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2章―12


「サナ、7日の夕方、何か予定はある?」


 入学式から明けた日、私は昼食の席でお義父様からそう問われた。

 明後日――9月7日は、一部授業の基礎と発展のコース分けをするため、1日かけてテストが行われる。その6教科のテストが終われば、週に2日の休日が約束されている。ちなみにその前日――つまり明日は、授業内容の大まかな説明と校舎見学があるだけだ。


「いいえ、何もありません」


 昨日仲良くなった友人とは、屋台の所で別れたっきりで連絡手段がない。私に、放課後の予定は何もなかった。


「ミリュエシア様に紹介された魔眼の研究者、その日なら面談の時間が取れるって。僕も、午後なら都合がつくから」

「分かりました。16時半には校舎を出られると思うので、それからなら大丈夫です」

「じゃあ、17時半までに付属病院の受付窓口に来て。僕は先に先生の話を聞いているから、病院の人に案内してもらって」

「分かりました。遅れないようにします」

「うん、ありがとう」


 お義父様にお礼を言われる理由が分からず、首を傾げていると、料理長(イアン)の料理は美味しいね、と話題を変えられてしまった。





 次の日、私は今までよりも早めに起きて、学園に行くため身支度を整える。

 私は心配症で、8時半に始まる朝礼に絶対遅刻しない時間には教室にいたい。そして馬車に揺れる時間は20分ほどで、その後は大型自動車(バス)に乗り継いで30分かかる。7時頃――いつもならお義父様とゆっくり朝食を頂いている時間――には、行ってきますを言いたいのだ。

 結果、それは実現した。早起きしたお義父様とも朝食を共にできたので、朝から私はご機嫌だ。



「行ってらっしゃいませ」

「行ってきます」


 馬車から降りて挨拶を送る私の一時的な護衛――レイスに見守られながら、エバーグリーン学園都市を取り囲む塀の門をくぐる。

 長くはない距離の馬車移動で、私に護衛なぞ必要ないと思ったが、女性の胸を高鳴らせるような微笑みをレイスから返された。どうやら必要らしい。専属護衛がそろそろ来るので、それまで私で我慢してください、と言われる始末だった。



 学園都市に入る際の検査を受けて、停留所を目指す。ここが始発の大型自動車(バス)には、多くの生徒は乗っておらず、選べる席の中で後ろのほうに座った。

 出発時間ギリギリに慣れたように駆け込んだ生徒を乗せて、大型自動車(バス)は定時に発車する。そのまま学園の校舎が立ち並ぶ中心部に向かって、放射状に伸びた大通りを進んでいく。一昨日お義父様と並んで見た景色よりも目線が高くなった位置から――車窓から、朝の学園都市を眺める。


 一昨日は気づかなかった、周囲とは雰囲気の違う大きな建物の前で、「プリーツァ博物館前」とアナウンスされながら大型自動車(バス)が止まる。始発から2つ目の停留所だ。

 その停留所の列に見知った生徒を見つけ、そのまま視線で追いかける。当然この大型自動車(バス)に乗った男子生徒――アインと、目が合う。


「――おはよう、ヴィオレ。隣いいか?」


 驚きで止まっていた足を動かし、アインは入学式の時のような台詞を放つ。私は3人掛けの席の左側を空けるように、窓際にもっと寄り鞄を抱える。


「大丈夫だよ。おはよう、アイン」


 アインが座った時、石鹸のような清涼感あふれる香りが鼻腔をくすぐる。

 3人掛けと言っても、ゆったり2人が座れる程度の幅である。これから人が入ってくるのを想定するなら、詰めて座るのは合理的だが、いかんせん距離が近い。2歳年下であるアインだが、背格好は同じくらいで、肩が当たらないか心配である。

 それよりも――。


「ジャケットはどうしたの、アイン?」

「式典以外だと、必須じゃないからね。今日、暑いじゃん」


 確かに夏の暑さは9月いっぱいまで残るが、ちょっと動くと暑いかなくらいである。気温変化の激しいこの時期に、カーディガンも着ずにシャツだけっていうのは無謀ではないか?

