草原迷宮のボス
草原の真ん中に佇む3メートル近い巨体を持つミノタウロスを見やる安藤と吉泉。
「一応隠密解いてから入ったが、相当強化されてるみたいだな」
「心なしか殺意が伝わってくる気がしますね」
事前に確認していた強さとは、比べものにならないほど強化されたミノタウロスが、闘気を染み出しながらこちらを睨みつけていた。
「まぁ大丈夫だとは思うが、いざって時には呼ぶわ」
「分かりました。倒せるでしょうが、万が一があればそうしましょう」
いくら強くなっているとは言え、安全マージンを取っているため能力自体はたかが知れている。仮に上回られていたとしても、弱体化をかけまくればどうとでもなるだろう。所詮はその程度の相手だと判断し、転移攻撃を繰り出したのちに安藤は吉泉を帰す。
「さ~てと、どれぐらい強いんだろうな」
ミノタウロスが大斧を構えドスドスとこちらに向かってくるのを見て、安藤はそうもらす。そして殺意満点の大斧の攻撃が振られるが、それを安藤はひょいっとかわす。
「ほいっと!」
刀が振られ、利き手と思われる肘の部分が斬り裂かれる。それと同時にミノタウロスの追撃が上手く行かなくなり、苦悶の表情で中途半端な攻撃だけが振り撒かれた。
「当たるかよ!」
安藤はすでに強化は最大まで引き上げており、ミノタウロスの動きなど手に取るようにわかる。更に大ダメージを与えたことにより吸収が本格的に始まり、最低限のスキルが取得できていた。
(これが気操術か。簡単だしなかなか使えるな)
スキルの取得と同時に最低限の使い方を覚えた安藤は、事前に調べた情報と思考加速の中で使い方を覚えていく。それは気の流れを操作し、より効果的に力を扱うと言うものだった。
「おっと!」
急にミノタウロスの動きが速くなり、安藤は咄嗟に距離を取る。だがミノタウロスは諦めずに、片手持ちになった大斧を構え素早く距離を詰めた。
(力強くてある程度速度もあるが、その分動きが雑って話だったが。流石に俺たち相手にはそうはならないか)
安藤からはゆっくりに見えるが、それ以外から見れば、その巨体でその速度で動くの!?と言うぐらい素早かった。更には武器の扱いや動き方なども洗練されており、適性レベルの通常の強さしか知らない探索者なら、驚きのあまりまともな抵抗もできずに全滅するだろう強さだ。
(まぁ上位に行けばこの程度ゴロゴロ出てくるんだろうが)
ミノタウロスの猛攻を対処しながらそう考える安藤には特に疲労はなく、必死に攻撃を繰り出すミノタウロスは体力の消耗が激しく、そこに状態異常と吸収の効果が上乗せされ更に苦しそうだ。
(にしてもレベル等価交換しなくてよかったな。下げてたらまともに攻撃通らなかったかもしれないわ)
レベル差があるためか相変わらず攻撃は通りにくい。効率よくレベリングするためにギリギリの相手を狙っているので仕方がないが、一歩間違えれば大惨事もいいところである。
因みにレベルの等価交換は、微調整といざと言う時にしか使わないことにしているようだ。最低でも安定して稼げる300~400レベまではそうして、そこからはまた考えようという事になっている。
(そろそろ頃合いか)
ミノタウロスの動きが雑になり、大振りで振り払い距離を取ろうとしてくる。だがそんな見え見えの攻撃に引っ掛かるわけもなく、即座に腹部を斬り裂く安藤。
「今回は深めに斬れたな」
今回溶解は使っていないため、大量に出血するミノタウロス。それにより膝を着き、傷跡とを抑えながら大斧を杖代わりに体を何とか支えることしかできていなかった。
「諦めの悪いな」
目の前にいる安藤に何とか一矢報いろうと負傷した手を伸ばす。だがその手は腕ごと切断され、続けざまに首を斬り落とされ、あっけなく戦闘が終了した。
「狂骨使うことなかったな。まぁいいや。で、報酬は……牛肉か。質はいいんだろうがもっとな……晩飯にでもしよ」
そうして安藤は、現れた帰還門を通って外へ出たのだった。




