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第十話

ここ最近、再びポケモン熱が再燃してしまいました。タイプ統一パーティーで挑むのがこれまた楽しいんですよね……。

まぁ、そんなことはさて置いて、今話を読んで楽しんで頂けたら幸いです。

※7/4 加筆修正



 ヤザミ市街へと帰還し、脳核の換金も無事に済んだ後。アイク達の姿はコレットの武器屋にあった。目的はエルの借金の一部返済。しかし当の本人は、一人どんよりとした空気を纏っていた。


「うぅぅ」

「そんなにしょげてても何も始まらないぞー?」

「そうなんだけど……はぁぁ」

「こりゃ重症だね。掻っ攫われた額はそんなにデカかったのかい?」

「概算だけど、換金額は倍近く違ったな」

『駆け出しには痛い損失ですね。しかし、パーティー結成してからの初依頼でこの額です。戦果としては上々なのでは?』

「いやぁ。それは確かにそうなんだがな」

「“パドラム”……“クリッタ”……“ローリス”……」


 うわ言のように単語を呟くエル。その意味を真っ先に理解したのは、聞き覚えのあるコレットだった。


「……何か化粧品メーカーの名前が聞こえてきたんだけど?」

『奇遇ですね。私もそう聞こえました』

「どうも本人に拘りがあるらしくてな。前々から自分用のものが欲しかったらしいぞ」

「あぁ……男でも美容に気を使う奴は一定数居るからね」


 しみじみと呟くコレットだが、中でもエルは“特に”気を使うタイプである。朝支度や就寝前は言うに及ばず、入浴中でも色々としているらしい。入浴後に何故か落ち込みながら出てきた時は何事かとアイクも思っていたのだが、後で問い詰めたらそういう理由だったらしい。


「報酬が良ければ好きな化粧品もいくつか買える、って言ってからやけに張り切っててな。それが目前まで来てたのに横から搔っ攫われたから、こんなに凹んでるんだ」

『なるほど。落胆はひとしおでしょうね。ところで、あまり本人の前で言うことではありませんが、借金分を一部流用しても良かったのでは?』

「いや……借金したのも買いたいのも僕の我儘だし……それは流石に悪いかな、って」

「殊勝な心掛けだね。借金はさっさと返すに限る。……あとそこのポンコツロボット。後で覚悟しときな」


 ともかく目下の最大の目標は、エルの借金返済のための資金集めである。モールワームの出現によりハクレイ街跡地に行かずとも安定的な収入は望めなくなってきている現状、何か別の依頼で収入を得るしかない。しかしアイク達駆け出しハンターには美味しい依頼が来ることがそもそも稀。割の良い依頼はそれなりに信頼のおける中堅ハンターから回されるため、伝手でもなければそんな依頼にはありつけないのだ。


「ま、焦って無茶をしても儲けは出ないんだ。今はできる依頼をこなしていこうか」

「当てがあるならいいんだけどね。ここ最近は荒野で稼ぎにくくなってるからって、街中で小遣い稼ぎのハンターをよく見かけるんだ。残ってるのは軒並み塩漬けかしょっぱい依頼じゃないのかい?」


 ハンターの仕事は、何も荒野で稼ぐことが全てではない。訳あって荒野に出られないハンターや引退した元ハンターを対象とした、街中での依頼も数多く存在する。日雇い形式のために報酬は少なめだが、ないよりはマシと思うハンターが多く依頼がなくなることはほとんどない。しかし今回のようなケースは例外で、荒野で稼げないと見たハンターがこぞって街中での依頼を受けているため、彼らが受けられる依頼もあまり残っていないのだ。