 実際、私はジャケットを着ているが、大型自動車(バス)に乗っている生徒の多くは、その代わりにカーディガンだけを羽織っている。ちなみに初等部の制服にジャケットはなくて、みんな男女兼用のパーカーを着ている。


「俺は体温が高いから、カーディガンなしでもいける」

「……風邪をひかないようにね」


 何か対抗意識を燃やしているのか、ドヤ顔を返されたが、私は体調の心配だけに留めた。



 3つ目の停留所を過ぎたところで、アインはそれまで続いていたたわいのないお喋りを止め、何か深刻そうな表情を浮かべた。


「……どうしたの?」

「次で乗ってくる奴がいるんだけど。……初等部からの付き合いのある奴で、隣に座らせてもいいか?」

「構わないけど、なんで、そう……、不本意そうな顔なの?」

「……悪い奴らじゃないんだけど、片方はすげえ喋るし、片方は女好きなんだよ。特に、好みの女子に告白しまくる()()()には、会わせたくない」

「ええと、でも、私は好みじゃないかもよ?」

「いいや、ドンピシャだ。間違いない。まさか鉢合わせになるとは……」


 依然表情が変わらないアインに、私はオロオロするしかない。とりあえず、あまり情報を与えないようにしよう、と言われた。

 この時の私は知る由もなかったが、件の女の子好きの生徒は学年を跨いで有名なんだそう。いかんせん顔の造形がよろしいので、恋多き美少年として女子生徒にも人気らしかった。



 次の停留所を示す「南エリア診療所前」がアナウンスされる。今までで一番多い人数が列をなしているのを窓から見て、顔を車内に向けないようにする。我ながら、無意味な抵抗だと思う。列が半分くらいになるのと、アインの名が呼ばれるのは同時だった。


「後ろにいたのか、アイン」

「おはよう、聞いてくれアイン! ハンスと5年連続同じクラスってだけでも驚きなのに、担任教師があの――。あれ? 席が足りないね」

「すまん、先客だ。1人は立っててくれ」

「では、前にいるハンスに席を譲ろう」

「ありがとうレオ。……ところでアイン、君が隠している女の子は、どちら様かな?」


 私はアインのため息を聞いてから振り向き、初めてご友人2人の顔を見た。

 アインの隣に座っている――おそらくハンスは、お目にかかれないほど見事な金髪に大人びた甘いマスク、そしてルベライトの如き瞳を持っていた。そしてレオと呼ばれていた生徒は、短く切り揃えられた黒髪に、藍色の瞳をものすごく細めている。


 えっ? に、睨んでる? 友人と隣り合った席を取られた、怒りからだろうか。


「あ、あの、席お譲りしましょうか?」

「レオは目が悪いだけだから、ヴィオレは座ってていいよ」


 立ち上がりかけた私に、アインは目線でも座るように促す。レオも謝罪をしてくれた。


「屋外で5回眼鏡を壊してから、室内だけで付けていてね。この距離だと輪郭がぼんやりなんだ」


 この距離――私が大股で2歩くらいだが、眼鏡をせずに外を歩くほうが危険ではないだろうか。

 とここで、思い出したようにアインが友人の紹介を始めた。バスの中は煩くない程度の話し声に溢れており、私たちの声量もそんなに潜めたものではなかった。


「俺のクラスメイトの、ロクサーナ・ヴィオレだ。目が悪いのがレオナルドで、隣のがハンス。……おい、ハンス?」


 先程から声が一切聞こえていなかったが、アインの隣を目をやると、固まったハンスがいた。私たちがハンスの目の前で手を振りかざし、肩を揺すっても、ハンスは生返事すら発しなかった。



 最後の乗車停留所「南エリア並木通り」が過ぎ、降車停留所である「初等部正門前」、「高等部南門前」とアナウンスされても、ハンスは微動だにしなかった。私たちが降りる「中等部南」で大型自動車(バス)が止まっても反応がなかったので、アインとレオが文字通りハンスを引きずって、下車した。


 校門までの少しの距離――整備された歩道を、アインたちの後ろに付いて歩いていると、前の3人が立ち止まった。


「僕は、どれくらい意識が飛んでた⁉︎ そして、彼女は!」


 何やら小声でやりとりがされた後、そう大きな声が路上に響いた。声が大きい、もう中等部だ、後ろにいる、などと台詞が続き、小競り合いが始まる。

 仲がいいんだな、と彼らの背中を見て内心笑っていると、真ん中のハンスだけ急に振り返った。


「うっ、ぉ、かわ……。あ、さ、さっきは失礼し、しました。ご、後日、あら、ためて、……お話しさせてください!」


 彼の瞳のように、紅潮した顔で、そう宣言された。私より少し低い位置の目は、しっかり私を見つめ、こちらにも緊張が伝染しそう。出だしのほうは声が小さすぎて風に攫われてしまったが、彼がまた会いたいということは分かった。


