働いているのよ。その方が熊猫飯店にいるって」
エラリーが絶句していると
「超一流シェフの星燐が作ってるけど、もちろんお値段はいつもの熊猫飯店のままね」
凜華が営業スマイルを見せる。
「リリー、今すぐ熊猫飯店に行くわよ。星燐さんの料理がお手頃に食べられる機会なんてもう二度とないわ」
とにかく食べることが大好きなエラリーが目を輝かせてる。
「でも星燐がいることが話題になって、熊猫飯店は今大行列中ね~」
「ってさすがにそうよね。あ、凜華の料理もいつも美味しいからね?」
いつも熊猫飯店で凜華の料理を食べているエラリーはフォローする。
「大丈夫大丈夫。わたしも星燐は尊敬しているシェフだからね~。お店が終わったら、特別に二人とも食べに来る?」
あの愛新覚羅星燐の料理を格安で食べられる機会を逃すエラリーではない。
「もちろん行くわよ!」
「わたしも楽しみです~」
エラリーとリリーはキャッキャと喜んでいる。
「ところで二人はどうして熊猫商店の方に来たね?」
本来の目的をすっかり忘れていた。
「忘れていたわ。カカオを買いに来たのよ」
エラリーがやっと思い出す。
「カカオ? 中華食材ならたくさんあるけど、カカオなんてあったかね~。どうしてカカオが必要ね?」
熊猫商店は中華食材は大量に置いているが、それ以外のものを買いに来る客などめったにいない。
「J会長からカカオ100%のチョコレートを作れというミッションが与えられたのよ。それで良いカカオを探していたらどうやら熊猫商店にあるらしくて」
「なるほどね~。探してみるね」
「わたしも手伝います!」
リリーも張り切って探し始めた。
「あー! やっと見つけました。これですかね」
30分ほど探してようやくリリーが発見したようだ。
「カカオニブ、って書いてあるわね。ニブってなに?」
エラリーが首をかしげる。
「なるほど、カカオニブとしてあったのね。中華料理で隠し味に使う人もたまにいるね~」
凜華は一人納得している。
「カカオニブはカカオを細かく砕いたものね。そのまま食べても美味しいよ~」
「へぇ~。J会長からは100人分作れって言われているから、とりあえず10キロくらいもらおうかしら」
「毎度ありね~。お代はJ会長につけておくね~」
「よろしく~」
実はこのカカオニブ、カドミウムの含有量が低いだけあって結構高い。凜華の父親が選び抜いて入荷したものだ。10キロも買うとなると結構なお値段となる。しかしJ会長が支払うことになるのだから問題はない。
「熊猫飯店の方、遅くなっちゃうけど21時には閉店だからその後だったら、星燐の中華食べられるね~」
「楽しみだわ。またあとでね」
「わたしもお腹空かせておきます!」
エラリーとリリーは熊猫商店を出て、文学サロンへと戻った。
「今日はチョコレートの作り方だけチェックしておきます?」
リリーが言った。
「そうね。明日から作り始めればバレンタインには間に合うわ」
調べてみるとチョコレートはカカオニブをすり鉢で潰して、溶かして、固めるだけでできるようだ。
熊猫飯店に行くまで二人で甘い時間を過ごした。
21時過ぎに熊猫飯店へ行くと凜華と星燐が出迎えてくれた。
「初めまして、凜華の姉の星燐です。いつも妹がお世話になっています」
星燐は丁寧に挨拶をする。
「こちらこそいつも凜華とは仲良くさせてもらっています」
星燐の態度に圧倒され、エラリーは恐縮する。
「凜華先輩の料理でいつもお腹いっぱいにさせてもらっています!」
リリーも挨拶をする。
「数年前までわたしも熊猫飯店で修行していたのよ。久しぶりにこっちで料理を作れて楽しいわ。エラリーさんとリリーさんには特別コースを提供しますね。凜華、手伝って」
「はいね~!」
星燐と凜華が料理を作り始めた。
