『ビル迷宮』の探索
推奨レベル170の『ビル迷宮』にやって来た田中は、普通のビル室内に見える空間に立っていた。
「なるほど、外の風景は背景か?マジで?」
窓から見える景色は、人がない事を除けば外と変わらない。どうなっているのかは謎である。
「一階層つづは他の迷宮に比べて広さはないが、その分階層が20階層と多めだったか」
中へと目を移し、無機質なだだっ広い空間を見る。特に何もないコンクリで出来た部屋であり、照明らしきものが天井から光を照らしているだけだ。
(罠は、タイルの破損、天井からタイルが落ちる、照明の光度の変化、扉の立て付けが悪くなるか。魔物は、スライム、光霊、影霊、小鬼、マネキンだったか)
光の塊の光霊、影に潜む影霊、やたらと強いマネキン。後の魔物は他の迷宮でも見たものだ。
「さ、魔物が増えて来たから」
いつものように魔物が増え始め、殺意が感じられる。
「へ~」
試しに通路から出てみた。その瞬間に。影部分から影霊が飛び出して、一瞬にして地面に切り捨てられる。
「悪知恵着いたか?」
待ちに不意打ちとは……と田中が言った瞬間に、マネキンが角から顔を出し、田中を確認するなり全力疾走してくる。
「マネキンは確か」
レベル1の体術を持つマネキンは、想像以上に滑らかに拳を突き出す。
「ただ強いだけか」
スレスレで避けた田中が剣を振るう。それがマネキンに直撃し、カチ割れながら壁に叩き着けられ粉々に消滅し、ドロップ品(マネキンの腕)を落とす。
(なんだかな。あいつ受けようとしてたな)
スキルありとは言え、200レベも行ってないのに随分と動きがいい魔物だと思いながらドロップ品を等価交換する。
「スライムもここまでくると強いな」
頭上に嫌な予感を感じ、咄嗟に退いたのが功をそうしたのか、スライムの奇襲を避けられた。そして伸ばして来た触手を斬り落としていると
「眩しっ!?」
割り込んで来た光霊が激しく発光し目をやられる。そこで後ずさったところをタイル割れの罠で足を取られ、畳み掛けてくる二体の魔物を
「うぜっ」
最大化させた身体能力で瞬殺する。
(魔物の質は高くて数が少ない迷宮。その割にドロップ品はしょっぱいと、調べた通りだな)
レベルの割に優秀なのが今戦った通りだ。そこに呪いの効果で強さが最大化されている。今回は、と言うかこれからは。知能もその強化対象かもしれないと、複雑な顔をする。
(知能が高くなっても別にリターンが増える訳じゃないからな)
単純な強さではなく知能面を強化した魔物は、とにかく厄介で報酬が少ない。しかもそこそこの規模の迷宮だったら、どこにでも発生する可能性があるのでこれも嫌われている。
「だから連携とか罠に嵌めようとするんのやめろや」
次々に部屋を渡って襲い掛かってくる魔物たちを切り捨てながらそう呟く田中は、二階層に入った半ばで、暗闇、タイル落ち、立て付け不備に襲われた挙句に、小鬼の群れに囲まれていた。
「くそ、チカチカする」
照明と光霊の妨害を受けながら、小鬼の群れを蹴散らし、隙を狙って来た影霊を叩き落として応戦していく。
(ま、この程度なら邪魔なだけで戦闘には支障はないな)
伊達に探知系のスキルを集めたわけではない。この程度の群れなら、視力を封じられてもどうとでもなる。なんなら目をつぶっていた方がやり易いぐらいだ。でもどこで情報を抜き取られるかわからないので、演技や偽装は怠らない。
(それにこいつら、連携のスキルがないから動きが歪でいくらでも隙付けるしな)
スキルがないなりに頑張っているのが見えるが、スキル持ちからすると余裕で突けるものでしかない。だが仮にこのレベルで動ける魔物たちがスキルを持つとなると、厄介極まりないだろう。
「あぁ~俺も早く操術系が欲しいよ、ならよ」
田中の動きが変わり、より鋭くなった剣技が魔物を次々に斬り殺していく。
「こんな感じに楽に殲滅できるだろうによ」
身体能力を瞬間的に強化させた田中は、そう言うと後ずさる魔物たちへ剣を向けるのだった。




