安藤の場合
次の日四人は、いつものように安いものを探しながら買い物を済ませ、迷宮に来ていた。
「ここが毒鼠迷宮か。人はいなさそうだな」
始めてきた迷宮に少しワクワクしながら、下水道の入り口近くにある迷宮の入り口を見る。
「推奨レベルは30レベで5階層の迷宮ですね。魔物自体はそう強くありませんが、状態異常が厄介だそうです。まぁ事前に知らべて対策しておけばどうにかなる程度ですが」
「市販の解毒薬ですぐ直るらしいから、ちゃんと持ってるよね?」
「火炎放射器ホントに要らなかったのか?集団で襲い掛かってくることもあるらしいが」
「大丈夫だ。準備も作戦も整ってるよ」
心配される安藤。レベルが一番低いので当然だが、安藤には秘策があるようで堂々としている。それに若干の不安を感じた三人だが、仲間は信じるものだと割り切りそれ以上は何も言わない。
「じゃ行ってくるわ。お前らも気をつけろよ」
「言われなくても」
「そうだね」
「そうですね」
そうして安藤は三人と別れて迷宮に足を踏み入れた。
「ここが迷宮内部か。そのままだな」
安藤は現実の下水道などに入ったことはないが、なんとなくイメージしていたものと同じで、興味深く周囲を見渡す。
「薄暗いが、見えないわけじゃない。それと蜘蛛の巣とか虫がいるな。これは外から入ってきたやつか」
等間隔に直管蛍光灯のようなものがあるため、完全に視界が効かないわけではない。しかしそれですべてが照らされているわけではない上、壊れたようになっている場所は普通に暗くて目を凝らさなければ見えないようになっていた。そして迷宮内にいる虫や小動物は、外から入り込んだ生物だった。なぜなら低レベルの迷宮が生み出せる魔物の種類はそこまで多くなく数える程度がせいぜいで、それを安定して供給させるにはさらに数を絞らなければいけないからでもある。
「こういう奴らを取り込んで迷宮は成長するんだよな」
迷宮は多くの物や生物を内部へと誘い込み、少しづつ成長していく。だから迷宮内部は発生した周囲の環境を真似るし、安定した収入と運営のためにうまみを置いたり多少の配慮もしてくる。特に人類はいいエネルギー源になるらしく、それを裏付けるように人が多い迷宮、特に死亡率が高い迷宮は成長が早い。
「ま、俺たちには関係ないな」
目的を果たすために、安藤はそう呟き足を進める。すると暗闇から大きめのドブネズミのような魔物がこちらの様子を窺うようにチラリと出てくる。
「これが毒鼠か。一応ステータス確認っと」
・病魔の鼠
・LV30
・病魔LV1
「一階層目にしては強すぎないか?てかこの迷宮のスキル持ちはボスだけじゃ?これも呪いの影響?」
本来迷宮は、上層が推奨レベル以下の魔物、でそこから深層に近づくにつれて推奨レベルに近い魔物が出てくるのだ。この迷宮の推奨レベルは30なので、いきなり深層相当の相手が出てきたようなものであった。
「まぁ、集団じゃないだけマシか。それにスキルも強いし好都合だな」
あくまでその階層の魔物を強化しただけのようで、ギミックや行動パターンは別のようだ。それに安心しながら刀を抜き、こちらに向かってきた病魔の鼠を一太刀で斬り裂く。
「やっぱ一人の方が吸収効率はいいな」
力の流入を感じながらそう思う安藤はドロップ品の魔石を拾い、自身のステータスを確認する。そこには病魔のスキルが追加されていた。それを見た安藤は、ニヤニヤが抑えきれずに静かに笑う。それと同時に、わかったことを情報操作でステータスに書き込み次の魔物を探す。
(一人で倒せば最大で2~3%ほど力が手に入るな。他の三人に分散してこれだから、大体50体ほど倒せばその魔物分の力がそのままの追加かな?あとレベル1のスキルは確定と。割がいいな)
数をこなせば無限に強くなれる可能性に心躍る安藤は、楽々と見つけた魔物を狩っていく。
(スキルレベルは同じスキルが重複しても上がる。計算上は、スキルレベル1の魔物を16体倒せば5レベにすることができるぞ)
そして追加で15体ほどの魔物を倒して自身のステータスを確認すると……
「まぁ……いや、流石にそこまで都合よくないか。ってことは最初のスキル吸収は、繰り上げ方式ってところか」
スキルレベルは変わっていなかった。そこで更に追加で4体倒し、再度ステータスを見る。
(上がんねぇな。それに異能の吸収率が下がってるし)
1体倒すごとに少しずつ吸収率が下がっており、10体も倒せば明確に下がっていることを自覚できていた
「体感的には100体以降は誤差になりそうだな。昨日はこんなことなかったが……これは検証が必要だな」
そう思いながら一階層の病魔の鼠を殲滅し、二階層に行く。そこでも多少鼠が強くなっただけで一階層目と変わらず、楽々数十体の鼠を殲滅した。
そこで……
「お!病魔のスキルレベルが上がった。それに吸収率が少し戻ったな。よかった。これは、慣れの問題か?」
100体ほど倒し、やっとレベルが上がったスキルと、なぜか若干戻った吸収率。どうやら吸収した力が完全に定着したら吸収率が少し戻るらしい。
「完全に戻った感じはしないけど、まぁ今はいいか。さ、この階層からは集団戦だからあれでも試すか」
三階層目に足を踏み入れ、少し歩く。すると出くわした鼠たちが安藤を囲むように動き出し、その後にジリジリと距離を詰めだす。
(10体か。本来の二倍はいるな。それに動きも明らかによくなってるし)
呪いの影響で強くなっている鼠たちは、動かない安藤に向かって一斉に襲い掛かり、病魔にかけようとその牙と爪が向かう。
「無駄なんだよな」
だがその攻撃は届かず、何匹かは斬り伏せられ、残りは振り撒かれた何かに溶かされた。
「溶解つえぇ……」
スライムたちから吸収した溶解により、何もできずに溶かされる鼠たち。殺しきるには足りないが、致命傷には十分で、ほとんどが身動きすら取れなくなっていた。そこに安藤はさっさと止めを刺していく。
「この調子でボス以外を殲滅するか」
そうして安藤は、残りの階層を溶解無双しながら攻略を進めていくのであった。