森のきこりと鳥のはなし
昔々ある所に、青々とした広い森がありました。
森の中には機械のきこりが住んでいて、いつも鼻歌を歌いながら、森の世話をしていました。
森にはきこりだけ。一人ぼっちだけれど、機械の彼は寂しさなどは感じず、鼻歌を歌えれば満足でした。
ある時、きこりがいつも通り鼻歌を歌いながら仕事をしていると、青い小鳥が、きこりに話しかけてきました。
「やあやあ、君は素敵な鼻歌を歌うもんだね。空を飛んでいたら聞こえてきて、つい楽しくなって、わざわざこの森に降りてしまったよ」
小鳥は、きこりの近くの枝に留まりながら、そんな風に彼を褒めます。
褒められるとつい嬉しくなって、きこりは「そうかな」と、また鼻歌を歌います。
「いい歌だよ。素敵だ。こうやっていつも聞かせてくれるなら、僕はこの森にしばらく住まわせてもらおうかな」
心地よい鼻歌に、小鳥は幸せな気持ちになり、この森に住まう事を決めました。
こうして、森に小鳥が住むことになりました。
またある日、小鳥は鼻歌を歌いながら仕事をするきこりに、うっとりしながら話し掛けました。
「君はこの素晴らしい鼻歌が得意なようだけど、他の人には聞かせた事があるのかい?」
小鳥の問いに、きこりは首を横に振りました。
この森に居るのはきこりだけでしたから、鼻歌を聞かせるような相手は、ずっといなかったのです。
小鳥がこの森に訪れた、初めてのお客さんでした。
「そうなのかい。これだけ素敵な鼻歌を僕が独り占めできるなんて、僕はついてるなあ」
小鳥はきこりの鼻歌にうっとりとしながら、自分だけが楽しめる幸せを満喫していました。
何日か過ぎた後、また小鳥は、鼻歌を歌うきこりに話しかけます。
「僕は今まで旅をしてきて、いろんな場所で色んな人と会って、沢山友達を作って来たけど、君のように素晴らしい鼻歌を歌える人は、他にはいなかったよ」
楽しそうに聞きながら、そう話しかけてくれる小鳥に、きこりはちょっとだけ、得意げな顔になりました。
「だけれど、ねえ、君。世の中には沢山色んな事が出来る人が居るんだよ。君の鼻歌も素晴らしいけど、同じくらい色々素晴らしい事が出来る人が居るんだ。君が一人でこの森に居たのは、ちょっともったいなかったなあって、そんな風に思ったんだ」
小鳥はちょっと残念そうに「そんな人たちに、会わせられればいいのにな」と呟きました。
一週間ほど経った頃、小鳥はきこりにある相談を持ち掛けます。
「色々考えたんだけどさ、やっぱり君の鼻歌の才能をここだけで終わらせるのはもったいないよ。それに、この森はとても素敵なんだ。青々としていて、沢山の果物が食べられる。こんなにいい場所を、誰にも知らせないなんてもったいないよ」
もったいないもったいない、と、今までとは違う口調で話しかけてくる小鳥に、きこりは「僕はそんなにもったいない事をしていたんだ」と、もったいない事をしてしまったような気がしてしまい、今までの自分に後悔し始めました。
小鳥は話を続けます。
「だからさ、君の鼻歌を、もっと沢山の人に聞いてもらえるようにしようよ。僕は色んなところにいける羽がある。僕には色んなところに友達がいる。とっても面白くて、君と同じくらいに素敵な人達さ。だから、その人達に、この森の事を、そして素敵な鼻歌を歌える、君の事を紹介してもいいかな?」
小鳥はいつになく真面目な顔をしていました。
きこりも、今までの自分がもったいない事をしていたんだと思い込み、小鳥の話に「解った」と、頷きました。
こうして、小鳥は多くの素敵な友達に、この森と、きこりの事を教えて回りました。
一月ほど経った頃、森に、色んな人が訪れるようになってきました。
皆が個性的で、色々な事が出来る人ばかりで、面白い人ばかりで。
森は賑やかになり、とても素敵な森は、沢山の幸せで溢れました。
