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第一話

【この小説は、遥彼方様主催「冬の足跡」企画参加作品です】


 「何処……何処に行ったの?!」


 大雪に見舞われる小さな村で、一人の少年が行方不明になった。

 大人達は総出で捜索するも、もうじき日が暮れる。そして風も強くなり、もうじき吹雪くかもしれない。


「お願い……! あの子を……あの子を見つけて!」


 少年の母……私の家の隣に住むエリサさんは、必死になって村の男性陣へと懇願する。

 しかし男達の顔色は優れない。このまま捜索を続けても、今度は他の誰かが遭難してしまうかもしれない。


「エリサ、捜索は中止だ。明日、天候を見て再開する」


 私は自宅の窓から様子を伺っていた。すると村長がそう言い放ったのを聞いて、エリサさんは耳を疑ったに違いない。少年は……息子は今もどこかで凍えているかもしれない、なのに探すのを止めてしまうのかと。


 私が子供の頃も一人行方不明になった。私が当時、兄と親しんで追い掛け回していた男の子が。

 あの子のように……テルミのようにもう戻ってこないかもしれない。


「村長……! あの子は……!」


「家に戻れ、エリサ。おい、頼むぞ」


 村長に促され、村の男達はエリサさんを宥めながら家の中へと連れていく。エリサさんは大声で息子の名前を叫んだ。アルト、と。


「エリサさん……大丈夫かな……ねえ、お母さん」


「……心配ね。ルミア、うちに来るように言ってくれる?」


 私は頷きながら、玄関から外へと。

 そこは極寒の地ならではの肌を刺す冷たい空間が広がっている。この地で過ごしてきた私ですら、外でずっと耐えるなんて出来っこ無い。アルトは今もこの空気に晒され続けているのだ。早く助けてあげたい。


 そっとエリサさんの家の玄関の前へと歩み、ノックしながら声をかける。


「エリサさん、私、ルミア。今日はうちに来てってお母さんが……」


「いや、いや……! アルト……アルト!」


 中から尋常ではない叫び声が聞こえた。私は思わず扉を開け中へと。するとそこでは、男達が必死にベッドの上へとエリサさんを押さえつけていた。


「な、何して……」


「ルミア! 先生を連れてきてくれ! 早く!」


 びっくりした。思わず男達にエリサさんが襲われているのかと思った。しかしそんなわけが無い。私は言われた通り、村で唯一の医者であるファルマ先生を呼びに。


「先生……! 先生!」


 玄関の扉を叩き先生を呼ぶ。すると中から目の下にクマを作った、銀髪ロングの男性が。


「うぁい……何、どうしたのルミアちゃん……ついに先生のお嫁になる決心が……」


「いいから来てください!」


 私は先生の手を引き、エリサさんの家の中へと放り込むように。

 すると先程まで眠たそうにしていた先生の目は別人のように。


「そのまま抑えてて。お湯沸かしてくれ。エリサさん、落ち着いて……」


 先生はエリサさんのおでこを抑えながら、目を見つめる。ただそれだけでエリサさんは落ち着いてしまった。先程まで泣き叫んでいたのが嘘だったかのように。


「もう大丈夫……。ちょっと俺の家から薬袋取ってきてくれ、青い奴。あぁ、ルミアちゃんはこっち来て」


 先生は指示を出し、私も従いながら傍へ。エリサさんは涙を流しながら眠ってしまっていた。


「手、握っててあげて。っていうか何があったの。こんなに取り乱して……」


「……アルトが居なくなっちゃったんです。というか気づかなかったんですか、今朝から結構……大騒ぎだったんですけど……」


「あ、あぁー……いや、ちょっと朝まで研究を……寝たのがそのくらいだったのかな? なんか男共が騒いでるとは思ったけど……」


 私はそんなファルマ先生を横目で睨みつけつつ、エリサさんの手を握る。

 

 アルト……まさかとは思うけど、あそこに……?

 もしあそこにいるなら……無事な筈だ。私もそうだった。


 あの、ユグドラシルが聳え立つ……あの場所なら。

 



 ※




 日が完全に沈み、マルカと呼ばれる衛星が大地を照らす頃、私は静かに家を出た。

 勿論厚着をして、私の相棒であるリュクを連れて。


「リュク、おいで」


「フンッ」


 リュクは私と同い年の獣。同い年と言っても、獣の年齢で言えばリュクの方が断然上だろうけど。でも私にとっては同い年だ。私が生まれたと同時に飼いだしたんだから。


 大きな耳にフサフサの毛並み。一見すると耳が大きな狼のように見える。でもリュクは決して人を襲ったりはしない。この村周辺に出る獣を追い払ってくれる、私の頼もしい相棒。


「……リュク、アルトを探すの手伝ってくれる? 昼間も探したと思うけど……私、心当たりがあるの」


「クゥーン……」


 あぁ、ごめんね、眠たいよね。

 昼間さんざん歩きまわされて……疲れてるよね。じゃあいいや、私一人で……


「フンッ」


 そうはさせるかと、リュクは私のコートをかじりながら引っ張ってくれる。

 どうやら手伝ってくれるらしい。


「じゃあ……お願い、リュク」


「フンッ」


 そうして私は歩き始めた。

 まずは凍った湖を越えなければ。




「……ルミアちゃん? 一体どこに……」





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