やってみたいこと
毒鼠迷宮のボス部屋前に来ている四人は、万全の準備を整えていた。
「これでよしっと」
「じゃあ予定通りまず田中さんが入って、その後に私がいきますね。後のことはお願いします」
「わかってますよ。でも本当にできるのかな?」
「できなくても死にはしねぇよ。これだけ整えたんだから」
そう言い合い、田中をボス部屋へと送り出す三人。
「よし、では私も行ってきます」
「頼んだぞ。こっちもできる限りのことはするから」
「死なないでくださいね」
そう言い吉泉は転移を使って、ボス部屋へと入っって行く。
「お、来たな」
「入れましたね。流石に異能対策はしてませんか。それともできないのか」
ボス戦は始まっておらず、待っていた田中と話す吉泉。
「にしてもよくこんなの思いついたな。普通だったら思いついてもしねぇぞ」
「リスク取らないと良い結果は取れませんからね。そこまで現実は甘くありませんし」
今回吉泉がやったことは、迷宮のルールの隙を突く行為だ。まず最初に、一人にボス部屋に入ってもらって、次に吉泉が転移で中へと入るという至極簡単な事。
なぜこうする必要があったのかと言うと……
「予想だと、ボス部屋に入った時点で敵の強さと報酬があらかた決まる。そんでボスとの対面で調整が終わり確定と」
「そうですね。ですから、今から二人でボスと戦えば強さと報酬が二人分になるはずです。そして戦いが始まった後に私が外に出て終わりですね。それを人数分繰り返します」
報酬を増やすためであった。しかも相当悪質な方法である。なんせ入室、戦闘、退室の三段階で判定があると仮定して、戦闘だけ判定させて報酬を引き上げたあとに倒して戻るを繰り返そうとしているのだ。これにより迷宮は、その対策が済むまで初攻略の報酬を余分に支払わなければならなくなる。
「そういやなんで戦闘時にも判定されると思ったんだ?それに一人で戦った方がいい理由も?」
田中には入室と退室はなんとなくそうでないかと思っていたが、戦闘で判定されるとは思っていなかったようだ。なぜならそうしてしまうと、迷宮側が好きな時に強さを引き上げて探索者を殺すことが出来てしまう。だが今までそんな話を聞いたことなかった。
「そうですね。来る前に簡単に説明しましたけど、少し詳しく話しますね。どうせあっちもある程度は待ってくれるので。ではまず一つ目ですが、この状況おかしいと思いませんか?あちらからすればいくらでも攻撃できる絶好のチャンスなのに」
吉泉はチラリと病魔の大鼠の方を見て、安全を確認してから話し出す。どうやら吉泉は、この『基本的に探索者が先制を取れる』と言う状況に注目したようだ。
「だからきっと、この間に相手の戦力を再確認してるんじゃないかと思ったんです。ほら、先制攻撃はできる限り活かしたいじゃないですか」
できる限りの強化を乗せ、時には奥の手である手段も取り出すかもしれない。それを見て、丁度良い戦いになるように調整しているのでないか?と考えていた。
「確かに……先手を打たせて情報を抜き取っていたのか。迷宮にとっちゃ一回の攻略は痛手にならんし」
「あくまでも仮説ですがね。次に二人分にしておいて一人で戦う理由ですが、報酬を底上げするためです」
どうやらさらに報酬を引き上げるつもりらしい。
「私は、報酬は残存エネルギー量で決まると思っています」
強い魔物の方がよい報酬が手に入る。通常の魔物でも、ドロップ品を良くしようと思ったら、少数精鋭で速攻で倒した方がいいドロップが出やすいので間違いないだろう。エネルギーを吸収する安藤はドロップ品の質は低いので、逆説的に考えた結果だ。だが一応、特殊条件を除けば上限や下限はあるらしく、品質にばらつきがあるが基本的にその等級は変わらない。
「特に特殊条件やボス戦などはその傾向が強いとみています。と言うかぶっちゃけ、決められたもの以外を取ろうとしたらそれ以外に選択肢はないでしょうね。それでここはボス部屋で私たちは呪われている。言いたいことは分かりますね?」
「なるほど、ボスは例外でその上俺たちは呪われているから特殊条件に引っ掛かると踏んだのか。迷宮は俺たちの事を殺したいわけだから」
だがボスや変異個体などの特殊な条件下では、とにかく残存エネルギーが多い方がよい結果が出る。決められた範囲でも、エネルギーがあればあるだけ拡大解釈され、特殊条件があればさらに都合よく報酬を変質させ嵩増しできる。そしてこいつらは十中八九特殊条件が仕込まれているだろう。なんせ彼らは呪われているのだから
「逆手に取ったか。流石だな」
「いえいえ、みなさんのおかげですよ。私一人ではここまでの事は無理ですから。でもまぁ、わかってくれましたか?強敵に少数で挑んだ方がいい理由」
「そうだな。報酬的にはそっちの方がいい。納得だ」
謙遜しながら理由を説明し終えた吉泉は、病魔の大鼠の方を見る。それに続き田中も病魔の大鼠の方に目線を移し、まだかまだかと今にも動き出しそうなボスを確認した。
「ではお願いします。流石に放置しすぎるとあちらも動き出しますから」
「任しとけ、ちゃっちゃと終わらせるからよ」
そう言い吉泉は田中と共に、この迷宮のボスである病魔の大鼠に向かって攻撃を仕掛け、相手が動きだしたのを確認してから転移で退室したのだった。




