謎の報酬
巨大スライムを倒した一行は、謎の報酬の前にたたずんでいた。
「なんだこれ?聞いてたのとまったく違うんだが」
「見た目的にも悪いものではないんでしょうが……全く見当がつきませんね」
「なかに特別なものでもあればいいんだけど……」
「金策できると思ってたんだが」
スキルや高価な回復薬を楽しみにしていた一行は、少しがっかりぎみにそう思う。特にスキルに関しては、レベルを上げて適性のあるものを任意で選び取るシステムなのだが、スキルオーブはランダムとはいえ適性外のスキルを習得できるものだ。これにかけている人も少なくないといえるほどには貴重で、攻略報酬以外での取得は一気に難易度が跳ね上がる。
「ま、とりあえず開けてみようぜ。もしかしたらもっといいものかもしんねぇだろ?」
「それにかけるしかありませんね」
「いいものであってほしい」
「じゃ開けるぞ」
そういって安藤が宝箱に手をかける。他のみんなもどれどれと言わんばかりにのぞき込み――
「「「「なっ!!?」」」」
謎の煙が四人を覆いつくした。
「ゲホゲホっ!なんだよこれ!?」
「罠か!?」
「どういうものですこれ!?」
「落ち着け、とりあえずこれでステータスを確認するんだ!」
煙はすぐに消えたが宝箱の中身は何もなく、咳き込みながら罠を疑う四人。そして田中がとある道具を取り出し、すぐに使うように進めて来た。
「なっ!?これ解析板じゃねえか!こんな高いのどこからっ」
「いいから見ろ!変な状態異常ついてたら大変だろうから!」
名前や基礎レベルは解析板を真似て作った探索者カードで見ることができる。だが異能やスキル、状態異常などの細かいことは、それか解析スキルなどを使わなければ詳しいことはわからない。田中は即座に等価交換でそれを生み出したのだ。
「無事だったら後で請求してやんよ。十回の使い捨てなくせに13万って言うバカ高いからな。自分の異能に足元見られてやがるぜ」
「わかった。後で払う」
「僕も」
「すみません」
そう言い解析板を受けとり、四人は自身のステータスを見た。
「おいおい、マジか……」
・名前 田中 啓一
・性別 男
・状態 健康
・LV56
・異能 等価交換LV3
・スキル 剣術LV3、身体強化LV3、感知LV3
「これは……」
・名前 吉泉 健太
・性別 男
・状態 健康
・LV58
・異能 転移LV3
・スキル 刀術LV3、身体強化LV3、空間把握LV3
「嘘……」
・名前 西田 和希
・性別 男
・状態 健康
・LV60
・異能 共有LV3
・スキル 炎操術LV3、強化術LV3、探知LV3、隠密LV3
「な、なんだよこのステータス」
・名前 安藤 博
・性別 男
・状態 健康
・LV42
・異能 吸収LV3
・スキル 刀術LV3、身体強化LV3、加速LV3
おかしなぐらいレベルが上がり、上げにくいとさえ言われていた異能とスキルまで引き上がっていることに驚く四人。
「あ~、あの煙のせいか?」
「おそらく……」
「これは大変だって!」
「いわれなくてもわかってる!」
うれしさと衝撃の発見に頭を抱える四人。強制的にレベルを上げるものはなくはないが、この上がり方は異常だった。特に異能のレベルアップなど世界で噂レベルの物でしかない。
「そう何度も使えるとは思えないが、こんなん知られたら一大事だぞ」
「黙っとくしかないですね」
「それ以外に何ができることある?」
「そもそも条件も効果もわから……あ!解析板使えば!」
解析板を連続で使い、周囲と自分たちを解析しだす安藤。すると板に情報が浮き上がる。
「あの宝箱は、一回使い捨ての超強化道具だったか。あらゆる能吏を一回だけ一段階上昇させるって……」
「それが西田さんの共有で二回分になったんですね……」
「条件はわからないけど、きっとこれだけのものだから、超が付くほど低確率なんだろうな……」
「特殊条件もだろうが無茶苦茶すぎる……」
特殊条件という、難しすぎるものからどうしてそんなのあるんだよと突っ込みたくなるものまである条件をクリアすれば高報酬をもらえるのは、世間でも知られている。しかし四人が知る限りこれほど強力な報酬はない。せいぜい良くてスキルが手に入ったとか、強力な武器や道具が手に入った程度であった。
「こんなん条件知ってても難しいし、できたとしても情報で回るわけないよ」
西田がそう言うと三人は頷く。大ごとになればどうなるか分かったものではないし、最悪命に関わることまで起きる可能性も捨てきれないからだ。特に探索者は、命に関わることも含めて自己責任で、余程の証拠がなければ迷宮内での犯罪は立証できない。有罪にならないだけでそういうことは意外に多いのだ。
「よし、知らんふりして黙っておこう」
「そうしよう。それが一番」
「それしかないですね」
「済んだことは仕方がない。それより戻って上がったステータスの確認しようぜ」
気を取り直した四人は、そういって発生した出口から帰るのだった。