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自由なスター

作者: 朝凪 青

僕は自由だ。


寝たい時に寝る。食べたい時に食べる。遊びたい時に遊ぶ。なきたい時になく。壊したい時に壊す。暇な時は自分の体を隈なく点検する。寒い時は暖かい所へ。暑い時は涼しいところへ。


空き地の土管の中で目が覚めた僕は一つ欠伸をしてから空き地を出て道に出る。

道路を闊歩する僕を見てみんなは顔を緩ませる。

車を運転する人も疲れた顔をしたサラリーマンも散歩しているお年寄りも家族連れの親子もみんなだ。僕の方に携帯を向ける若い女性も多い。盗撮ウェルカム。

中には僕の方に近寄ってきて触ろうとする人もいる。お触りはNG。

僕が心を許した人しか僕に触れることは許されない。


僕はスターだ。


僕はテレビなるものもSNSなるものも好きではない。なぜなら彼らは不自由だからだ。

画面の中のスターたちはみなコンプライアンスを守り好感度を大切にする。あえてそういうことを意識していないような言動をする人もいるが、彼らは論外。僕と同じ土俵にすら立てていない。


彼らは作り物で、真のスターではない。

その点僕はナチュラル・ボーン・スターである。

なぜなら自由だからだ。


みんな僕のことが好きだ。

どうやらそれは生まれた時から決まっていたようだ。


雪がちらついている。

寒いのが苦手な僕は体を震わしながらいきつけの喫茶店に入る。

常連たちの話を聞いていると、どうやらこの店はレグルスというらしい。獅子座で最も輝く星の名だ。


幼い頃から1人だった僕は読み書きができない。

だが今まで数え切れないほどの人にお世話になった僕の耳は日本語はもちろん英語もスペイン語もサンスクリット語もお手の物だ。


静かな雰囲気がカッコいい店の名前と合っていない。

いつもの定位置に座るとマスターが笑顔で僕に話しかける。

「今日も来てくれたのね。今日は一段と冷えるわねえ。」

そう言って僕に食事を出してくれる。今日も魚か。まあ贅沢は言えない。

マスターはその白髪とシワだけでは到底若い頃の美貌を抑え切れていない。

50代ぐらいだろうか。まあ女性に年齢を聞くのは野暮というものだ。

今日は朝から震えが止まらない。寒いせいだろうか。些か体調が悪い気もする。


「あなたが来てからもう10年ぐらいになるわねえ。冬だけしかきてくれないけどもね。」

彼女も僕に話しかけるときはいつも笑顔だ。


そして季節は移ろう。


最後にレグルスに行った日が遠い昔のように思える。


僕は土管の中で目が覚めた。

いや、目が覚めたという表現は正確ではないかもしれない。

身体が重い。瞼も重い。


僕は自由だ。


寝たい時に寝る。食べたい時に食べる。遊びたい時に遊ぶ。なきたい時になく。壊したい時に壊す。


そして、死にたい時に死にたい場所で、死ぬ。


消えゆく意識の中で聞こえた風の噂によると、レグルスには僕と瓜二つな白毛の猫の人形が置かれているそうだ。


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