『灰炎迷宮』の探索
推奨レベル150の『灰炎迷宮』に来た吉泉は、チリチリと今さっき焼け落ちたような建物群を眺めていた。
「火事現場の廃墟が立ち並ぶ迷宮。確かに厄介そうですね」
吉泉の言う通り、木造建築が焼け落ちたような建物が立ち並ぶ迷宮だ。完全に炭化してる部分もあれば、まだ燃えていたり、煙が出ていたりと被害は様々だが、すべて繋がっており、一つのデカい建物の様にも見える。
「罠は、時々崩れる、火災系、煙幕系。魔物は、炎霊、焦熱の炭人、火犬、火猫たちでしたか」
吉泉は少し眉をひそめた。炎霊は、まるで炎そのものが生きているかのように動き回る火の玉。あれに触れられると、全身の軽いやけどに加え、即座に炎上が広がって装備にダメージが入る。
(確か焦熱の炭人は、焼死した人を参考にしたんでしょう。悪趣味なものです)
焦熱の炭人は、黒い人型の魔物で、動きは鈍く体は脆いが、意外にしぶとく力も強い。黒煙を吐き出して炭だらけにしたり、触れると熱かったり、抱き着いてきて発火し自爆したりする。
「あと火犬と火猫は、火を纏った犬と猫でしたか」
火犬と火猫は、俊敏で周囲を燃やして温度を上げる力を持つ。そのため、彼らが近くにいると急激に暑くなってくるのだ。
(ここの魔物は、一様に炎上と言うスキルを持ってますから、嫌われるわけです)
吉泉は深いため息をついた。この『灰炎迷宮』が不人気なのが一目で分かるからだ。その最たる例が、魔物の厄介さである。炎上と言うスキルは、自身や身近なものを燃え上がらせるもので、炎耐性がなければ攻略が一気にめんどくさくなる。
「それに報酬もショボいし不謹慎ですからね」
事前調べによると、ドロップ品や報酬に遺品じみたものが出てくるようで、それも迷宮の弱さも相まって大して役に立たないものだ。
「早速増え始めましたね」
吉泉は魔物の数が徐々に増えて強くなるのを感じ、焼け落ちた建物群の中へと踏み出した。
「で、ステータスはこんなもんですか」
入って一分も経たないで魔物がワラワラと集まってくる。そしていつものようにステータスを見た。状態異常は、殺意増幅で、炎上に加え、各自得意分野の強化といつも通りの構成だ。
「うわぁ、面倒ですね」
炎霊が相手の手の届きにくい位置でスタンバばり、火犬と火猫が素早く噛みつきと引っ掻きをしてくる。それを迎え撃ち、掴みかかって来た焦熱の炭人を斬り裂きながら、炎上と黒煙を転移で避けた。
(スキルがなければこの程度では済まないんでしょうね、きっと)
魔物の攻撃を察知し、先手で潰していく。無理なものは転移で良ければいいので気軽なものである。とは言えそれでも、熱が籠り、いちいち発生する煙も相まって若干息もしずらくなっていた。
「汚れるもの壊されるのもごめんですよ」
耐性があるとは言え、攻撃は受けないに越したことはない。それに装備は一点物の特別性。何千万もかけて作っているので、壊されてはたまったものではないのだ。
(それに罠が邪魔ですね。場所が分かるとはいえ、こうも誘導されると)
魔物と同様、数も質も底上げされている罠。そしていやらしい事に、魔物たちが罠を利用して戦いに来ている。これは上位迷宮でもある事だが、戦闘中に罠を利用しようとするのはあまり見られない行為だ。
「転移の連続使用はまだきついんですがね」
結構強くなったとはいえ、異能の連続使用は流石にキツイようで、吉泉にはまだ隙と言うものがある。だがまぁ、一息付ければすぐ回復するので、倒そうと思えば畳み掛ける他ないのだが。
(いやここは転移を極力使わずに乗り越えた方がいいかもしれません。異能頼りでは勘が訛ってしまいますし)
便利なものに頼り過ぎるのも良くないと、異能の使用を控える吉泉。幸いな事に、攻撃は激しくても致命的ではないため、いい経験になるだろうと考えての事だ。
「では、最奥の10階層までそれで行きますか」
そう呟くと吉泉は、安全を度外視にして攻勢に出るのだった。




