『灰炎迷宮』のボス
四人がボス部屋に入ると、5mも超えてそうな黒い巨人が黒煙を口から吐き出し、炎を纏って待ち構えていた。
「さて二十回目は勝負を決めに来るよな」
「それ以降は残りカスですかね」
「今までで一番強そう」
「炎霊と焦熱の炭人でも混ぜたのか?」
魔物の種類が増えるにつれ、固定のボスは少なくなる。この迷宮の場合は炎霊、焦熱の炭人、火犬、火猫の中からそのボス個体的な魔物がランダムに選ばれる。迷宮側は安価に攻略されにくいパターンを作り出せるメリットがあるが、その分固定ボスに比べると性能は下がる傾向にある。
「ランダムボスではなくキメラってところか」
「珍しいですね。殆ど前例ありませんよ」
「キメラ多めの迷宮でたまに見かけるぐらいだよね」
「事例からじゃな」
・灼熱の巨人
・LV320
・状態 合成変異、生命燃焼、殺意爆増
・把握LV3・火煙操術LV3・炎越LV3・復元LV3
ステータスを見た四人は嫌そうな顔をする。
「随分と厄介そうだ」
「炎越か、あれやべぇぞ」
「単純計算でレベル分の炎系がほぼ無効化でしたか」
「格下の炎攻撃無効ってところだな」
一気に得意分野の火力が通じなくなり、おまけに素でも負けてしまった。やりようはあるとはいえ、酷いリスクを取らされる羽目になった事に顔を歪めたのだ。
「炎系の攻撃なしな」
「わかってるよ。ムダな攻撃はしない」
「ではそろそろ攻撃するとしましょう。今にも動き出しそうです」
「だな」
そう言った瞬間に吉泉が背後に転移し、後頭部に刀を全力で振り落とす。
「ッ!?随分と早いな!」
灼熱の巨人は、巨体に似合わない速度で振り返り腕を振るう。それに反応し、さらに近くに転移し直して額を斬り裂く。
「煙が!?」
噴き出した煙に纏わり着かれ、視界と呼吸の邪魔をする。いやそれだけではなく、煙は即座に赤熱し爆炎と化して空間を明るく照らす。
「余所見してんじゃねぇ!」
その隙に安藤が、重心となっている側の足に刀を振るう。
「え?」
「マジか!」
「安藤さん!」
急に目の前から足が消え、横からの衝撃に吹き飛ばされた。更には速攻で追撃を仕掛けられ、煙と炎をまき散らしながら、巨大な拳が安藤に迫る。
「何してんだ!」
「よそ見か!」
「ですね!」
だがそれが届く前に三人に邪魔され、バランスを崩し地面を抉って倒れ伏す。
「あぶねぇよ!」
そこに安藤が追撃をかけ、伸ばされた手を掻い潜る。そして的確に流れを断ち切り不調を与え、最後には背中に刀が刺さり、急速に力が吸い出す。
「その力、貰うぞ!」
術式も破壊され、荒れ狂う不調の波とガリガリと削れる体力に、その隙を縫って大量に奪われる力。暴れようにも残り三人に物理的な動きを封殺され、大きく揺れる事しか出ない。
「俺を最初に潰そうとしたんだろうが残念だったな、一人でも残したらこのザマだぜ」
灼熱の巨人が一番危険視していたのが安藤だった。単純にレベルで優るか、耐性がなければまともに動くこともできなくなる状態異常を相手に与え、触れるだけで相手の力を奪う。その他にも数多くの技や搦手を持つ安藤は、脅威そのものであり、まず一番に警戒して抹殺しようした。
「俺たちは四人パーティーだ。そのこと忘れてるようじゃな」
「余計な事言わない方がいいですよ!」
「そうだよ!」
迷宮は聞いているかもしれないが、灼熱の巨人にとってはそれどころではなかった。本当に何もできずに、視界が歪むほどの頭痛を溢れ出る殺意で強引に無視し策を講じるが、四肢をもがれた肉塊のようにジタバタする事しかできない。
「てかスゲー生命力だな。本当に生命燃焼してんのか?」
「この巨体であれだけの速度を出してるんです。それにこの状態でまだ動けるですから、万全であれば相当危険ですよ」
「おそらく、体が崩壊するまで爆発的に力を引き出し続けるんでしょうね」
「初手ミスってたら殺されてたのは俺たちかもな」
安藤さえいなければ、あの時に仕留めきれていたら、それを抜きにしてもあと一手出せる余裕があれば、行動を邪魔されなければ、そう無駄な思考が灼熱の巨人の頭を埋め尽くす。一つでも叶っていたら、完勝はできなくても一人ぐらい道連れにできるバスだった。
「お?弱って来たな」
「ずっと吸い上げるんだから当然でしょう」
「相手が一方的に弱ってこっちは強化とかホントヤバいな」
「本当に食らいたくないよそれ」
だがこの厄介で狡猾なパーティーには通じない。こちらの策を超え、ことごとく隙を突き続ける。それをまじまじと感じながら、灼熱の巨人の意識は混沌の中へと沈み消え失せる。
こうして 『灰炎迷宮』の最高戦力は、呆気なく四人の袋叩きで突破されたのだった。




