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最十五話

劇場版ヒロアカを観てきました。戦闘時の作画が相変わらず化け物で鳥肌立ちっぱなしでした。見て損ははい映画なのは間違いなしですね。

まぁ、そんなことはさておいて、今話を読んで楽しんで頂けたら幸いです。



 朧気に差し込む陽の光に当てられて、アイクの意識が覚醒する。靄がかかったように霞む頭でなんとか瞼を開けば、見慣れた天井が出迎えてくれる。昨日は何をしていたのか、そんな疑問が思い浮かぶも、鼻を衝く酒精がすぐに答えを教えてくれた。

 昨日はあれから市場で酒類とつまみを買い漁り、帰るや否やすぐに酒盛りを始めたのだ。ビールにブランデーにカクテルと、種類を問わず買い漁った所為で飲むものに困らなかったアイクは手あたり次第に飲んでいった。おかげで部屋の中は食べ掛けのつまみが乗った皿や空き缶、空き瓶で散らかって酷い状況になっている。今日の予定は先ずここの片付けから始まりそうだ。


(それで確か今日は………げっ、ゴミ収集の日じゃん)


 そしてタイミングが良いのか悪いのか、丁度今日は瓶と缶類の収集日。幸いにしてまだ日の出からそこまで時間は経っていないため、すぐに掃除してしまえば業者の回収時間には間に合うだろう。その前に着替えと、消化に良いものを朝食に作っておこう。二日酔いに痛む頭で今日の予定を立てていると、ふと、右半身に不自然な重みがあることに気付く。

 顔を向けた瞬間に視界を埋め尽くすように現れた、恐ろしく整った造形をした中世的な顔。絹の様に滑らかなペイルグリーンの髪を珍しく乱し、穏やかな表情のままに口元から静かな寝息が零れ出る。着替える時間もなかったのか上半身は戦闘用の薄手のインナーのままで、酔った勢いで胸元から肩にかけて大胆にはだけている。同性であろうと魅了する色気があり、一歩間違えれば一線を越えてしまいそうな背徳的な光景だ。しかも憎たらしく、すらりと伸びた手足をアイクの身体に絡ませ、指先で服の裾をちょこんと摘まんでいる。


「ん、ぅぅ………アイクぅ」


 一体どんな夢を見ているのか。艶めかしい声で寝言を漏らすこの男こそ、アイクの相棒のエルだ。普段の貴公子然りとした様子は何処へやら、一口酒を飲ませれば途端にこの調子である。二人で共同生活を始めた際、アイクが遠慮がちなエルをどうにか言いくるめて酒を飲ませたことで発覚したのだが、どうやら少量でも理性が緩む(こうなる)らしい。おかげで饒舌なままに本音をぶちまけ、挙句に酔った勢いそのままにスキンシップをとってくるのだから、打ち解けるのは早かった。諦めて受け入れたとも言う。そのギャップに普段どれだけ強靭な理性を発揮しているんだと戦々恐々したアイクだが、同時に時々無理にでも酒を飲ませなければとこの時密かに決めていた。


「だらしない顔しやがって……普段が真面目過ぎるんだよ、お前は。少しは肩の力を抜いとけ」


 この手の人間は表に出さないだけで、内側にストレスを溜め込むことが多い。しかも溜め込んだストレスは誰かにぶつけるものではないという理性が働いている所為で、発散方法がなければ延々とストレスを蓄積し続ける。そして、限界を迎えてどこかで決壊する。それは本人でも気付かないということが何よりも厄介だ。

 エルは見たところ美容関連で発散ができそうだが、現時点でそれができないのでこうして酒を飲ませるしかなかったのだ。幸いにして、エルが酒に弱くなかったことはアイクには僥倖だった。


