一応組合に行く
ボス戦をどうにか退けた四人は、ダメージも大きく時間も遅くなっているとのことで、組合の施設まで来ていた。
「そのまま帰りたいんだが」
「私もですよ。ですが迷宮に挑んだ後はこっちにも行かないと」
「そうだね。義務じゃないけど、行かないと後で怪しまれるかもしれないし」
「ダミー用の素材売却しとかなきゃな」
四人とも自分たちの活動やあんなことがあったことを言うつもりはない。だが定期的に組合に行って素材の売却などしないと、怪しまれた際に面倒なことになると思っているようだ。なんせ出入りの記録はあるので、そこから足がつけば瞬く間に追い詰められるだろう。
「ほら行くぞ」
「わかってるって」
田中に言われ、安藤はめんどくさそうに車を降りて、四人で組合施設の中へと入る。そこはファンタジーっぽくも何もない、普通の役所のような場所だった。しいて言えば入り口とロビーが広々としているぐらいで、時間も遅いので人も少ない。
「よかった人が少ない」
「時間が時間だしな」
「じゃ、俺行ってくるわ」
大体混むのは、昼の時間帯と遅い時間だと18時~19時過ぎだ。四人がいたのはそれより一時間ほど遅い20時過ぎなので、ロビーには数える程度しか人はいない。そのガラガラな受付に、ドロップ品を入れた登山用のデカいリュックを背負っていた田中が行く。
「素材の売却をしたいんだが」
「はい、こちらに……」
研修時代から何も変わらぬ作業。ここに来たのも数十回目だが、特段他の探索者などの誰かと仲良くなったわけでもなく、職員や受付も別に気さくに話しかける間柄でも何でもない田中は、業務的な会話を済ませて売却と手続きを済ませていく。
そして――
「こちら合計で9550円になります。カードをお返しします」
「ありがとうございます」
何事もなく売却を済ませた田中は、みんなの元へと向かい。
「どうでした?」
「9550円だと」
「赤字だな」
「しかたがないよ」
結果を言って、想定通りだと苦笑いをしながら、帰ろうとしたその時
「おっ?久しぶり、会社を追い出されたって本当だったんだな」
「あんな能力じゃな。レベルも上がらないって噂だったし当然だろ」
「「「「……」」」」
あるバッジを着けたガラの悪い探索者に絡まれてしまっていた。
「おっ、ボロボロだね。どこの迷宮潜ったんだ?」
「聞いてやるなよ~。どうせそこらのザコ迷宮だって」
このいかにも性格の悪そうな二人は、研修の時に不良だとして有名だった者たちだった。しかし口が悪くすぐ絡んだり喧嘩っ早いところを除けば、時と場合は弁えてるし普通に優秀で能力も実力も確かなので、期待の新人としてもてはやされた人たちだ。
「ああそうだよ。スライム迷宮だ。知っての通り、子供でも攻略できる迷宮だよ」
「そんなところで小遣い稼ぎとは、それでも異能者か?一応日本有数の大企業にいたのに?」
「いってやるなよ。そんなんでも頑張ってるのが見え見えだろ?」
クスクスヘラヘラと笑っている二人に内心ため息をつく四人は、刺激しないようにどう切り抜けるか考えていた。
「もう行っていいか?この通りこっちは疲れてんだ」
「ああ、そうだな。別にいいぞ」
「ま、せいぜい死なないように頑張れよ」
意外にも簡単に開放してくれたので安心すると同時に
((((そっちが絡んで来たくせに))))
四人はそう思いながら、警戒心を解かずにそそくさと帰っていく。
「にしてもザコ迷宮でもそこまで疲弊するんじゃこれから先思いやられるな」
「そうだな。探索者辞めたりして?まぁあの様子じゃ、このご時世まともな職にゃつけるとは思えねぇがな」
そして最後に聞こえる声でゲラゲラ笑う二人の声が聞こえたのだった。