ずっとスライム
迷宮の種類にもよるが基本迷宮ボスは、ボスのレベル×一分で復活する。それを除いた場合は、ボスに注いだリソースを分クールタイムが長引く仕様だ。
「よし、復活したな」
「30分待ったかいあった」
「これで20回目か」
「大変でしたね」
あれから味を占めた四人は、ボスの復活を待って何度も迷宮に挑んでいた。
「さて、今回はどんな奴だろうな」
「やはり単純に強い奴では?」
「溶解霧の撒き散らしはウザかった」
「逃げ回ったり硬くなったり突き刺してきたりで大変でしたね」
何が何でも侵入者をぶち殺そうと躍起になったかのように、様々な戦術をひたすら試し続けたスライムの執念は恐ろしいもので、低レベルとは思えないほどに強化されたスライムは、おそらく異能を持っていなかったら全滅していたレベルのものだった。
「ん?いない?」
「どこだ?」
中に入ってみると、そこには何もいなかった。
「隠れてるのかもしれませんね」
「だったらボスの出方としては初めてかもな」
だが動くことはしない。どうであれ不意打ちを狙っているのは明確で、不明な攻撃で先手を打たれるわけにはいかないからだ。
「西田。ちょっと焼き払ってあぶりだしてくれねぇか?」
「うん、分かった」
田中の頼みで、西田は広範囲な火炎放射で周囲を焼き尽くしていく。
「出てきませんね」
「耐性持ちか?」
燃え上がるボス部屋だが、ボスは一向に出てこない。それを見た四人は不思議そうにして西田は炎を止める。
「すまんな。無駄な体力使わせちまって」
「別にいいよ。レベル上がったおかげでこれぐらいじゃ堪えなくなったから」
「そういや安藤以外はもう60レベか。帰ったらドロップ品の確認とスキル取得しなきゃな」
「ま、そんなことより、これどうするか」
熱気が立ち込めるボス部屋だが、変わったところはなく少々周囲が焼けた程度であった。
「私が行きましょう。いざとなれば転移で回避しますから」
「そうだな。頼んだ」
そうして吉泉が中心まで慎重に歩いていく。
「なんにも――」
「おい避けろっ!!」
「「「っ!?」」」
そして中心で立ち止まり、何もないと言おうとした瞬間。天井から巨大な何かが落ちてきて、田中が叫ぶ。それに驚いた吉泉は転移でこちらまで戻ってきて、冷や汗を流す。
「ありがとうございます。気づきませんでした」
「別にいい。そんなことよりあれどうにかするぞ!」
「わかってる!」
「準備もできてるわ!」
そのスライムは、いつものような楕円形の水滴のような綺麗な形ではなく、ドロドロに崩れた不定形になって触手を使い襲い掛かってくる。それを前衛に出た田中と安藤が斬り落とす。
「溶解か!」
「しかも強くなってるぞ!全体的に!」
溶解対策に大金叩いて用意した武器が、数発も耐えられずに使い物にならなくなる。だがそれでも攻撃は止まらずに急いで武器を取り出し、迫りくる触手を叩き切る。
「燃え尽きろ!」
「弾け飛べ!」
後衛二人の炎と爆弾がボススライムに炸裂した。
しかし――
「う、うそだろ……」
「き、効いてねぇ……」
「ありえません」
「明らかに今までのと格が違う」
傷ついた体は即座に再生し、溶解霧と分裂による増殖でそこらかしこにスライムが生み出される。それはまさに地獄絵図であり、低レベルの耐性では耐えきれない溶解霧が徐々に体を溶かし、敵はボスを倒すまで無尽蔵に増え続けていた。
「速攻で決めるぞ!」
「それしかねぇ!」
田中と安藤が触手を斬り伏せ、飛び掛かってくるスライムを斬り捨て、ボススライムに斬撃を加える。すると一瞬怯んだように体を引き、次の瞬間には壁のように視界を埋め尽くし濁流のごとく押し寄せ二人を飲み込んだ。
(しまった!こうなったらっ!)
(くそっ!こうなったら全力で吸収だ!)
もがく二人は、田中が等価交換により爆弾を取り出し、安藤が吸収による攻撃でボススライムにダメージを与えて放り出される。
「くうぅ……つえぇ」
「吸収で相殺しきれなかった」
受けたダメージを吸収とスキルで相殺しようとしたが、その前に放りだされ、再生で傷はなくなったが四人はダルさを覚え始める。そこへ追撃と言わんばかりにスライムが襲い掛かるが、吉泉の転移爆弾が炸裂し難を逃れた二人は素早く距離を取った。
「攻撃いくよ!」
そのまま西田がため込んでいた炎熱線を放ち、次の瞬間にはボススライムは切断され、周囲のスライムは爆炎によって消し飛ばされる。
「ちょっと見ましたけど、あれ暴走ですよ」
「ボスで暴走って……道理で強いわけだ」
迷宮にはボス以外に、エリアボスやレイドボス、変異個体など様々な種類形態の魔物が存在している。その中でも暴走個体はとりわけ面倒で、自身の崩壊と引き換えに強大な力を得ている個体のことだ。
「ふざけんなよ。あれでも倒せないのかよ!」
「もう一発撃つから時間稼いで!」
「わかった!」
「わかりました!」
一回り小さくなり分裂する余力はなくなったようだが、それでも攻めてくる。そこへ田中と吉泉が接近し、ボススライムが触手で攻撃を仕掛けてきた。
「引っかかりましたね!」
「こっちも忘れんな!」
触手が吉泉に当たりそうになった途端に吉泉が転移し、吉泉の背後に隠れていた安藤が触手の空振りとともに加速で一気に距離を詰め、連撃を叩き込んだ。そしてボススライムの背後を取った吉泉もまた連撃を繰り出し、隙をついて接近を成功させた田中もそれに続く。
「みんな撃つぞ!」
西田の叫びに反応した三人は距離を取ろうとし、ボススライムは最後の抵抗かの様に必死にまきぞいを食らわせてやると体を広げ三人を飲み込もうとする。だが吉泉には転移で逃げられ、安藤には追い付かず、田中には爆弾で退けられる。
そして――
「くたばれ!」
西田の放った炎熱線に、広がった体の大部分がぶつかり、ボススライムは消し飛ぶのだった。