現実ってこんなもんだ
「君たちにはこの探索を最後にうちの会社を辞めてもらう」
「「「「え?」」」」
とある迷宮の門の前で、一人の指導員らしき人物からそう告げられた作業服を着て武器を持った四人組の男たちは、呆けた顔をする。
「ど、どういうことですか?」
「そうですよ、理由をお願いします」
「三か月間指導してみたが……正直言って君たちにはあまり期待できない」
めんどくさそうにそういう指導員に、四人組は思い当たる節があるのか黙りこく。しかし指導員はそんなことお構いなしに続けた。
「うちは優秀な探索者を集めてるんだ。特に異能者や術者は率先的にな。君たちはそれで集められたわけだが、どうにも成長が芳しくない。本来遅くても二か月もあればパーティーを組んで指定の迷宮に挑めるはずなんだが、君たちにはその傾向すら見えないからだ」
探索者。それはこの世界における迷宮に挑む者のことだ。迷宮ができてから人類は、迷宮でレベルを上げることにより誰しもがレベルやスキル、中には五千人に一人の割合で発現する異能などを手に入れたが、迷宮探索に向いている者は半分程度である。
「田中、吉泉、西田、安藤、君たちのレベルはいくつだ?」
「31です……」
「33です……」
「35です……」
「17です……」
上から名前を呼ばれた順に答える四人組。それに溜息を吐いて説明する指導員。
「異能者はもともとが強力な分レベルが上がりづらい。だがそれでも、三か月もあればレベル100は超えられるはずだ。それなのに誰一人としてその水準に満たしていない。途中からスキルを諦めてレベリングに変えたのにだ。そして異能レベルもまだ一じゃないか」
スキルや異能にもレベルがあり、最大で5である。2までは半年もせずに上げられるものであった。特に専門職や探索者はそれを使う機会が多いので、その半分もかからない。彼らの様に有名な会社で指導員もつけてもらえばなおのことだろう。因みに単なるレベリングなら、100レベになるのに一瞬間程度で十分なのだが、大人数に向いていない事、成長性が下がる事を考慮してこの企業では行われていない。
「田中君、君の異能は“等価交換”だったね。確かに対価さえあればいつでも欲しいものが手に入る力は優秀だ。しかしあくまで等価交換である以上、その対価が用意できなければ何もできない。しかも需要と供給に合わせて価値が変わるのは痛いところだ。肝心な時に対価が足らなくなるからね」
田中の異能は“等価交換”である。それは対価を支払うことで、知っているものをなんでも即座に手に入れることができる異能であるが、状況によって価値の上がり下がりがあるものだから、普通の買い物と変わらない。非常時や非売品などを生み出せるのは強みだが、そもそもそこまでの価値を用意できるのかと言う問題も大きいものだ。
「吉泉君、君の異能は“転移”だったね。瞬間移動のごとくどこにでも転移できるのは素晴らしい異能だ。ただ自身にしか適応されないのと移動の際に体力を使うのはもったいないと思っている。長距離や連続して使えばすぐに息切れして戦線を離脱することになるから、本当に残念だよ」
所有物を含めた自身にしか効果を及ぼさない“転移”の異能。さらには移動分の体力を消費するため、限界を超えて使用すれば、戦闘中でも探索中でもお構いなしにお荷物と化してしまう。迷宮探索とは体力勝負なところが大きく、それを補えないのであればこれからやっていくのも難しいだろう。
「西田君、君の異能は“共有”だったね。自分の受けた状態の共有で、自分が強化されれば繋がっている仲間にも同じ強化ができる。最大3人なのは別にいいとして、毒や麻痺にも適応されるのが痛い。しかも共有者の誰かがやられれば君も同じ状態異常になる。分散しないだけマシとは言え一気に苦境に立たされるだろうね」
西田の異能は“共有”である。それは善悪問わず自身の受けた状態異常を共有するといったものだ。これにより共有を使用している間は、共有者分のコストを抑えることができるが、逆に誰かが何かしらの状態異常を食らえば一気に戦況が傾くだろう。この世界では回復、特に即効性のある回復は貴重だからだ。
「安藤君、君の異能は“吸収”だったね。長期戦にはもってこいだろう。ただ吸収すればするほど経験値が減るのは致命的だ。異能の強力さやスキルの数もそうだが、なにより基礎レベルの高さが大部分を占めるのが探索者の強みなのだから、それは看過できない」
安藤の異能である“吸収”は、攻撃や何かしらの接触で相手から体力などを奪うことができる異能だ。長期戦にはもってこいだが、それをすればするだけレベルアップから遠ざかってしまう欠陥を抱えていた。このチームが成長出来ないものな原因だ。
「以上のことから、君たちにはうちの会社を辞めてもらうこととする。すまないがこっちだって商売なんだ。試用期間中に水準を満たせない者たちをいつまでも雇っていると言うわけにもいかない。今回の探索は最後の餞別だと思ってくれ」
「「「「……」」」」
目も当てられない現実を目の当たりにしながら四人組は、迷宮攻略に足を踏み入れるのだった。