「失礼だなんて思っていません。ぜひ、お時間が合えば、お話ししましょう」

「ひぇっ、こ、声も、か……。あ、ありがとうございます! で、で、ではっ、失礼します!」


 捨て台詞の如く、ハンスは校舎のほうに走り去ってしまった。

 私はぽかんと、その背中を見送ることしかできない。ヤベーもん見た、とぼそっと呟かれたアインの声で私は現実に戻り、2人と共に中等部の校舎に向かった。ちょっと小走りで。



 教室に着いてからは、大型自動車(バス)での出来事のような大きなものはなかった。


 午前は卒業単位や自由科目の選び方を聞き、1年3組の時間割が配布された。その後、自由科目の聞き取りを兼ねたイオ先生との面談が、教室の後方で遮音魔法を使いながら行われた。待機中は明日のテスト勉強だったり、友達同士で自由科目の相談だったり。

 昼食は料理長(イアン)お手製のお弁当を私が持ってきたと言えば、キャシーとユーリは購買部でサンドウィッチを急いで――人気のものはすぐなくなってしまうから――買ってきて、教室で一緒に食べた。アインはレオに呼ばれて、昼休み時間の終わりに戻ってきた。


 午後はみんなお待ちかね(?)の校舎見学で、中等部2年の先輩方が案内してくれた。1クラスに50人も生徒がいるので、5班に分かれて行動した。午前だけで先生との面談が終わらず、教室で待機する班と入れ替わりながら見学は進んでいった。ちなみに他のクラスは、午前や夕方に校舎見学するところもあった。20クラスもあるから、時間をずらさないと廊下が渋滞してしまう。

 受け入れ人数の多いこの学園の施設は、全てが広大かつ数も多かった。練武場は屋外屋内合わせて数十あり、魔法訓練場は防護の術が幾重にも施されていた。図書館は蔵書数はもとより、自習の場として様々な大きさの机が並べられていた。

 そんなこんなで学園での1日が終わり、まっすぐ帰宅し、ほどよい疲れからぐっすり眠ることができた。





 明朝、私は出発時間を変えることなくエリウス家の馬車に乗り込んだ。ハンスと顔を合わせるのを避けるべきか悩んだが、ちょうどいい時間帯のあの大型自動車(バス)に乗りたいという気持ちが勝った結果だ。最悪、離れた席に座ろうと思った。


 学園都市の門前でレイスに見送られ、大型自動車(バス)の座席は昨日と同じものにする。始発から2番目の停留所でアインが乗ってきて、挨拶を交わし私の隣が埋まる。


「ハンスとレオは、この大型自動車(バス)に乗るかな?」

「あー、しばらくは早いやつに乗るって。毎朝会うのは畏れ多いからって、俺たちに言ってた」

「……私に対して? 畏れ多い、って表現は違うと思うけど?」

「……いや、あながち間違い、ではない?」


 なぜ疑問形で答えるのだ。私は下級貴族の娘で、容姿で言ったらユーリのほうが美人で可愛い。私が恐れ敬う相手のほうが多い身分だ。


「それに、昨日のハンスいつもと違かったんだよね。普段は、15歳の男児よりもスマートに女の子に対応する11歳美少年貴公子、って言われてるから」


 二つ名が長い。すると昨日の動揺っぷりは、ハンスにとって異常事態が起きていたということか。原因は私なので、しばらくはそっとしておくのがいいと、私は結論付けた。



 昨日より落ち着いた登校だったが、今日はテストということもあり教室は落ち着かない様子だった。ただのコース分けだし気負わなくてもいいじゃん、と言ったキャシーにユーリは、友達と離れるのは嫌じゃないの?、と返した。キャシーは無言で参考書を開いていた。

 コース分けがされる6教科は、母国語(スラニア語)ではない西大陸の公用語――パーシェント語と、数学、社会学、魔法概論、魔術概論、礼儀作法だ。基本筆記試験で、礼儀作法だけはアンケートである。礼儀作法と言っても毎回カーテシーの練習しかやらないというわけではない。教養を身につけるために博物館の見学があったりするので、そんなに嫌われた教科ではないらしい。

 これらはアルジハーブ家(実家)でみっちり教えられた内容だし、こちらに来てからも復習は怠らなかった。今日のテストは基本を問う設問ばかりだったので、おそらく高得点だろう。試験が無事に終わった私は、そう思う。