踊りを踊るのが上手い人、楽器を演奏するのが上手い人、絵を描くのが上手い人、人を笑わせるのが上手い人、物語を作るのが上手い人……いろいろな、素敵な人が集まり、やがて木こりもその中の一人になって、楽しい時間が流れました。
彼らは皆で力を合わせ、素晴らしい森をよりよくしようと、きこりを手伝ってもくれました。
得意げな顔で、小鳥は言います。
「やあやあ、やっぱり君は素敵な人だ。君の鼻歌はとっても素敵だって、皆が言っているよ。彼らは君と一緒になって、もっともっと楽しい時間を過ごしたいようだ。これからも、沢山素晴らしい鼻歌を聞かせてほしいな」
小鳥が褒めてくれるのが嬉しくて、きこりは「解ったよ」と、にっこり笑いながら頷きました。
その日から、きこりはより素晴らしい鼻歌を歌う為にはどうすればいいのか、考えるようになりました。
真面目なきこりは、素晴らしい鼻歌を考える事に集中するようになっていきます。
三か月が経った頃、小鳥はきこりの鼻歌を聞きながら、感想を述べました。
「やあやあ、君の鼻歌は相変わらず素晴らしい。毎日聞いていても飽きないくらいだよ。だけど、ねえ、君。本格的に鼻歌を考えるなら、森の手入れなんてしている場合じゃないんじゃないかな」
小鳥の感想に、きこりは「なんで?」と首を傾げます。
きこりにとって、森の手入れは大切なお仕事。
だけれど、それどころではないのだと小鳥は言うのです。
「だって、君は素敵な鼻歌を歌える人なんだよ? この世に二人といない、君だけの鼻歌を歌える素敵な人なのに、誰にでもできる手入れなんかに時間を費やすのは、もったいないと思うんだよね」
もったいないもったいない、と、小鳥はきこりに損をしているように思わせ、また笑います。
「僕は、君の鼻歌はもっと多くの人に聞いてもらいたいと思うんだよ。森の手入れは、森に来た人にやってもらえばいい。実際、今まで森に来た人は、君の事を手伝ってくれただろう?」
小鳥にそう言われると、きこりも「確かにそうだ」と思えてしまいます。
「君は、君にしかできない事をすべきだよ。君は、この森に来る人をもっと増やす事を考えるべきだよ。君の歌を、もっといろんな人に聞いてもらうんだ」
小鳥は笑いながら「また僕が広めてあげるよ」と、どこかにいる知り合いにきこりの素晴らしさを広める為、飛んでいきました。
半年ほど経った頃、森はかつてないほどにぎわい始めました。
素敵な人達は素敵な事をして、沢山楽しい事をしていました。
後から来た人たちは素敵な人達ほど素敵ではなく、特に何かできた訳でもないのですが、素敵な人達のする事を楽しみ、森に住まう事を決めました。
また、小鳥が言います。
「やあやあ。君のうわさを聞きつけて沢山の人がこの森に来てくれたよ。そして君の鼻歌はやはり素晴らしいな。皆が君の事を褒めるんだ」
小鳥が褒めます。きこりは、嬉しくなって「よかった」と笑いました。
「さあ、もっともっと沢山の人に、君の鼻歌をきかせてあげよう。そうすれば、この森はもっともっと、楽しい場所になるはずさ」
小鳥は笑いました。きこりも、友達の彼が言うならそうに違いないと、そう思って鼻歌の事ばかり考えるようになりました。
一年が経つと、森は段々と、輝きを失っていきました。
こんな事は初めてで、きこりは「なんでだろう?」と考え始めました。
小鳥は言います。
「君の鼻歌に皆が飽き始めてるんじゃないかな? もっと素敵な何かができないと、ダメな頃合いなんじゃないかな?」
きこりは困ってしまいます。
今まで鼻歌の事しか考えて無かったのに、急にそんな事を言われても、できる事など何もないと思っていたのです。
「そうだ、新しい芸をしようじゃあないか。君は、素敵な人達のやっていた事をずっと見て来ただろう? きっと君は、それを真似る事が出来るはずだよ」
小鳥の提案に、きこりは「そんな簡単にできるはずないじゃあないか」と思いましたが、「友達の彼が言うなら」と、しぶしぶ頷きました。
こうして、きこりは素敵な人達の素敵な芸を、真似るようになっていきました。
