とある探索者組合の危機感
とある会議室で、探索者組合の会長含め幹部たちが集まっていた。
「これはどういうことだ?」
「非公式組を逃したばかりか多大な被害を出したまま見失うとは」
「申し訳ございません。現在手あたり次第探っている状況でして」
非公式組を追っていた部隊の指揮を取っていた男が頭を下げて謝っていた。
「もういい、非公式組の対処は二級事項だ、一番ではない。追えなくなった時点で次の事項だ」
「ええ、情報によりますと近い内には奴らが本格的に動き出すようですからね」
「迷宮の対処だけに留まらずに厄介な」
幹部陣が口々に報告と話と話し合いを始める。珍しくもなく、迷宮は人類と共存関係にあるが別に味方でも何でもない。むしろ甘く見ていたら迷宮はいとも容易く人類を食い殺すものだ。
それに組合の敵は迷宮だけではない。
「関東の方の犯罪組織だが……」
「北海道で複数の迷宮が同時進化を……」
「東北の方で大規模な迷宮崩壊が……」
「与党第一党からの要求が……」
「九州を陣取っていた探査車たちの様子が……」
「沖縄で新しい迷宮が……」
「中国地方で迷宮産のドロップ数が上がって……」
「あの大企業での話し合いの結果……」
「四国はこれと言ってありませんね、平和そのものです」
様々な話が飛び交う。頭痛がするほどの仕事量だ。
「まぁ人側の対策はこの程度でいいでしょう、我々の本来の相手は迷宮含め怪物の対策ですから」
「そうですね」
だが最初に出た話など組合にとってのメイン作業ではない。組合の目的は人類外の迷宮や怪物の対策である。国家や企業に付き合っているのはそのための根回しと戦力確保のためだ。
「迷宮側のコンタクトはどうだ?」
「はい、実はですね、これはビックニュースなんですが、近い内に推奨レベル900台の迷宮を出すという情報が得らました、数は五つだそうです」
「それは本当かね!」
「早すぎる!800レベ台の迷宮を出してまだ3年程度しか経っていないんだぞ!」
「大災害がまた来る可能性があるな」
「前代未聞ですよ。800レベでさえ手に余るのに」
人類は現在出ている12の700レベ台の迷宮をギリギリで踏破し、800レベ台の七つ迷宮は一つも攻略できていなかった。それなのに追加で900レベ台の迷宮が5つも出てきたらオーバーキルである。
「日本には出さないらしいが、各大陸に一つづつの予定らしい」
「それは迷宮からの情報か?」
「はい、迷宮側の最強戦力を出すための布石かと」
迷宮側の勢力は、迷宮を生み出した迷宮本体である迷宮種を中心に、600レベ以下が有象無象でそれ以上が
叩き上げの700レベ台『十二魔将』。
幹部級の800レベ台『七大列強』。
災害級の900レベ台『五大災厄』。
そして大幹部級の1000レベである『三界卿』がいる。
「だが事前調べでは、『五大災厄』はリソース回収には向かないと言われていたじゃないか?あいつらが出てきたからと言ってその上まで出るものなのか?」
「確かに『五大災厄』は暴れること、破壊することに特化した戦力ですが、今までの加速度的な迷宮の増加を見るにそうではないかと」
『五大災厄』を出せるだけの余裕が出てきたということは、迷宮の戦力を迷宮の外へと出せるレベルまで成長しているという事だ。これ自体は由々しき事態だが、迷宮がリソースを回収するには、迷宮内に物や人を引きずり込む必要があるので、『五大災厄』は地上破壊には向いていてもリソース回収には向いていないはずだった。
「『五大災厄』は確かに破壊特化ですが、それで人類が弱れば迷宮がさら広げやすくなります」
「広げる……?まさか!」
「迷宮との境目を緩くするつもりか!」
迷宮は今までどれだけ数が増やしても、崩壊など例外を除けば引きこもって外に出てくることはなかった。しかし浸食の準備がほぼ完了したため、地上に打って出るつもりなのかもしれなかった。
それについて大慌てな幹部たちは、対策のための話を加熱させようとしたその時――