「ごめんなさい、この後用事があるの」


 試験から解放された放課後の教室で、私はキャシーとユーリにそう答えた。明日から休日で宿題もないから、遊びに行こうと誘われたのだ。


「どこに、か聞いてもいい?」

「……学園の付属病院よ。あと1時間で、そこまで行かなきゃいけないの」

「……確か歩って30分くらいだよね。私たちの寮もそっち方面だから、一緒に帰ってもいい?」

「私はいいけど、キャシーとユーリは遊びに行きたいんじゃないの?」

「ヴィオレがいない時点で計画破綻だから、下校デートに切り替える!」

「――ということで、一緒に帰りましょう、ヴィオレ」


 半ば2人に押し切られるように、私は教室を後にした。そのまま中等部の敷地から北に向かって、3人で病院を目指す。道中、テストの話だったり、来週は一緒に商店街を回ろうと約束したりたわいのない会話をした。

 なんで病院に、と訊かれないことに私は安堵していた。おそらく質問しないのは、この学園の性質を知っているからだと思う。


 この学園に建てられた病院は、国の中でも規模が大きいほうに入る。そして学園都市を堅牢に覆う外壁と防護結界は、王城の警備に匹敵する。

 この学園には未来ある若人――自分では制御しきれない強大な力に悩む青少年が、たくさん通っている。国内の学園で最も、彼ら彼女らを守ることに重きを置いているエバーグリーン学園。生徒同士でも、相手の体質や事情を深く聞き出すことを禁じている。

 私のように魔力操作が目にしかできない、それに似た体質を持っている生徒だっているかもしれない。


 己を見つめ、己と共に在る。――エバーグリーン学園の校訓だ。

 「――学園に通学しながら、通院して解明しましょう、ロクサーナ」これはミリュエシア様の言葉だ。



 私たちは病院の入り口近くで別れ、私は建物内の受付に進む。

 初めて訪れたので、まずは総合受付に並び用件を伝える。受付のお姉さんは、地図もかかれた病院のパンフレットを示しながら、説明してくれた。


「今いるのが、外来病棟の総合受付で、ここ。で今日、スーイ先生とお話しする場所が、臨床研究棟なんだけど、一般人は立ち入り禁止なの。だから、この腕輪は外さないようにね」


 そう言って手首に巻かれたのは、身分証代わりの赤銅色の華奢な腕輪だ。なんでも、これがなかったら、セキュリティに引っかかって警備員が飛んでくるらしい。

 そのままお姉さんが付き添いで案内することになった。


「魔眼を研究する先生はたくさんいらっしゃるんだけど、スーイ先生は知識の広さで有名なの。あっそうそう、スーイ先生って実はファーストネームで、ファミリーネームは、……ディギルエヴィディエフスキー、って言うのよ」


 噛まなくて良かった、とお姉さんは達成感に溢れている。お姉さんはとても気さくで、少し長い道のりも、私が緊張しないように話しかけてくれた。

 スーイ先生の研究室に着けば、お姉さんは先生と事務的なやりとりをして戻っていった。


「ごめんねー、こんな所まで来てもらって。お父さんの隣に座ってー」


 研究室の広さは、お義父様の書斎と同じくらいだと思う。いかんせん壁の全てが書棚になっており、天井まで埋まっていると圧迫感を覚えてしまう。

 スーイ先生と思しき男性から、応接セットの2人掛けソファを示される。口調は優しげで、白衣にシワもないのだが、どこか飄々とした雰囲気のする人だ。医者というよりも、商人をやっていそう。


「では初めまして、魔眼の研究者兼医者の、スーイ・ディギルエヴィディエフスキーだ。長ったらしいから、スーイ先生って呼んでねー。お嬢ちゃんの担当医になったから、これから仲良くやっていこー」

「初めまして、ロクサーナ・ヴィオレ・エル=エリウスです。これからよろしくお願いします」


 お茶のカップを渡された後、私たちは自己紹介をした。普段から生徒を相手にしているからか、スーイ先生は気安い感じだ。


「いやー実はね、先生うっかりしてて。入学時期のせいかリハビリ棟の予約が埋まっちゃってー。散らかってる研究室で、ほんとにごめんねー」


 なんでも、魔眼や魔力に関する体質が理由で通院する場合、リハビリ棟を基本的に使うらしい。普通に怪我や病気にあった時は、外来病棟や入院棟を利用する。

 学術や魔法を本格的に学びたいと思っている生徒以外で、ここエバーグリーン学園を選ぶ理由はこの付属病院である。それぞれの研究は最先端であり、通院をしながらも学園に通うことができるからだ。


