とある探索者の報告
とある組合の客室で、雷久保と清水は支部長に事のあらましを報告していた。
「なるほど。では、計測器の故障の可能性は限りなく低いと?」
「そうです。こちらが確認した範囲では、故障は見つかりませんでした。一応後に修理に出して再確認もします」
「以上です。詳しくは後日、書類にして提出します」
それを聞いた支部長は
「報告ご苦労。では下がってくれたまえ」
「「はい、失礼します」」
そう言って二人を下がらせた。
「はぁ~、また面倒な事を……」
二人が退出して、気配が消えたのを確認した後にため息を吐く支部長。
「藤本支部長。ため息は幸せが逃げますよ」
「分かってないな。阿達くん。ため息はストレス緩和にいいんだよ……。ところで、今回の件、どう思う?」
最低限の作業をこなしながら、気配を消していた女性秘書である、阿達に声をかける藤本支部長。
「まだ詳しくは分かりませんね。迷宮の異常は、種類の割に判断が難しいものが多いので」
「詳しく調べるか、当事者ぐらいじゃないとわからんからな。でも様子からして、迷宮成長や進化の類ではなさそうだが」
突発的な異常で代表的なものが、強力な魔物や罠、崩壊などが発生する場合だ。逆にゆっくり変わっていくのは、成長や進化と言う大きな事が多い。だがそう思われていたのは、計測器が出来るまでの話だ。
「計測器は便利だが、迷宮とのイタチごっこで形式が分かれすぎて困るな」
「異変前の傾向がわかるようになったのは凄い事なんですがね。あれは流石に想定外でしたが」
迷宮内のエネルギーの強弱やムラなどを知れる計測器は、迷宮解析において大きな貢献をした。これにより、それまでのデータと組み合わせて事前に迷宮の異変を知れたり、魔物や罠の強弱や配置場所を大まかに割り出せるようになっていた。
しかし……
「それに迷宮が対策してくるから、大きな事しかわからなくなったんだよな。流石に今回は違うと思うが」
「発売当初は大繁盛だったんですがね。罠の隠蔽に手を出されては廃れますよ。お陰で今では、研究分野や彼らのような管理員にしか使われなくなりました」
使用頻度が下がり、品質が上がったことにより人類が出し抜いているが、今後もイタチごっこが続きそうだと何時のようにため息を吐く二人。
「事前の反応もなかったみたいだし、考えたくないが、テロか迷宮にダメージが入ったか……」
「完全に正常の状態からの異常は、滅多にありませんからね」
事例の割に種類が多い事態に、眉を潜ませる藤本。
「じゃあまさかあれか?あれだ、あの……呪いの件の……」
「迷宮の呪い件ですか?国内では、もう5年近く確認されていませんし、本部や他の支部からもそんな話は上がって来ていませんね。ですが、なんであれ由々しき事態ですね。本部にも連絡が必要でしょう」
罠でも魔物でもなく、迷宮に直接狙われるヤベー呪いがあるのだが、それは全国どころか世界でも稀な事例だ。
「調べ直す必要があるのか。面倒だが、ほっとくと碌な事ねぇからな。あれ。隠蔽せずに出てきてもらいたいもんだがな、当人たちには」
「無理でしょうね。呪われる時点で碌な事してないでしょうし、呪い自体にも色々ありますしね。共通なのが、迷宮に入るのがやめられなくなるのと、戦闘狂になりやすい事ですか」
しかも発覚する事は更に少なく、理由は呪われた本人たちが隠蔽したがるからである。だって、そいつらが大抵ヤバいことしてるから。あと呪い影響で、無意識的に迷宮を求めるようになり、その過程で戦闘狂になりやすくなり、副作用で変なスキルを取得しやすくなる。これは、より確実に迷宮内に誘い込んで始末するためだと言われている。
「非公式組の奴らには困ったもんだな」
「実力だけは確かですしね。あの時も苦労しましたし」
そして、非公式組と言う実力を大きく隠している者たちがそう言う事をしでかしやすい。とは言え大半の非公式組は特殊な異能やスキル、道具、迷宮のルールを知っているだけで、そこまで大事は起こさない。呪い持ちが別格なのだ。
「5年前に始末した『殺奪』は強かったな、千にも届きそうなほどのスキル数と複数の異能、単純に強すぎるあの戦闘力には随分手を焼いたな」
「大人しく投降してくれれば良かったんですがね。抵抗した上にあの方は殺し過ぎましたし」
最後に確認された呪い持ちの非公式組は『殺奪』だった。殺した相手から何でも奪える異能者であり、組合と敵対し、激闘の末に迷宮と複数の高レベル探索者と相打ちになった正真正銘のバケモノである。
「他にも『格食』『支配』『傀儡』『確率箱』『侵略』『亜空』『透過』『使役』『崩壊』『兵器』『売買』『貧富』『虚構』『逃亡』『呪詛』『真言』『天眼』『掌握』『黙示録』『悪食』『腐食』『落天』『神格』『病理』『黒刻』『固定』『憑依』『寄生』『不正』『回覧』色々いたな」
「よく覚えてますね。まぁ彼らには本当に苦労させられましたし、当然ですか」
藤本が挙げたのが、初期から組合に属している二人にとってはなじみ深い面々である。この三十年で国内だけで約三十人の呪い持ちの異能者を発見し、追い詰めて来た。
「まぁ、まだ死亡が確定しているのは半分ほどですけどね」
「本当に厄介だ、迷宮に手を出しておいて、荒らすだけ荒らして逃げやがってな」
上げた中で組合が始末したのは半分程度。残りは未だにどこかに潜んでいるか、迷宮に殺されたかのどちらかだろう。それに潜んでいる者たちやこれから追加される者たちの事も考えれば、組合としては頭が痛いものだ。
「生き残った人か、それとも新たに生まれたのかどっちでしょうね」
「調べてみないと分からんな。少なくとも探索者全員の名簿と迷宮への出入り記録を調べるのは前提だな」
今回もきっとそうだろうと思い、増える仕事と厄介事に、二人は深いため息をするのだった。




