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罪果てのアルカ  作者: ミケイラ
二 暗黒へと踏み出す一歩
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2-4 こちらの話

 胸に張りつめていた緊張感が、次第にほぐれていく。拙い自己紹介ではあったが、幹部達に与えた印象は悪いものでは無い。そう確信し、ミシュアルは小さく微笑んだ。


(頑張らないと。あの時助けるんじゃなかったって、バシャルさんに言われないように。居場所をくれた皆に、恩返しができるように、頑張らないと!)


 ミシュアルはぐっと拳を握ったものの、相変わらずどこかひりついた場の空気に圧されて、そっと指の力を抜いた。


(うん、今の俺じゃあまだ、恩返しどころか足でまといになりそうだもんな……)


 能力は認められたものの、それ程期待はされていないだろう。それは本人が一番分かっていた。

 ミシュアルはよく言えば優しい、悪く言えば優柔不断な性格であり、ここぞと言う時に前に出るのが苦手な性質(タチ)だ。加えて、ナムゥだと判明したその日に受けたの暴行のせいで、荒事に対して強い恐怖感情を抱いている。

 当然だが、「頑張らなくては」と、順応しようとする意欲はある。それに比例するように、不安も大きくなっていく……ミシュアルの心は、そんなジレンマの中にあった。


 その心境を知ってか知らぬか、今ここに居る幹部達は、自分達を殊更優しく、というより、怖がらせないように気遣っているような気さえした。

 ――せっかく自分の為にこの時間を作っているのに、困らせてしまっているかもしれない。どうかしなくては、とミシュアルが要らぬ気を回すより早く、シエノが「あっ」と声を上げた。


「そういえば、私達幹部の紹介ってまだじゃない? バシャルはもう済ませたかもしれないけど、私達は違うじゃん。私達のこと、名前くらいしか聞いてないでしょ?」

「そうですね、サーラブさんから聞いただけです」

「じゃあ今、始めやす? 部隊紹介にも繋げられそうですし。親方もそれで、問題ねえですかい?」

「構わない」

「よっしゃ、それじゃあオレからな!」


 バシャルの言葉もそこはこに、ライカは飛び上がるように、勢いよく立ち上がる。その拍子にバシン! と膝を叩いたライカに、ミシュアルは驚いて椅子から尻を浮かせた。


「オレはライカ! 戦闘部隊(リカオン)の統括官だ!」

「リカオン? それに、統括官って」


 思わずミシュアルの声が上がる。ライカは新鮮な反応を見て、得意気に鼻の下を擦った。


「一番偉くて強えって事だ! 驚いたか?  これでも戦闘力はオスミツキ、ってやつだからな! なんたって、全部で五十人近くいるリカオン構成員の頂点、それが統括たるオレだ!」


 雄々しく腕を組むライカの姿に、ミシュアルは思わず感嘆のため息を漏らす。

 まだ自分と同い年くらいの彼が、大人数の大人達を統率するとなると、様々な苦労があるだろう。しかし、ライカの立ち振る舞いは、それを微塵も感じさせない程自信に満ち溢れている。それがミシュアルには、とても眩しく見えた。


(俺と同じくらいの歳に見えるのに、人をまとめる立場にいるんだ。すごい!)


 ここぞとばかりに胸を張り、威張るような、誇らしげな態度をとるライカに、自然とミシュアルは笑顔になる。それは尊敬の眼差しであり、憧れに近い感情だ。


「クックック。ホント、驚きですよねェ。まさかこんな子どもが、組織の要とも言える部隊を統括しているだなんて」

「ほんっと。私も最初は『こんなちっちゃい子が、マジで統括やってんの?』とか思ったけど……実際、すっごく強いもんね」

「ちっちゃいって言うなし!」


 シエノも同意するように、うんうんと何度も首を縦に振る。二人の反応に満足したライカは、さっさと席に座り、自己紹介を次の者に譲った。


「ではお次を頂いても?」

「お、ヒルバーか! お前もリカオンに片足突っ込んでんだから、丁度いいな!」

(片足? どういう事だろう?)


姿形はどことなく胡散臭いとはいえ、比較的有効的な様子に見える彼に、ミシュアルは内心ほっと胸を撫で下ろした。

そんなミシュアルの下がった肩と連動するかのように、サーラブの肩がキュッと上がる。

「あ〜、喋りたい感じかね、こりゃ。長くなりそうだからよ、あっし、茶でも淹れてきやすぜ」

「それなら冷たいの持ってきて〜!」

(こっちはこっちで自由だな!?)