「ん、ぅ………」

「普段からそうやって素直に甘えてれば可愛げがあるんだがな。昨日の夜だって———」


 思い出すのは昨夜のこと。酒を飲ませて理性が緩んできた直後の光景。


『ねぇ、アイク! 君はどうしてそうトラブルばっかり引き当てるの!?』


『いつもあんな危ない目に遭って、僕のパートナーは君しかいないんだよ! そこのところ分かってる!?』


『また僕を一人にしないでよ!』


 きっと、素面であれば言わなかっただろう。理性の鎧を纏ったエルからそれを聞き出すのは容易な事ではないし、本人の性格上、自分からが言い出すことは絶対にない。アルコールでその鎧を少しずつ剥がしていき、丸裸にしたからこそ聞き出せた言葉だ。

 その本音は駄々を()ねる子供のようで、純粋に見えるがどこかドロリとした願望だった。彼もまた、どこかで置いて行かれたことがあるのか。そしてそれは、あの場で一人でいたことに関係しているのだろうか。

 憶測は幾らでも思い描ける。しかしそれが真実かどうかは、本人の口から語られなければわからない。であるなら、ここで考えていても詮無きこと。そう割り切ったアイクは、その思考を打ち切った。


「ま、何にせよ。お前を一人になんかしねーよ。地獄の底まで腕引っ張ってやるから覚悟しとけ」


 そう言って、エルの頭を一撫でしてアイクは部屋を後にする。彼の頭は、既に今日の朝食は何にするかと考えている。だから、彼の後方。赤みが差した頬を隠すように寝返りをしたエルのことなど、気付くはずもなかった。



◆◇◆◇



「エルー。そっちは片付いたかー?」

「うん。こっちも終わったよ。後は出しに行くだけかな」


 朝食も程々に済ませた後、二人は予定した通り部屋の片づけを行っていた。テーブルの上の食べ掛けの料理はタッパーに詰めて処理し、空き瓶・空き缶・その他のゴミはそれぞれ分別してゴミ袋に詰め込んである。今朝に比べれば部屋の中は随分と小奇麗になっている。空き瓶・空き缶から中身が垂れて変色してしまったカーペット類など、細々した掃除は必要だが、一先ず当座の目的は達成できたと言えた。


「よいっしょ、と」

「う~ん、大分溜め込んでたね」

「前回出しそびれちまった分もあるからな」

「あぁ、それで。……アイクも寝坊しちゃったのかな?」

「そうだな。あの時は毒持ちのモンスターにやられて一日寝込んでたんだよ。婆さん()で解毒剤貰ってから日昼夜寝てて、気が付いたら翌日だ」

「軽い冗談をフルカウンターするのやめてくれない??」


 そう、あれは“イオウ洞窟”に向かう途中のこと。その地域を根城にしていたモンスター同士の縄張り争いが勃発したのだ。その余波で件の毒持ちモンスターである“ゴルゴンリザード”が興奮状態となり、近くにいたアイクに襲い掛かってきた。ゴルゴンリザードは爪や牙に毒腺があり、そこから分泌される強力な麻痺毒はどんな大物だろうと次第に動けなくすると言われているモンスターだ。アイクは戦闘中に爪先を掠めてしまい、その毒を貰ってしまったのだ。

 そこまで考えてふと、アイクは違和感を持った。


「……? どうかした?」


 見つめられてキョトンとしているエルに、外見上の変化はない。ただ、どこか。いつもより一歩分ほど、互いの距離が近いようにアイクは感じた。


「……いや、何でもない。それよりもさっさとゴミ出しを終えちまおう。そのまま換金所にも寄りたいからな」

「あぁ、それはいいね。昨日の討伐報酬をまだ換金してないし……うんうん、これでお小遣いが増えるね」

「ったく、デカい小遣いができて嬉しいのはわかるが、はしゃぎ過ぎるなよ」

「わかってるよ。散在せずに計画的に使うから大丈夫」

「本当かー?」

「あー。アイク信じてないでしょ」


 いつも通り、よりもほんのちょっと気安くなったじゃれ合いをしながら、二人は袋を片手に玄関へと向かった。時間はまだ十分にある。のんびり歩いても余裕が持てた。

 だが、そう思った矢先。玄関の扉を開けた先に、ここに居るはずのない人影が見えた。


「えっと……おはようございます。昨日振りですね」


 セミロングにした艶のある黒髪に、透き通るアメジストの瞳。白のトップスとライトブルーのキュロットスカートに、動きやすいレディースサンダルというラフな恰好ながら、街中を歩けば自然と目を惹かれる様相をした美少女が所在なさげに立っていた。一瞬。アイクは誰なのか見当がつかなかった。だが、透き通った声と特徴的な瞳の色から、その正体を推測できた。