まずは搾菜と餃子が出てきた。搾菜は星燐が自分で作っているお手製のものだ。ほんのりとピリ辛く今まで食べていた搾菜の概念が覆る。餃子もシンプルなものだが皮はパリっと中はジューシーで火加減が絶妙だ。
続いて回鍋肉と八宝菜。この二つの味付けの均整の取り方が憎い。回鍋肉は少し濃い目で八宝菜はあっさりとしている。交互に食べることによって食べ飽きない。あっという間に平らげる。
ここで雲呑スープの登場だ。中華料理は全体的に油っぽい。ここでスープを挟むことによって口の中がリセットされる。雲呑のモチっとした食感とツルっとした喉越しがたまらない。
そしてエラリーの大好物の青椒肉絲がついに出される。ピーマンとタケノコの食感が少し固めで歯ごたえがある。牛肉は筋がしっかり切られているので口の中でとろける。何よりもすごいのは牛肉、ピーマン、タケノコが全く同じでサイズで切られていること。並の料理人では短時間でここまで揃えて切ることなど不可能だろう。
最後は締めの炒飯。中華料理の腕前が一番現れるのは炒飯だ。炒飯を食べることによってその料理人のレベルがわかる。星燐の炒飯はまさに神がかっている。米一粒一粒が油でコーティングされておりパラパラとしている。米の食感は噛みやすく飲めるように炒飯が進んでいく。
お腹いっぱい食べ終わったところで茉莉花茶が提供された。馥郁たる茉莉花の香りが胸いっぱいに広がり、食べ苦しくなった体を一気にリラックスさせてくれる。
最初から最後まで食べる人のことを考えつくした、まさに天才の所業である。
「本当に最高でした」
エラリーは心の底から感動している。
「美味しかったですね~」
リリーも喜んでいる。
「さすが姐姐ね。わたしも勉強になったよ~」
星燐のサポートをしていた凜華が言う。
「喜んでもらえてよかったわ。爸爸のぎっくり腰が良くなったから、明日からわたしはまたレストランに戻ってしまうけど、凜華は熊猫飯店の方をよろしくね」
「はいね~!」
○
翌日、文学サロンでエラリーとリリーがチョコレート作りを始めた。
「お、良いカカオニブが入ったみたいだね?」
J会長が見学しに来て、カカオニブをボリボリつまみ食いし、美味しい美味しいと言っている。
カカオニブを溶かし、型に流し込んで、冷やして固める。
数時間後、ついに完成し試食してみる。
リリーが食べると
「って、にが~~~~~~!!!」
と大声で叫び、ベーベーと吐いている。
「これなんですか!!」
涙目になっている。
J会長とエラリーも試食してみると
「普通に美味しいけど?」
という反応をする。
「二人とも味覚おかしいですよ!」
J会長は普段からカカオ100%のココアを飲んでいるが、エラリーも幼少の頃からJ会長と一緒にカカオ100%のココアを飲んできた。なのでカカオ100%でも苦味を感じなくなっている。
チョコレートやココアが美味しいのは砂糖のおかげなのだ。慣れていない人がいきなりカカオ100%のものを食べると大抵は苦味に驚く。
「こんなもの売れませんよ! 砂糖を入れるべきです!」
リリーがJ会長のカカオ100%チョコレート販売構想に喧嘩を売る。
「せっかくカドミウムの含有量の低いカカオで作っているのに、砂糖を入れたら台無しだ!」
J会長も珍しく大声をあげて反論している。
「もしかしたら作り方が悪かったのかもしれません。もう一度作ってみて良いですか?」
エラリーが間に入る。
エラリーはマインドフルネス瞑想に入って、数呼吸すると
――天上天下唯我独尊・憑依モード発動
――ジョセフ・フライ降臨
エラリーの使う天上天下唯我独尊・憑依モードは霊体を憑依させてその人物になりきることができる。今回憑依させたのはチョコレートを考案したと言われる、ジョセフ・フライだ。ジョセフ・フライが降臨しエラリーは再びチョコレートを作り始めた。