 だが、それを知って尚、アイクは自信あり気に笑っていた。


「確かに美味しい依頼じゃないが、丁度いい“駆け出し用”の依頼だ。だからそれに申し込んでおいた」



◆◇◆◇



 あれから二日後。二人の姿は第三・第四階層を繋ぐ通用門にあった。

 周囲には彼らと同年代の若いハンター達が大勢おり、パーティーを組んでいるのか顔見知りなのか、それぞれがグループとなって談笑に花を咲かせていた。身に付けている装備は駆け出しハンターがよく使う防護性と汎用性を両立した現行モデル。似通ったデザインながらにそれぞれ特徴が違っているのを見ると、メーカー側の苦心具合が窺える。よくもまぁこれだけ考え付いたものだと、アイクは他人事ながらに感心する。中には少し見栄を張って高価な装備を揃えた者もいるが、それらは新品同様で使い込まれた様子はなく、まさにこれから使い始めると言った者も多いようだった。

 彼らは全員“ハンター養成校”の生徒で、今日はカリキュラムの一環で初めて荒野に出ることになっている。が、ここに居るほとんどの生徒に、緊張や恐怖が欠片もない。自分は死なないと高を括っているのか、あるいは絶対的な自信があるのか。いずれにしても彼らの根底には、荒野での戦闘は演習の延長でしかないという意識があるように思えた。


「懐かしいなぁ。僕にもあんな時期があったのかな」

「慣れと無知からくる油断だな。最初はあんなもんだろ。……因みに初めての荒野はどうだった? 俺はハンガードッグに食い殺されそうになったが」

「僕はウォーバードにお持ち帰りされ掛けたかな」

「どっちも死に掛けたのかよ」

「でも、そのおかげで油断しなくなったんだから結果オーライじゃない?」


 彼らのグループから外れた場所で、アイクとエルは彼らの様子を眺めながら言葉を漏らす。今回の依頼は駆け出しハンターを対象とした荒野におけるモンスターの討伐依頼なのだが、追記項目に“養成校の生徒も参加する”と記載されていた。養成校とはこのヤザミ市街にある“ハンター養成校”のことで、一年間の講習を修了することでランク10のハンターとしてデビューできるシステムとなっている。また、一週間程度の簡易講習によりランク1のハンターとしてデビューできるコースもあり、アイクが最初に担当官に言われた簡易講習とはこのことである。

 今回の依頼に参加するのは前者の一年間の講習を受けている者たちのことで、今回は引率として中堅以上のハンターが就くことになっている。駆け出しにとっては腕利きのハンターが引率に就いてくれて安全に依頼をこなせるのだが、今回の生徒以外の参加者はアイクとエルの二人だけだった。

 というのも、この依頼は元々養成校の生徒のためのものであり、それ以外の者は基本お呼びではないのだ。養成校出身者とそれ以外では昔から確執があり、前者は後者を見下し、後者は前者を敵視していた。養成校に通える時点でそれなりに資金を持っている勝ち組であり、養成校にすら入れなかった負け組を見る目はどうしても対等にはならない。過去に何度かこの依頼に参加した外部のハンターもいたのだが、皆一様に良い待遇をされなかったことでこの依頼を受ける者は居なくなった。それでもこの依頼が出され続けている理由は、“養成校の生徒が外で活動するから問題を起こすな”という意味を含んだ、ハンターズギルドからのある種の注意喚起でもあるのだ。


「これから番号の振り分けを行う!! パーティーを組んでいる者は纏まって各教員から指定された番号と同じ車両に乗るように!!」


 監督官と思しき男が遠くでも聞き取れる声を張り上げている。それに釣られて、他のハンターもぞろぞろと動き出す。


「そら、お呼びのようだ」

「みたいだね。トラブルがなければいいんだけど」

「ハッ。トラブル続きの俺たちがそれを言うのかよ」

「ははっ。確かに。それもそうだね」


 なるようになるさ。そんなことを言い合いながら、二人は教員の下へ向かった。粗方生徒が掃けて手透きになったタイミングで近づけば、教員の方から気付いてくれた。部外者ということで、教員の間でも最初から目立っていたのだろう。