 今から話せるのが楽しみ、と言いたげなヒルバーを一瞥したかと思えば、サーラブはそそくさと退室していく。扉が閉まるより早く、彼は長躯を折り曲げるようにして、向かい側にいるミシュアルへと顔を近付けた。


「小生はヒルバー。戦闘部隊であるリカオンと、情報収集部隊であるクルキの、両方に在籍しております」

「へ、両方に在籍って、いいんですか?」


 ミシュアルは勢いよく、隣のバシャルへと顔を向けた。彼もまたリカオンの一員なのだとしたら、両方の部署に所属しているというのは、中々にあやふやな立ち位置ではないか。彼の問いに、バシャルは軽く首を振る。


「問題はない。個人の能力の都合上、どちらか一方よりも、双方に所属した方が良い奴もいるからな。特に今挙げたリカオンとクルキは、二重在籍している奴が多いんだ」


 リカオンは戦闘能力が高い者を優遇するが、クルキは情報の収集能力に長けた者が所属している。どちらの部署に所属するにせよ、能力を買われての事だ。ただ、他の組員より多少忙しくなることと、人材管理と責任の所在の明確化は、確実に求められる。

 故に処理能力さえあれば、リカオンとクルキの両方に所属していても、何の問題もないのである。


「納得してないご様子ですが、まあ、そんな訳ですので。今後ともよろしくお願いしますねェ。そういえば、ミシュアルはこの近辺に詳しいのでしたね。であれば、不定期にやってくる屋台のこともご存知ですかねェ? どうでしょう、このあと少し昆虫食専門店の――」

「ヒルバー、終わったならさっさと次に回せ。雑談は後だ」


 バシャルのストレートな言葉にすら、ヒルバーは楽しそうに笑う。彼を睨むように見据えていたバシャルは、呆れたようなため息を吐き、ヒルバーを席に戻す。


「次は私でいいよね? あと、立つのめんどくさいから座って話すね」


 悠々と足を組んで話し出したのは、やはりというべきかシエノであった。

 彼女は頬杖をつき、隣に座っているミシュアルの顔を下から覗き込むようにして、にんまりと微笑んでみせる。


「私はシエノ。情報収集部隊(クルキ)兼、商売を専門にしている部隊、営業販売部隊(アルス)の幹部。商品の販売で各地を歩きながら、組織の命令で情報の収集をしてるよ」

「えっと……商品って」

「さっき話してたでしょ? この組織が扱う商品のこと。私の専門は武器だけど、主にちっちゃい護身用が主かな。だからこうして呼ばれても、あんま戦えないんだよねぇ。非常時の戦闘は、私のジョンの仕事!」

「ジョン……ってこの子ですか?」

「そうだよ! ほら、ご挨拶して!」


 意外そうな表情を浮かべたミシュアルに対し、シエノは得意げな笑みを見せる。ふわふわとした白い毛並みの大型犬もまた、微笑むような表情を作り、ミシュアルの方へと黒い瞳を向けている。

 その笑顔に似た顔を向けられた瞬間、ミシュアルは目を輝かせた。もとよりミシュアルは、動物が好きな部類であったから、その感動は尚更だ。


(可愛い! それにお利口さんだ!)


 犬は尻尾をふりふりと振りながら、ミシュアルの方へと近寄ってくる。目の前に得意そうな様子で、お座りを披露する犬に癒されて、ミシュアルの頬はだらしなく緩みきっていた。


「ちなみにこの子は獣人なの。場所の問題で犬になってもらってるけど、本来の姿はヒト型で、結構大っきいんだ。これから是非、ジョンと仲良くしてあげて欲しいな。勿論私とも、ね!」

「え、ええ。よろしく……」


 獣人、という単語を聞いたミシュアルは、途端にデレデレとした顔を引き締めた。昨日今日と世間知らずを晒してきたミシュアルだったが、獣人という幻想種の有名どころは知っていたのである。


(存在するとは聞いていたけど、獣人なんて初めて見た。確か緑の豊かな土地にいる筈だろ? まさかこの大陸で目にするなんて)

「じゃ、私からは以上! はい次っ、ネスル!」

「わかった」


 コクコク、と頷きながら、ネスルはのんびりと立ち上がった。果たして彼はどこの所属なのだろうか、どんな自己紹介をするのだろうと、余裕の出てきたミシュアルは、ネスルに興味を示す。


「僕……ネスル。所属は情報収集部隊(クルキ)。おわり」

(『おわり』!?)


 まさかの十秒足らずで自己紹介終了である。これにはミシュアルも驚きのあまり、はくはくと口を動かしたほどだ。

 しかし、当の本人は何食わぬ顔で、席へとゆっくり腰を下ろす。彼が親方と呼ぶ存在、バシャルの方へと視線をむけてしまうのだった。

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