「手紙をもらった時は驚いたよ。症状に関してはもちろんなんだけど、お父さんが有名人だから、何度も読み返しちゃって。お嬢ちゃんも、突然のことでびっくりしたと思うけど、上手に付き合っていこうねー」

「はい、よろしくお願いします」

「先生には今日初めてお会いしたのに、もう僕に慣れてしまっているので、こちらも驚いていますよ」



 そこからは今後の予定を確認していった。

 私が実家通いなので、定期診察は放課後にすること。常に体調をモニタリングするため特殊な腕輪をつけて、行動日記を書くこと。


「うーん、魔導学実技の授業はどうしようね。クラスをさらに実力で分けて、授業するんだけど。魔力操作のチームでも、内容についていけるかなー」


 小さい頃は体調や魔力に関して不安定だ。50人クラスでこの実技の授業をする時は、安全のために補助の先生が最低5人つく。魔法を発動できるほど魔力量が多くない子もいるので、体内の魔力操作だけを極めるチームがある。ただし私は今のところ、目にしか魔力を流せないので、全身の身体強化をやってみようと言われても、置いてきぼりを喰らう。


「お嬢ちゃんの担任教師に、先生が授業に参加できるか相談してみるよ。それとも、通院してることとか症状のことは、あまり知られたくない?」

「……みなさんは、どうしているんでしょう?」

「そうだねー。病院(ここ)目的でエバーグリーンに来てる子は、症状に関しては隠したいけど、通院してることは友達にも言ってる、って感じかなー。魔力暴走を起こしやすい子は、さすがにそこまで説明するけどね」

「なるほど……」

「ただ、お嬢ちゃんの魔力操作の観察指導は、できれば先生が直接したいな。実際は助手に頼んじゃうかもしれないけど。ただし、授業で一人だけ違う内容をやっていれば、特別扱いされている、って周りの子に思われる。病院のことがあるのかな、って理解はできても、納得はできない年頃の生徒が多いからね」


 私も、魔法が使える人は羨ましいと思う。それと同じで、先生と一対一で授業をやっていたら、特別な子に見えるだろう。もしかしたら、そのことを理由にして仲間外れにしたり、無視したりしてしまうかもしれない。


「もう一つの方法は、この授業を受けずに、その時間、自習という名の先生からの指導を受けること。みんなと同じように魔力操作ができない、って理由で授業免除だ。ただし、もちろん単位はもらえない」


 この理由で実技授業を受けない生徒は、中等部の1学年に20人に満たないほどだがいる。エバーグリーン学園は有名なので、そこを卒業したと自慢したい人もいるし、学園都市に住んでみたいという理由で入学する人もいる。学園で優秀な魔法使いや魔術士を育てるため、そういう授業は多いが、全員がそうなる訳ではない。魔力量がほぼないに等しい人が入学するのも珍しくないし、文官になった卒業生もいる。

 私の場合、家から通学できて、お義父様の母校、という理由で選んだも同然だ。魔力操作すらできないという理由で授業を受けないなら、それも込みでこの学園を選んだことになる。

 ただ問題は、授業の単位だ。この魔導学実技で単位が取れない分、自由科目で埋めなければならない。


「まあ、1週間悩んでみて。来週の1回目の授業は全部オリエンテーションで、実技もなくて施設とか内容の紹介だけだから。……長い説明になっちゃったけど、質問とかあるかい?」


 心配なこと――。今思いつくのは、今日の放課後の出来事と、下校中のことだ。

 学園の規則で事情を訊いてはいけないとあるが、私は初めての友達――キャシーとユーリに隠し事をするのが苦しかった。なんだか嘘を吐いているみたいで。どこまでなら、この魔眼について説明してもいいのだろうか? 当の本人もよく分かっていないのに。



 そういったことも先生に話していたら、窓から見える風景が暗くなってしまった。

 エリウス家の屋敷に着いたのも、夕食を食べ始める時間だった。


途中の話で出てきたロクサーナの専属護衛は、先行して【閑話】のほうに出演しています。本編に登場するのは、2章─15です。


次話から授業内容や学園都市の風景を書いていきたい、です。

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