「外部からの参加者というのは、お前らの事か」

「あぁ。二人パーティーで申請している」

「そのようだな。番号は8番だ。車両に乗ったら帯同の教員とハンターの指示に従うように」

了解(りょーかい)だ」


 淡々と必要事項だけを言う教員の下を離れ、所定の車両に向かう。手透きと言ってもこれだけの人数を引き連れる引率者は、基本的に忙しい。特に接点もない外部参加者に気を遣う余裕もないのだろう。二人と別れた教員も、すぐに別の教員とタブレットを見ながら打ち合わせをしている。

 例えハンターという命の危険が伴う職種に就くとは言え、無駄に命を散らさせる訳にはいかない。卒業までの死亡者(脱落者)が多いほど組織としての醜聞になるし、同意書にサインしているとはいえ保護者からの糾弾は避けられない。動機はどうであれ、彼らも必死で死亡者ゼロを目指して対策に取り組んでいるのだ。


「それにしても、“8”か。アイクには縁のある数字だね」

「そうか?」

「そうだよ。アイクがコイントスに使うコインにも描かれてるじゃないか」


 思い出したようにアイクが懐から取り出したコインには、確かに8の数字が刻まれていた。縁は擦切れて見えにくくなっているが、裏面にも何かを象った模様が描かれている。


「あぁ……言われてみればそうだったな」

「そのコイン、通貨じゃないよね。何かの記念品?」

「昔むか~しの貰い(モン)だ。何だかんだ思い入れがあるから、今でも御守り代わりに持ってるんだよ」

「思い出の品か。何かご利益があるんじゃない?」

「いや、ここ最近を振り返ると悪運が付いてるような……」

「本当に思い入れある??」


 そんなこんなで車両まで移動して、再び教員に名簿の確認をしてもらい搭乗する。車両は荒野での悪路走行を想定した大型トラックを改良したもので、荷台には荒野の灰を防ぐための簡易的な屋根と壁、外の景色が見える程度の窓があるだけで、後は簡易的な座席が両端に付けられているだけだった。

 アイク達以外の生徒は全員搭乗済みのようで、視線が一瞬だけ二人に集中する。部外者というのに加え、装備はなけなしの資金で買ったもの。一部から嘲笑うような視線も飛んでくるが、一部からは見惚れるような視線も飛んでくる。十中八九エルに対するものだが、二人はそんな視線を無視して空いていた隅の座席に腰を下ろす。偶々アイクの隣になった女生徒が会釈をしてきたので、アイクもそれに返した。


「全員乗ったな。これから荒野に出る訳だが、今回は引率のハンターに加え、外部のハンターも参加する。くれぐれもトラブルは起こさないように。以上だ」


 担当教員はそれだけ言うと、運転席の方へ乗り込んで行った。運転席と荷台は連結式。自然とこの場には生徒とアイク達だけとなる。


「見ろよあの装備。継ぎ接ぎだらけじゃん」

「それに武器も大昔の掘り出し物だぞ。歴史の資料に載ってたやつだ」


 小声で喋っているつもりだろうが、閉鎖空間では否応なしに声は聞こえてくる。彼らの顔に浮かんでいるのは、嘲笑。学校というコミュニティの中に突如見知らぬ者が入れば、誰しもがつい目で追ってしまう。そしてその様相が自分達よりもみすぼらしいのであれば、好奇の視線は嘲りを帯びるようになる。中には眼中にないと興味を外す者、未だに好奇の目で見ている者もいるが、彼らの中ではアイク達は自分よりも下という格付けがされたようだった。


