田中の場合
墓地へとやってきた田中は、駐車場に止めた車から降りて墓地の端にある迷宮の入り口に入っていく。
「ここが推奨レベル60の骸骨迷宮。弱い骸骨だらけだって話だが、俺たちならどうなることやら」
呪いの影響で敵が強化されているとステータスに書かれていたのを思い出し、そう思う田中。
「見晴らしがいいとすぐ見つかるな」
迷宮の中は、曇りの空で薄暗くなった墓地そのものだ。そこから見渡した限り、ここの魔物である骸骨が何体か見える。
「お、さっそくか」
それなりの距離があるはずだが、骸骨たちは入ってきた田中にすぐに気づき襲い掛かってきていた。田中は、これが呪いの効果かと思いながら骸骨たちのステータスを見る。
・骸骨
・LV60
・棍棒術LV1
・骸骨
・LV60
・剣術LV1
・骸骨
・LV60
・刀術LV1
「これぐらいなら余裕だな」
そう呟きながら剣を引き抜き、向かってきた三体を瞬殺した。
(このレベルの迷宮は上層はスキル持ちはなし、中層はちらほらスキル持ちが出始めて、下層でスキル持ちの方が多くなるって話だったが、いきなり中層レベルか)
さらに言えば普通は武器持ちも疎らなぐらいなのだが、警戒されている田中相手に手加減はしないと言わんばかりに、ほぼ全員が武器を手に持っている。だが装備からスキルレベルに至るまで差が大きく、骸骨は耐久性に乏しいこともあり、田中の敵ではない。
「あっちから来てくれるのは手間が省けるな」
わざわざ探し回る必要もないと楽観的に骸骨たちを葬っていく。だがとあることを思い出し、足を止める。
「そういや……」
迷宮地図を取り出し開く。
「ちゃんと描かれてるな。定期的に確認しないと」
迷宮地図は田中が預かっていた。なぜなら他の三人は、そんな高いの持ちたくないし、レベリングに集中したいと言ったからだ。それにいいものを見つけたとしても持ちきれない場合もあるが、田中の場合は等価交換があるため、その場で別の物へと変えて保存することができる。
(そういやこれ、どれだけのペースで描かれてんだ?)
ふとした疑問を晴らそうと、田中は地図を見ながら移動してみる。
「小走りまでは余裕みたいだな。じゃあ……」
次々に描かれていく地図に、少しづつ速度を上げていき、最終的に全力疾走で一階層目を走りきる。
「はぁはぁ……なんか雑じゃね?」
読み込みがうまくいかなかったのか、速度を上げるたびに雑になっていた。
(身体異能のごり押しは無理か)
小走り前後が限界のようで、少しがっかりする田中。どうやら敵を無視して高速でマッピングをしようとしていたようだ。
(ま、一応マッピングはするか。このレベルの迷宮にはいいものはないだろうが)
魔物も楽に倒せるとわかった田中は、そう思い小走りで骸骨たちを辻斬りしながら迷宮攻略を始める。その勢いはすさまじく、ノンストップで動き続け、すぐに目的の階層である5階層に辿り着く程だった。
「目ぼしいものはなしと。あとはここでレベリングだな」
5階層は本来60レベから行っても80レベ程度の魔物がいる階層だったが、呪いの影響で90台の魔物が田中に襲い掛かってくる。だが相変わらずの低耐久とスキルの差で経験値と化していた。
(普通これだけレベルの差があれば、パーティーで動くのが普通なんだがな。異能のおかげで優位に動ける)
基礎レベルに似合わないスキルの数とそのレベル、共有されて送られ続ける強化の影響で無双状態であった。異能持ちや相性がいいというのもあるだろうが、一人で30~40レベ差の相手を複数に無双しているのは明らかに異常としか言いようがない。本来なら大怪我か最悪犠牲が出るほど苦戦するものである。
「ふ、止まって見えるぜ」
思考加速を使いまわしているせいで、周囲の動きがゆっくりに見え相手の動きがまるわかりだった。これが田中たちが無双できている理由でもある。要は異能やスキルで差を埋めて、地力で負けていようとも魔物よりも多くのスキルを取得できる人類は、立ち回りもあり普通に格上とも戦える。なお連戦は考えないものとする。
「こっからここをぐるぐる回っておくのが一番効率がいいか。離れててもあっちから来てくれるし」
地図を見ながら効率のいいルートを考え、背後から襲い掛かってきた骸骨の攻撃を避けて反撃で一撃で倒す。
(今回の出費分だけでも取り戻さないと。特にあのリュックは高かったからな)
もちろんドロップ品はちゃんと回収しているし、他の三人にもそれをやらせている。でなければいよいよ貯金が底を尽きそうだからだ。
「マジで人がいない迷宮に来てよかった」
他の三人が行った迷宮も同じだが、人気がない上に平日の昼間など誰も来ない。専業でやっている者たちは稼ぎがないうまみがないと言い、副業でしている者たちは厄介な迷宮はごめんだと攻略しやすい人気の迷宮へと行く。近くにそういう迷宮があるのもありがたいところだった。
「さて、今日一日でどこまでやれるか試してやるか」
そう言い、どんどん効率化されていく田中は、無双の限りを尽くすのだった。