「も、っ———」

「あれ、フェリスさん。こんな朝早くにどうしたの?」


 しかし、“もしかして”と言う前に、エルに言葉を遮られる。気付けばフェリスの死角で、エルがアイクの肩を掴んでいた。中々力を込めているのか、若干指が食い込んでいる。たぶんこれは余計なことを言うなというサインだろう。女心は分からないのに地頭は良いアイクは、それに無言で従った。


「はい。昨日お借りした外套をお返ししたかったので」

「あぁ、そういうことね。態々ありがとう」


 酔いも完全に抜けて、いつも通りの貴公子然りとした表情でエルが外套を受け取る。外套はアイロンまでかけてくれたようで、皴もなく綺麗に折りたたまれた状態で袋に詰められている。


「いえ、こちらこそ。昨日はお世話に………ん゛」


 だが、受け渡すその瞬間。彼女が若干顔を顰めた。


「……お酒臭い」


 思春期の女子は臭いに敏感である。そしてそれはフェリスにも言える事で、ご丁寧に鼻を摘まむ仕草までしている。絵にかいたようなジト目との相乗効果は絶大で、エルは受け取る姿勢のままに固まってしまっている。隣で我関せずと爆笑しているアイクも含まれているのだが、気付かないのはいつものことだ。片手に下げた酒瓶・酒缶が詰まったゴミ袋に加えて、シャワーを浴びていないというダブルパンチ。本人たちは気付いていないが、思っている以上に酒精が漂っている。

 このまま固まっていても話が進まないので、エルは咳払いを一つして話を強引に進めることにした。


「それにしても、ここまで一人で来たのかい? 誰かに絡まれなかったかい?」

「いえ。私は大丈夫でした。この時間帯に来たのも、朝の早い時間帯ならまだ安全だと兄に聞いたからなので」

「確かに昼間よりは安全だけど、全く危険がない訳じゃないよ。だから今度から気を付けてね」

「はい。お気遣いありがとうございます」


 あどけなさの残る顔で微笑むと、やはり普通の女の子である。昨日の戦闘中の頼もしい表情が脳裏に過るが、やはり中身は年相応なのだ。二人はフェリスへの印象を少し修正した。そして、アイクが提案する。


「このまま一人で返すのも危ないし、ギルドに行く前に送っていくか?」

「そうだね。ここに慣れてない女の子一人じゃ心許ないし。フェリスさんもそれでいい?」

「いえ。流石にそこまでして頂くのは……。これでも護身術を嗜んでいるので、大丈夫だと思います」


 余程自信があるのか、小さく胸を張るフェリス。

 しかしそれは、二人を納得させるだけの材料にはならない。


「う~ん。一対一ならそれでいいかもしれないけど……」

「実際襲ってくる時は複数人だからな。死角からクスリを嗅がされて、意識が朦朧としてる内に数人がかりで袋詰めにされて裏路地に引っ張り込まれる。護身術なんて使う暇ないぞ」

「こ、ここってそんなに危ない所なんですか!?」


 驚いた顔で、フェリスが辺りを見回す。ここ第三階層で起こる失踪事件には、必ずと言っていいほどスラム街の人間が関与している。食うに困って、その日の食費のために犯罪に手を染めるのを厭わなくなった者たち。殺し、誘拐、強盗、なんでもござれのプロフェッショナルたちだ。彼らは例え日向にいる人間だろうと、日陰から伸ばした手で一瞬で裏側に連れ去っていく。彼らにとって、多少の護身術の心得は子供の遊び程度にしかならない。無駄な抵抗に終わるか、抵抗する間もなく意識を奪われるのがオチだろう。