「そう言えばアイク。今回の依頼、活動場所って開示されてなかったよね?」

「あぁ。荒野での活動としか聞かされてないな。引率のハンターが就くから危険度は下がる、って程度の認識だったし。こっちも聞きはしなかったな」

「因みに、一番当たったら嫌な場所は?」

「旧ナユタヤ地区」

「即答ね。まぁ、わからなくもないけど」


 エルは苦笑しているが、その笑みにはどこか納得も含まれている


「工業都市だったカラタチ街遺跡から漏れた腐蝕性のナノマシンがあそこに溜まってるんだっけ?」

「あぁ。近くの山で風が遮られてる所為でな。おかげで足場がかなり脆くなってるし、地下には“ケラスホッパー”の巣があるから落ちたら即死だぞ。理由がなかったら近づきたくもない場所だ」


 ケラスホッパーは地中に生息する肉食性のモンスターで、日光に弱く、落とし穴で地中に引き摺り込むか夜間に巣の周辺で狩りをしている。体長は1mにも満たないが、厄介なのは群団とも呼べる群れの数であり、数百から千は存在していると言われている。標的とした獲物に集団で飛び掛かり、生きたままに骨の髄まで食い尽くす生態は熟練のハンターからも恐れられている。そんな彼らの性質上、旧ナユタヤ地区は理想郷とも呼べる立地であり、彼らが住まわない理由はなかった。地中には既にいくつもの巣が形成されており、地表には巧妙に仕掛けられた落とし穴が無数に存在している。そんな危険地帯となっているために、旧ナユタヤ地区はカラタチ街遺跡に向かうハンター以外は滅多に通らない場所となっていた。


「踊り食いは勘弁したいかな……」

「誰でもそうだぞ」

「……あ、あの」


 丁度アイクの隣に座っていた女子生徒が、おずおずと言った具合にアイクに尋ねてくる。その表情には不安がありありと浮かんでおり、アメジストの双眸が僅かに揺れている。十中八九、アイク達の話を聞いた所為だろう。


「私達は、今日が初めて荒野に出る日なんですけど……今日はそんな危険地帯に行くんですか?」

「いや、流石にそこまでは行かないだろう。こんな車両で突っ込めば足場ごと崩れて落っこちるのは見えてるんだし」

「一応は駆け出し相当の人が受ける依頼、ってことだし、そこまで危険な場所には行かないんじゃないかな。……あぁ、でもモールワームが出たら真っ先に逃げなよ。アレには太刀打ちできないから」

「モールワーム……?」


 女子生徒は、きょとんとした顔でこちらを見る。


「あれ、まだ知らなかったかな」

「いえ。知ってはいますけど……モールワームは“霊王山脈”周辺に生息しているはずです。ヤザミ市街周辺には居ないのでは?」

「おっと。そこまでちゃんと知ってたんだ」


女子生徒の言う通り、モールワームは本来ハクレイ街遺跡の更に向こう。上位ハンター達が向かう“クリカラ都市遺跡” の近くに聳える霊王山脈に生息しているモンスターである。そんなモンスターがここにいるのはおかしい、それが女子生徒の意見だった。


「そう、本来は君の言った通りこの付近には出て来ないんだよ。……本来は」

「最近になってここ周辺で見られるようになったんだよ。おかげで荒野でロクに稼げなくなって困ってるんだ」

「モールワームがこの周辺に……!?」


 女子生徒の驚きはひとしおだ。何せまだ遭遇しないだろうと思っていた高難易度のモンスターがこの周辺にいるかもしれないというのだから。そしてその驚愕は、周囲へと伝番する。知らず知らず背後に忍び寄っていた恐怖に震える者、どうせ出て来ないと高を括る者。二人のことが気に食わないのか、密かに睨み付ける者。各人の思惑がどうであれ、車両の中に緊張感が生まれた。今朝の弛緩した空気が今ではややピリついている。しかしそれは、ハンターなら誰しもが心の内に秘めている物だ。全員が全員、必要最低限のものを漸く携えた状態で、目的地へと向かう車両で静かに揺られ続けていた。




“ケラスホッパー”は、「螻蛄ケラ」と「飛蝗グラスホッパー」を組み合わせた造語です。外見は螻蛄がそのままデカくなったものとお考え下さい。

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