西田の場合
採石場の跡地のような場所にある横穴を眺める三人。その先には迷宮の入り口である空間のゆがみが見える。
「洞窟型の迷宮か。階層は6階層だったか」
「そうみたいですね」
「中には百足がうじゃうじゃいるらしいね」
推奨レベル50の百足迷宮へと着いた三人は、迷宮について小話をしていた。
「昆虫系は基本火に弱いですから大丈夫でしょう」
「そうだな。火に強い奴の方が少ないぐらいだ」
「全部焼却して経験値に変えてやりますか。格下とは言え数がそろえばそれなりにはなるだろうから」
そう言って話を切った西田は、二人と別れて迷宮の中へと入っていく。
「そのままの洞窟かな。それに聞いてた通りほんのり明るい」
完全な暗闇ではなく、侵入者に配慮したかのような作りに興味深げにしながら魔物を探して足を進める。
「あれは……1メートル前後の百足ってところかな。普通にキモイ」
カサカサと動きながら奥の方から一直線に向かってきた百足を、気持ち悪がりながら軽々と火炎放射で焼き尽くす。
「おお、呪い凄いね。どんどん来る」
本来この階層では群れることはないはずなのだが、移動速度がそこそこ高い百足たちは、親の仇かのようにわらわらと集まってきては、火炎放射により消し炭になっていた。
「スキルレベル1とか2で来る場所で、3なんて使ったらこうなるよね」
想定されていない高レベルスキルや安藤や他三人から送られてくる強化の恩恵をタダ同然で受けていることもあり、特に苦労することなく火炎放射を連発して終わらせる。
「おっと鑑定もしておかないと」
そんなことを繰り返していたら、ふと相手のステータスが気になり、鑑定を使用する。
・洞窟百足
・LV50
・嚙砕LV1
「深層レベルの魔物。これは多分呪いの影響かな」
安藤と同じく強力な魔物が出てきていたが、これも好都合だとどんどん先へと進んでいく西田。そして楽々二階層へと入り、敵が集団化し始める。
「魔物のレベルが上がったけど、新しいスキルはないか」
できることが増えたからと言ってスキルが増えるわけではない。あくまで長所を伸ばしたり、できることを増やすのがスキルなので、高度なことを求めなければスキルを付与する必要はない。コストが嵩むだけなので当然と言えば当然だ。
「二階層も楽だね。共有で力も強化も入ってくるし、もしもの時は僕も強化すればいいだけだし」
そう言い火炎無双を繰り返す西田は、二階層、三階層と突き進む。その間も魔物のレベルは上がり数も増えて、どうにか食らいつこうと特攻をかましてくる。だが西田との差は縮まらず、なすすべがないようだ。
「なんか散歩してるみたいっと、もう五階層目だ」
特に苦労もなく殲滅を繰り返した西田は
「折角だし強化術も使ってみよう」
強化術とは、何でもかんでも強化できる使い勝手のいいスキルだ。更にレベルを上げ使いこなせれば、強化部位を集中させて一部分だけを超強化させることもできる優れものである。そんなもので過剰に過剰を重ねた西田は、もはやこの場において無敵と化し、百足が現れた瞬間に跡すら残さず焼却する。
「凄い火力。それに全然疲れない。安藤さんの吸収とみんなの自動回復が効いてるのかな?」
四重増しの自動回復と検証をするために鼠たちを殲滅しまくっている安藤のおかげで、全く疲れず高火力を維持し続ける西田。
「この状態でどこまで出せるか確かめてみよう」
ついに五階層に到達した西田は、限界まで力を出してみようと待ち構えていた百足たちに手を向け意識を集中させる。そして一瞬で視界が赤く染まったかと思うと
「ふー、これは流石に疲れる。と言うかやりすぎたかな?」
次の瞬間には制御しきれないほどの超火力に自身にも熱気が伝わってきていた。そして炎を出し終わると、そこには焦げ付いた洞窟しか残っていなかったのだ。
「ドロップ品ごと消し飛ばしちゃった」
疲労感は消えたものの、やっちまった感が拭えない結果となった。それを反省しながら、次のことを思い浮かべる。
(そういや前に動画で見た、炎の剣とかを試してみたいな。消耗激しいらしいけど今の僕なら問題ないだろう。まぁ剣術はないけど、体術あるから大丈夫だ、たぶん)
そう思い炎でできた剣を作り出し、軽く振り回す。
「……問題ない。まさか田中の剣術の補正が来てるのか?単純な強化だけかと思ってたけど、パッシブ系は全部なのかな?一応ステータスに書いとこ」
経験がないためスキル持ちに劣るが、補正がかかっているかのように問題なく振り回せる。どうやらスキルの共有は、単純な強化に限らず動きの補正に関しても共有するらしい。
「ってことは空間把握とか感知も……なるほどアクティブ系の空間把握は無理だけどパッシブ系の感知はできる?いや感知にしては範囲が広くて正確だから、スキルのパッシブ部分だけを共有できているのか。じゃあ、試してみよう!」
そしてその感覚に合わせて、向かってくる百足を斬り裂いた。
「大体の場所もわかるし、思い通りブレずに振れるってこんなに強いんだね」
一流には届かないが、百足を斬り裂き焼き切るには十分な腕前で次々に百足を葬っていく。
「このまま限界までレベリングでもしようか」
そうして疲れの知らない西田は、迷宮内を周回しだすのだった。