二年経ち、森は、どんどん輝きを失っていきます。
やがて、最初に森に集まってくれた素敵な人達は、一人、また一人、森から去っていきました。
けれど寂しくありません。
森にはまだまだ、沢山の人が残っているのですから。
小鳥は笑います。
「ここから去った人の事なんて考えなくていいよ。ここにいる人の事を考えればいい。君は、ここにいる彼らを楽しませてあげれば、それでいいんだから」
きこりも、彼の言う事だから信じて頷きました。
また、小鳥は続けます。
「ねえ君。君の歌う歌も、描く絵も、語るお話も、皆素敵だよ。君は才能の塊だな。何をやっても素晴らしい。ねえ君、もっともっと、沢山の人をこの森に呼び込もう」
そうすれば、ずっと寂しくないはずだからと、小鳥は提案しました。
きこりも、迷うことなく彼に従いました。
こうして、噂を聞き付けた沢山の人が、森に訪れるようになりました。
三年目。青々としていたはずの森は、やがて枯れた木が目立つようになってきました。
きこりの芸はますます磨きがかかり、沢山の人がこの森に訪れ、沢山の人が、彼の芸を見て楽しみました。
けれど、鳥はどこか、つまらなさそうな顔をしています。
「君の芸は素晴らしいはずなんだが、見た人はなんだか、満足できていない様なんだよね。君は、もっともっと頑張らないといけないんじゃないだろうか?」
鳥からの注意に、きこりは「頑張りが足らなかったのかな」と、残念な気持ちになりました。
けれど、森を訪れてくれた人たちのために、沢山沢山、色んな芸が出来るように頑張りました。
六年が経った頃、森は、どんどん朽ち始めました。
きこりはそんな事も気にせず、沢山の人を楽しませるために色んな事を覚えようと,躍起になっていました。
鳥は、難しい顔できこりに言います。
「ねえ君、前からいた人が、どんどんこの森から去っていっているんだ。君の芸が飽きられ始めてるんじゃないかな?」
このままでは大変だよ、と注意され、きこりは、ますます焦ってしまいます。
「僕は君の素敵な芸が好きだったんだ。君ならきっとできるよ。また、沢山の人に噂を聞かせてあげよう」
そうして鳥は茶色い翼を羽ばたかせ、誰かの所へ飛んでいきました。
十二年経った頃、森はどんどん禿げ上がり、無残な枯れ木ばかりになっていきました。
森に訪れた人も、きこりの芸に見向きせず、残念そうな顔になりながら去っていきます。
鳥がどれだけ呼び寄せても、誰一人残ってくれず。
きこりは、「僕が何か間違ってたんだろうか」と、悩み始めました。
鳥は言います。
「君は何も間違っていないよ。だってそうだろう? 君は僕の言うとおりにしてくれていたんだから。今まで僕は何も間違っていなかっただろう? 大丈夫さ。きっと、また楽しくなるよ」
鳥は笑います。
きこりも、「彼がそう言うのなら」と、ひとまずは悩みを仕舞い込みました。
けれど、きこりがどれだけ芸を磨こうと、鳥がどれだけ人を呼び寄せようと、森は酷い姿になっていくばかり。
人は去っていくばかり。
何でそんな事になっているんだときこりが困っていると、森に残っていた人達が、きこりに話しかけてきました。
「あの鳥の言うとおりにしていたら、森はどんどん酷くなっていくよ」
その人達は、二番目に来た人達でした。
素敵な人達はみんないなくなった後。
けれど、まだ彼の芸を愛してくれていた彼らはまだ残ってくれていたのです。
「君は、最初のように鼻歌を歌いながら、きこりの仕事をすべきだと思うんだ」
昔のきこりと森を知っていた彼らは、きこりに元に戻るよう提案しました。
それこそが、森が戻る為の、あの楽しかった日々に戻る為の方法なのだから、と。
けれど、きこりは鳥の事を馬鹿にされたように感じてしまい、「そんな事はあるもんか」と、彼らに怒ってしまいました。
きこりは、友達を信じていたのです。
そして同時に、きこりの頭の中にはもう、森の事なんて欠片も残っていませんでした。