「そうそう。ここって意外と危ない所なんだよね。僕も来て2日目で攫われかけたし」

「ふ、2日目っ!?」


 今度はエルが自信満々に言っているが、間違っても胸を張って言う内容ではない。アイクが即座に対応して誘拐グループを全員を仕留めたからよかったものの、対応できていなければ今頃エルはここには居ないのだから。

 二人は平然と暮らしているが、ここは思っている以上に危険な場所である。既にエルは1回。アイクは口に出していないが、5回ほど誘拐されかけている。護身術の心得があるほど油断して足元を掬われるということを、二人は身に染みて知っていた。


「ま、何もないならそれでいいんだがな。昨日知り合った相手が今日攫われるのはこっちも寝覚めが悪い。俺らの我が儘と思って付き合ってくれ」

「……わかりました。そういうことでしたら、よろしくお願いします」


 数瞬の間。手間を掛けてしまう申し訳なさと自分の身の安全を天秤に掛け、彼女は後者を取った。心に残る葛藤は、“アイク達の我が儘”という免罪符の下に納得することにしたようだ。

 それから3人はゴミ捨て場を経由して、第三階層のメインストリートまで移動した。途中、何度か襲われる兆しがあったが、アイク達が目を光らせていたおかげで何事もなく終わった。一人ならともかく、三人同時では割に合わないと判断したようだ。

 メインストリートに出てみれば、住宅地の辛気臭い雰囲気とは打って変わり、ハンターたちで大いに賑わっていた。荒野に行く者、休みを満喫する者、物資の買い出しに出かける者と、すれ違うハンターの服装も様々だ。ハンターに決まった休みはなく、その都度スケジュールに合わせて休みの日を設けているのだが、その様式がこうした多様性を生んでいた。


「ところで(ウチ)の場所は教えてなかったと思うんだが、一体誰から聞いたんだ?」

「はい。道端で親切なお婆さんに教えて頂きました」

「お婆さん………?」

「……もしかして、隣に旧型のサポートAIが居なかった?」

「あ、そうです! もしかしてお知り合いでしたか?」


 実はアイクの家に向かう途中、フェリスは道に迷っていた。兄のケイシーからアイクの住所は聞いてはいたのだが、似たような建物が乱立している第四階層ではそれも当てにならず、案の定道に迷ってしまったのだ。そうして見ず知らずの場所で途方に暮れ居ていた時、彼女に声を掛けてくれた老婆がいた。名前は名乗らなかったが、優しくて芯のある人だということは彼女にも感じ取れた。その人物がまさか目の前の二人の知り合いだとは思わず、フェリスは好奇心のままに二人に聞いてみることにした。

 だが、反応は思いの外鈍かった。


「知り合い、ではあるが」

「親切かと言われると微妙というか……」

「“女傑”だとか“やり手”ってイメージが強いよな」

「うん。それは間違いない」

「け、結構辛辣ですね……」


 多少猫を被っているとは予想していたが、身内からの言い分は中々に棘があった。フェリスの苦笑いも引き攣っている。


「その婆さん、コレットって言うんだけど、敵認定したやつには容赦しないんだよ」

「銃も平気で抜くし、本人も腕っ節が強いから喧嘩を売っても誰もが返り討ちに」

「だからあの辺りの人間は、誰も頭が上がらないんだよな」

「…………」


 最初の印象は鵜吞みにしない。

 フェリスの中で生涯忘れられない教訓ができた瞬間である。


「フェリスさん!」


 第四階層の終わり近づいていた最中、フェリスを呼ぶ大声が上がった。三人の視線がそちらに向かう。そこに居たのはフェリスと同年代の、顔立ちの整った好青年と数人の少女の姿があった。



 ……何故か、こちらに敵意を剥き出しにした状態で。




正直に言いますと、実は後半部分はここ数日で仕上げたものです。唐突にキャラ設定が生えてきたので、ここでぶっこむことにしました。

プロットもちょこちょこ弄らないと……。

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