完成し、リリーが試食すると
「って、にが~~~~~~!!!」
と大声で叫び、ベーベーと吐いている。
「チョコレートの考案者を憑依させて作っても変わらないですよ!」
あまりの苦さにエラリーに対して毒を吐いてしまう。
「リリーごめんね」
エラリーはしょぼんとする。
「あ、せっかくお姉さまが作ってくださったのに、わたしこそごめんなさい」
苦味のあまり我を忘れていたリリーが元に戻った。
J会長も試食してみると
「!!! これは、うまい!!」
と驚いている。
「作り方でこんなに味が変わるとは! エラリーも食べてみてくれ!」
エラリーも一口食べてみると
「!!! 美味しいです!」
と驚いている。
「僕だってカカオ100%のチョコレートが一般受けしないことはわかっている。でもチョコレートを健康的に食べてもらいたいんだ。このチョコレートならその夢が実現する!」
「そうですね! わたしとリリーで頑張って売ります!」
エラリーもJ会長に共感している。
リリーがもしかして自分の味覚の方がおかしかったのかと思い、もう一度食べてみると
「って、にが~~~~~~!!!」
どうやら普段からカカオ100%を摂取している人にしか味の違いはわからないようである。
○
バレンタインデー当日。
エラリーとリリーは駅前で売ることにした。作ったチョコレートは100人分。全て売り切るまで文学サロンには戻って来るなとJ会長から言われている。
「こんなの無理ですって」
リリーは最初から諦めムードである。
「そんなこと言わないでリリー。リリーにとっては苦いかもしれないけど、全部売れたら、二人で甘いバレンタインデーを過ごせるんだから」
エラリーはリリーを励ます。
「はぁ~い!」
エラリーとの甘いひとときを妄想して、リリーは甘い返事をする。
あとで苦情がこないようにと、試食もできるようにした。何も知らない人がこれを食べたら絶対に苦情が来て文学サロンの名が落ちてしまう、とリリーが言ったからだ。リリーも文学サロンのことを考えてくれている。
ちなみにチョコレートは「超健康チョコレート」として売ることにした。”カカオ100%で超健康、カドミウム含有量も低くて超安全”を宣伝文句としている。
「超健康チョコレートいかがですか~」
と声をかけはじめると、ちらほらと通りすがりの人たちがやってきた。
エラリーとリリーは誰が見ても美少女である。そんな女の子二人が駅前でチョコレートを売っていたら誰だって気になるだろう。
「ご試食どうぞ~」
と試食を進めると
「うわ」
「にが」
「うげ」
「なんだこれ」
と、せっかくお客さんが来ても試食をするとあまりの苦さに退散していく。
「やっぱり普通の人にとってこの味は無理なんですよ~。お値段も結構しますし」
熊猫商店で買ったカカオニブがそれなりの価格だったため、チョコレートも相場と比べると高めである。
「いくら健康的だって言ってもこの味とお値段で買う人なんていませんよ。あ、いいこと思いつきました!」
リリーは妙案が浮かんだようである。
「わたしの秘蔵のお姉さま写真コレクションを現像してきて、おまけとして付ければすぐに売れますよ」
と、リリーは下卑た目をしてエラリーに提案する。
「バカ。あれはリリーにしか見せてないんだから」
エラリーはリリーの頭をコツンとする。
「そうでした。あれはわたしだけの写真コレクションです。他の人には絶対見せられません」
リリーは反省する。
数時間が経ち、エラリーとリリーという美少女に惹かれて、人はやってくるのだが、チョコレートの試食をすると買わずに逃げるように去っていく。そろそろ日も暮れるが未だに売上がゼロである。
途方にくれていると目の前に女性が立った。