彼は、芸を磨きさえすればそれでいいと思っていたのですから。
こうして、二番目に来た人たちは森から全員いなくなり、森はどんどん、寂しくなっていきます。
十三年目。
きこりは、自分や鳥に批判的な意見を言う人と、喧嘩ばかりするようになりました。
どうして自分達の事を受け入れてくれないのか。
なんで自分達に否定的な事ばかり言うのか。
きこりには、訳が分からなかったのです。
だから、自分に意見する人は皆、敵のように思えていました。
唯一の味方の、鳥以外は。皆。
鳥は笑います。
「君は間違ってないよ。悪いのはあいつらだ。あいつらが批判的な事ばかり言うから、君もつまらない気持ちになるんだよ」
鳥の言葉に、きこりも「そうに違いない」と頷きました。
きこりにはもう、鳥さえいればそれでいいと思えるようになっていたのです。
鳥は言います。
「ねえ君。あんまりうるさい奴は、口を塞いでしまえばいいよ。君の話を聞かない奴は、耳を取ってしまえばいい。君から目を背けた奴の目なんて、必要ないんだから潰してしまえ」
そうすればきっと、皆君の事を無視しなくなるし、皆君の事を尊重するはずだからと、赤い羽根の鳥はせせら笑いました。
きこりは、「彼の言う事なんだから、間違いのはずがない」と、同じようにせせら笑いました。
この日から、きこりに批判的な事を言ったり、きこりの意見を無視したり、きこりから目を背けようとした人は、きこりから攻撃されるようになっていきました。
十四年目。
森はどんどん寂しくなり、数えるほどしか人がいなくなりました。
赤い鳥は、もう誰も呼ぼうとしなくなり、きこりも、自分達に都合の悪い人を攻撃し続けます。
赤い鳥は言いました。
「もう、面倒くさいよ。僕と君の敵は、全員僕たちが見えなくなればいいんじゃないかな」
きこりも頷きました。
きこりは、疲れていたのです。
森に来る人は減っているはずなのに、森の外からいつも攻撃されていて、そして、どれだけ攻撃しても、攻撃してくる人は減らないのです。
きこりは、今の状態が終わるならそれでいいと思う様になっていました。
こうして、きこりは自分達に攻撃する人全員から自分達が見えないように、攻撃する人全員の目を、潰して回りました。
十五年目。
かつて森だったものは、ただの朽ちた赤い土地になりました。
きこりだったものは、ただの鉄くずになり。
赤い鳥は、朽ちた枝から飛び立ちます。
赤い鳥は笑いながら言いました。
「ようやく目障りな森が一つ、消えたぞ。あの馬鹿なきこりは本当に扱いやすかった。ああ、清々した」
誰も来なくなり、誰にも手入れされなかった森は、朽ち果ててしまい。
森と共にあったきこりは、結局誰からも相手にされなくなり、寂しさに耐えられなくなり朽ちてしまいました。
しかし、赤い鳥は笑います。笑い続けます。
「さあ、隣の青々とした森も潰してやろう。一つ潰れたら二つ。まだあるならもっともっと。全部全部、朽ちて真っ赤に染まればいい」
赤い鳥は、次の青々とした森を台無しにしようと、降り立とうとしました。
《ターンッ》
その時です、赤い鳥は、次の青々とした森から銃で撃たれてしまいました。
青々とした森には、かつてきこりのいた森から出ていった素敵な人達や、きこりに忠告してくれた人たちが移っていました。
銃を撃ったのも、その中の一人。
「バカな鳥だ。あれだけの事をやって、自分だけ何事もなかったことになると思うなんて」
森に落ちた赤い鳥は、青い血を流しながら「助けて」と小さく呟きました。
森の人々は、怒っていました。
「お前がきこりをあんな風にしたんだ。僕たちは、最初のままの彼が好きだったのに」
赤い鳥は泣きながら「助けて」と呟きました。
森の人々は、怒っていました。
「何が助けてだ。お前は悪い奴だ。お前が居なければ、彼は今も鼻歌を歌っていられたはずなのに」
赤い鳥は、怒りました。