「会長?どうしまし……!?」
「「「会長!?なにを!?」」」
今まで黙っていた会長が立ち上がり、姿が消えたかと思うと幹部の何人かが斬り裂かれ、盛大に血を吹き出しながら吹き飛ぶ。
「裏切者だ。こいつらを今から始末する。隔離しろ」
「そんな!無茶苦茶だ!」
「そうです、そうだとしてもいきなりすぎる!」
「弁解を――!?」
弁解をしようと会長に近づいた高齢の女性の首が飛び机の上に転がった。
「なんて奴だ!」
「中々表に出てこないからって支配者気取りか!」
「こんなこと許されるはずがない!」
各自が勝手に喚き、全員が武器を持つ。ここにいる最低レベルは400レベであり、中には600に達する実力者しかいないこの空間内に、すさまじいい覇気と力のぶつかり合いが起きるはずだったが
「黙れ」
会長の睨み一つで誰も動けなくなった。
「で、何か弁解はあるか?厄災?」
転がった首に刀を向ける。
するとカッと見開いたその目がぐるぐると動き出し、会長を見やる。
「あ~そうだったな、快人くん~、お前生きてるんだったな。あの戦いで死んだと思ってたのにな。足手まといだった癖にしぶとく生き残りやがってよ」
「あそこまでして死なんお前に言われたくないな」
生首と会長が憎まれ愚痴をたたきながら話す。
「迷宮種も厄介でめんどくさくてな、同じ侵略種なのに協力しようって言っても追い出してきてお前に告げ口したんだからな。性格悪いよな?だから嫌がらせに本体の力を大きくそぎ落としてやったんだぞ、人類にとってはありがたいだろ?」
「最終的な競業相手なんだから当然だろ。まぁお前の場合はそれ以前の問題か」
宇宙か異次元か、とにかく外から来た侵略種か破滅種か何かが、迷宮や厄災の正体である。特に厄災は忌み嫌われ、徹底的な駆除が推奨されるのでこういう対応になる。
「弱っちい人類と完全体にも成れない迷宮種がタッグを組んで私を殺しにくると?愉快な話だな!それでどうだ?ここはいったん休戦して迷宮種を後ろから突き刺してやろうじゃないか?今の迷宮種なら人類でも駆除可能だぜ!出している迷宮は増やしているみたいだが、本体が出てい来ない時点でお察しってな!上位迷宮を出しまくっても本体が回復するまでは本格的な浸食もできやしねぇからな!」
確かに迷宮種は弱っている。厄災との戦いで深手を負った迷宮種は体を保てなくなって今や幼子まで戻ってしまっている。自衛と戦力確保のために迷宮を生産しているがそれが限界であった。
「世界の意思はどうした?あいつも黙りっぱなしじゃねぇか。まさか本当に死んだのか?それとも引き継げなかったのか?お前の母親も……」
「黙れよ」
口に刀を突き刺し口を止める。
「ひどいな~、この程度で黙ると思ってるの?全部失って頭悪くなっちゃったのかな?一人取り残されたのがそんなに精神に来ちゃったかな?やっぱお前はあそこで、みんなと仲良く死んどけばよかったのにね」
ケラケラを笑いながら会長を見つめる厄災は、倒れてた体と寄生先の数人を操って会長に襲い掛かる。
「「「会長っ!!!」」」
だがそれをものともせずにすべてを一瞬で斬り刻み塵に変えた。
「やっぱ無理か!カスみたいな欠片と弱い寄生先じゃこの程度か!」
「お前はしぶとくて悪質なだけだ、別に強い訳じゃないだろ」
厄災の恐ろしさは単純な戦闘力ではなく、圧倒的不死性としぶとさ悪質さである。害悪そのものである厄災は、その個体の精神性に問わず必ず他者へ不都合を押し付ける。特にこういう個体は、戦闘の土俵にすら立たせてくれずに、悪質な情報と罠で相手を翻弄した上で一方的に自滅や破滅を誘発させてくる。
「そうそうわかってるじゃん!でもぉよ~?最近はいい体が手に入ってね、本体の方は強さもそれなりよ?さ~て、君は私に勝てるかな?ってことで、せっかくだし宣戦布告でもしておくかな?
今年中に蹴りつけに行くんでよろしく!」
0時を回ったと同時にそう言い放った厄災は、頭部を爆弾に作りかえ嫌がらせの一つかのように爆散するのだった。