「エラリーさんリリーさんこんばんは。あら、チョコレートを売っているの?」
愛新覚羅星燐である。
「星燐さん。文学サロンのイベントとして売ってるんです」
エラリーが答える。
「試食してもいいかしら?」
「はい。でもすごーく苦いから気をつけてくださいね」
リリーが注意をする。
星燐がチョコレートをかじると
「って、うま~~~~~~!!!」
と大声をあげる。
いきなりキャラの変わった星燐にエラリーとリリーは驚いた。
「あらあら、あまりの美味しさに取り乱してしまいました。これあなた達が作ったの?」
星燐が取り乱したのを誤魔化しながら質問をする。
「そうです。星燐さん、これが美味しく感じるんですか?」
J会長やエラリーと同じような人間がいるとは信じられないリリーである。
「苦味の中で美味しいという意味ね。カカオは確かにそのままだと苦いけれど、このチョコレートはその苦味を活かしきっているわ。作り方がすごいのよ。わたしもシェフだからわかるけど、このチョコレートは一流の腕前じゃないと作れない。そしてカドミウムの含有量が少ないカカオを使っているとは食べる人への気遣いも感じられるわ」
星燐は感動している。
「このカカオは熊猫商店にあったカカオニブを使ったんです」
エラリーが言う。
「へぇ~熊猫商店にあったのね。爸爸は材料にこだわるからきっと選びに選び抜いて入荷したんだと思います。ところでチョコレートは全部買っても大丈夫かしら?」
まだ一つも売れていないので魅力的な提案である。
「えぇ~全部ですか! ぜひ!」
リリーは売るのを完全に諦めていたので歓喜している。
「これを使って、新しいメニューを考えつきそうなの。もし完成したら試食しに来てね?」
「いいんですか! ぜひ行かせてください!」
星燐の料理がまた食べられるかもしれないとなってエラリーもテンションが上がる。
100個ものチョコレートなのでエラリーとリリーは手伝って、星燐が務めるレストランまで運んでいった。
J会長へ全部売れたことを報告しに文学サロンへと戻った。
文学サロンでは甘々小説企画の発表会をやっていた。
誰が書いたのかわからない状態で全員分読み、誰がその小説を書いたのか当てるというものだ。『ラブラブダーリン、ラブラブハニー』という超甘々な作品が、堅物のAさんが書いたと発表されて文学サロンメンバーたちが驚いていた。
「あ、エラリー、リリー! 全部売れたかい?」
J会長が出迎えた。
「はい、なんとか」
エラリーは売上をJ会長に渡す。
「やっぱり超健康チョコレートは需要あったんだね」
J会長はドヤ顔である。エラリーとリリーは星燐たったひとりにしか売れなかったことは黙っていた。
「今、甘々小説の発表会の最中だから、座って見ててよ」
J会長は発表会の司会へと戻っていった。
「はぁ~、疲れましたね。お姉さま」
リリーは机の上に突っ伏した。
「リリー、疲れたときは何がほしい?」
エラリーは質問をする。
「もちろん甘い物ですよ~。にがーいチョコレートばかり食べていたので、より甘いものがほしくなりました~」
リリーは机の上に突っ伏したまま答える。
「リリー、顔をあげて」
「なんですか」
リリーが顔をあげると、口に何かを入れられた。
「!! あまーい! 美味しい!!」
リリーが驚きの声を上げる。
「ジョセフ・フライを降臨させたとき、甘い普通のチョコレートも作っておいたのよ」
と、エラリーはいたずらな笑みを見せる。
「お姉さま、ありがとうございます~」
リリーは歓喜の涙を流す。
エラリーも自分で作ったチョコレートを食べると
「カカオ100%も良いけど、やっぱりチョコレートは甘い方が良いわね」
苦い思いをしてきたが、最後はこのまま甘いバレンタインデーを過ごせそうである。




