とある探索者の憂鬱
雷久保と清水は、珍しく昼間に組合に戻ってきていた。
「取り合えず人が多いから、これ売って人が減ってからにしよう」
「そうだな。……本当に最悪だ。最終日にこんなことになるなんてな」
どこか元気なさげな二人は、番号札を取ってから端に寄り順番を待つ。
「最終日に限らず、最悪だぜ。こんな事初めてだ。聞いたこともない。まさか……」
「やめろ、誰かに聞かれたらどうするんだ?今は冷静さが問われる状況だぞ」
いつもの調子で話すことが出来ず、少し真面目な顔で小声で話す。だが内心とは違い見た目では平静を装っており、誰もそれに気づいていない。
「計測器が壊れただけならいいんだがな」
「それが一番だが……違和感がある。最悪の事態を考えろよ。どう転ぶかわからないからな」
二人は草原迷宮の攻略中に、支給されていた迷宮内のエネルギーを計る計測器に異常が出たので、ここまで慌てているのだ。これが嫌なものの予兆だとした場合、迷宮の進化や暴走、崩壊など最悪な事態を想定して動かなければ行けなくなる。
「それに今日はボス攻略も上手く行かなかったな。誰かが先に攻略したんだろうが、そのせいで待つ羽目になった」
「朝一から来てる俺たちより早いとなると、そっち方面でも調べる必要ようがあるな。変な奴じゃないことを祈ろう」
迷宮への出入りデータや監視カメラの映像を調べなればいけない。それは二人が直接するわけではないが、二人は二人で報告書を書くために、過去の事を調べなければいけないのだ。
「一応映像は撮ってるが、しらみつぶしだな」
「くそ、昨日までは何の異常もなかったのによ」
仕事としてやっている以上、こうやって映像を取ったりして、週一の定期報告のための情報を集めているのだ。勿論機密性の高い事なので、周りにバレないように細心の注意を払いそう言う事は行われいている。
「迷宮への攻撃とかだったら大変だからな」
「最近でも炎上したが、迷宮での強引なレベリングとかかもしれねぇ。誰だか知らんがマジでやめてくれよ、そう言うの」
今では禁止されているが、過去には国家間での戦争で迷宮への攻撃もあった。今では、テロや一部の探索者の範囲攻撃による事故などがある。
「まぁ話を変えよう。今考えても仕方がない。……今回は目的の200レベ超えられたから、大体の迷宮に行けるようになったな」
「おう、そうだな。200もあれば大抵の迷宮へ入れるからな。攻略はさて置き」
いつまでも考えていても仕方がないと、話を変える二人。実は迷宮は、罠や迷宮の種類によるが、大体200レベ超えればどこにでも行ける。勿論格上の迷宮は浅い層だけではあるが、入って生き残る最低値だ。
「軽く動いても迷宮が見つかる前の世界記録レベルか」
「身体能力としての上がり幅は緩やかになり始めるところだな」
ステータスシステムの能力強化に慣れて、人間としての上限値に達したのが200レベだ。個人差はあれど、全員が文句なしのハイスペック人間と化している。
「で、次が500レベだったか?先は長いな」
「100レベごとにも上がるが、500レベ越えに比べると小さなもんだな」
勿論少しづつではあるが、その過程でも上がり続け、100レベごとに実感できる程度には上がる。だが一番上がり幅が大きいのは、500レベ越えである。ここまでくると完全に人類の域を超えた超人と化している。
「まぁそこまで行く気はないが、せめて400は超えておきたいな」
「この地域で行ける限界値だからな。相応の迷宮もないし」
500レベ越えになるには、必ずと言っていいほど死闘を体験することになる。これは試練などではなく、単にそれほど強い魔物からでしか、相応の経験値を得られないからだ。その他にも、短時間でバカみたいな量の魔物を倒すなどがあるが、そちらも相応の苦労とリスクが付きものだ。
「そもそもの数も少ないしな。日本じゃ7個しかいんだよな」
「全体の1%未満だからな。これでも昔に比べれば増えた方だろ。それはそれで困ったもんだが」
それに500レベ以上の迷宮は国内外問わず数が少なく、おまけに危険すぎるため入るのに制限がある。そして迷宮の質や数は年々ジワジワと増えている。因みに組合が決めている等級、五級~一級とその上の特級があり、500レベ越え迷宮には一級以上でなければ入れない。
「そう考えれば国内に700個もあるのか。管理大変そうだなって、だから俺たちみたいなのがいるのか」
「そうだな。それにその割には目立った金になるのは全体の3割程度。都市圏とか人が多い場所に集中してるのが救いか」
大小合わせればそこらかしこにある迷宮だが、大金を稼げる迷宮は少ない。大体は小遣い程度の端金か、ギリギリ生活費が出来る程度のものしかない。いや、安全になったとはいえ命を賭けているのだから、赤字もいいところかもしれないのだ。
「っと、話は終いだ。順番が来たぞ」
「意外に早かったな」
そんな話をしていると、自分たちの順番が来たのか、二人は受付へと向かうのだった。