「うるさいぞお前達。僕が居なければ、お前らは彼の鼻歌を知ることもなかったのに。僕が広めたんだ。僕が教えてやったんだ。なのにお前らは、なんで僕に感謝しないんだ。みんなみんな、きこりばかり好きになって、きこりばかり大切にして。誰も僕の事を、見てくれないのに」
森の人々は怒りました。
「お前はきこりの事を利用しようとしていただけじゃないか。みんなそれを知っていたから、どうにか彼を助け出そうとしていたのに。お前はいつも自分の事ばかりだ。真っ赤な羽の、嘘つきな鳥め」
かつて青かった鳥は、今では真っ赤な目を血走らせながら「いいから助けろよ」と叫び散らしていました。
けれど、誰も彼を助けません。
自分の事ばかり考えていた彼の事を好きになった人は、どこにもいなかったのです。
「なんで誰も僕を見てくれないんだ。なんで誰も僕を好きになってくれないんだ。僕は僕が好きだし、僕がやりたい事をやっているだけなのに。僕がやりたい事をやってるんだから、みんな僕を尊重してくれればいいのに」
もっともっと、もっともっともっともっと、僕を見てくれればいいのに、と。
そんな馬鹿な事を言いながら、赤い鳥は死んでいきました。
三十年が経ちました。
青々とした森は、次第に素敵な人達と、後から来た人達とが手を取り合い、どんどんと素晴らしい森になっていきました。
森は次第に広がっていき、朽ちたきこりの森とも繋がり。
あの森は今、森の人々の手で再生されたきこりによって、美しい青々とした森へと戻ったのです。
きこりはまた、鼻歌を歌いながら、仕事をします。
赤い鳥に騙されていた日々を忘れ、また、最初のように鼻歌を歌いながら、森の世話をしていたのです。
鼻歌を聞きつけ、青い羽根の小鳥がやってきました。
「やあやあ、素敵な鼻歌を歌っているね、君」
近くの枝に留まった小鳥に……きこりは、反応しませんでした。
「なんで反応しないんだい? ねえ、僕は君の歌を素敵だと思っているんだよ? ついつい、飛んでいたら聞こえて、この森に降りてしまったくらいなんだ」
無反応に不思議がった小鳥は、なんとか話を続けようとしますが、きこりは、もう何も答えませんでした。
彼がするのは鼻歌と、森を手入れする事だけ。
彼はもう、それしかできない機械になっていたのです。
「……つまんないな。もういいや」
小鳥は愛想のないきこりに飽き、すぐに飛び去りました。
《ターンッ》
そうしてまた、銃声が響きます。
青い小鳥は撃ち落とされ、そのまま死にました。
小鳥を撃った人は、小鳥を踏みつけながら笑います。
「この森に入る鳥は、皆殺してしまおう」
それこそが、きこりが幸せに過ごす為の、唯一の方法なのだから、と。
きこりが何も反応しない様に作り替えた人々は、ずっときこりを守ろうと思ったのです。
森の人々は、いつしか真っ赤に染まっていました。
けれど、きこりが幸せならそれでいいと、ずっと思っていました。
森はやがて、真っ赤に染まりました。
青いモノを嫌った人々は、森に来る青いモノを全て敵とみなし、森すらも赤く染めたのです。
その頃にはもう、誰もきこりのことを考えなくなりました。
きこりは、今日も鼻歌を歌い、森を世話します。
世界から、素敵な人達がいなくなりました。
世界から、二番目の人達もいなくなりました。
全員、きこりの邪魔になったから、きこりに殺されました。
森はまた、きこりだけしかいなくなりました。
けれど、きこりは寂しくありません。
だって、もう何も感じられなくなったのだから。
鼻歌を歌い、森の世話をするだけで、彼は幸せなのです。
百年経ち、森は青々とした森へと戻りました。
きこりすら朽ち果て、森だけが残りましたが、きこりがいなくても、森は青々としていました。
森だけが残りました。
森だけが残れば、それでよかったのです。
千年経ち、森に新たな人達が集まり始めました。
果たして彼らは、森を青くするのでしょうか。
それとも、森を赤くしてしまうのでしょうか。
森は、何も語りません。
ただそこにあり、人々を見ていました。