第七話 レイフと狐面と自己紹介
「こんな豪華な馬車初めて乗ったっぺ!」
「すごいね、どこにしまってあったの?」
「この家のすぐ近くにある別館の厩舎だよ」
「へぇ〜」
「このでっかい家の他にまだ建物あんの?金持ちだなぁ」
レイフ達五人は今何をしているかというと、馬車に乗っている。キャリッジまではいかないがそこそこ大きく、黒に金の装飾が施されている馬車だ。
レイフがノトムを探しに行こうと言った瞬間、狐面の御者が颯爽と現れてレイフ達を馬車に乗せた。
狐面の彼、梅乃さんは十年ぐらい前に極東の国イーアティーからやって来て、今もレイフの家に仕えている。
「君達レイフの友達になってくれたん?ありがとうな」
梅乃さんは馬車の前方の窓に狐面を向けて言った。
「いえいえとんでもないっぺ」
それにマックスが応える。
「レイフと仲良くしてやってな」
「もちろんです」
オリヴェルが一番に言った。いや君は元から友達でしょ。
「じゃあ出発するで〜」
馬車が動き出す。レイフはこんな大人数でどこかに出かけたことが一回もないので少し楽しみだった。
石畳の小道を出ると市街地に出た。やっぱシルベのカラフルな街並みは夕焼けによく映えるなぁ。
「レイフ、ほんとにありがとな。俺達のために色々考えてくれて」
ルーカスが改めてお礼を言ってくれた。
「全然気にしなくて大丈夫! ルーカス達が遠くに行っちゃうのは寂しいからね」
ルーカスはこうやってわざわざ言ってくれるあたりすごいいい子だと思う。
「よし!早速だけどみんなおいらに自己紹介してくれへん?」
梅乃さんが突然言う。
「いい考えですね! 僕もそれいいと思います」
レイフはその意見に賛成した。そういえばまだみんなの事全然知らないしね。
「せやろ?お互いのことちゃんと知った方が仲良くなれると思うねん」
「いいですね。やりましょう自己紹介大会」
オリヴェルも乗り気だ。
「俺から言っていいっぺ?」
「いいよ」
「じゃ始めるっぺ! 俺はマックス、いつも炭鉱でマウリッツと一緒に鉱夫の仕事の手伝いしてるっぺ。好きなことは炭鉱の中で遊ぶことだっぺ」
「いいのかそれは」
「見つかんなきゃOKだっぺ!」
「マックスはめっちゃ元気やな〜」
梅乃さんが頷いた。
マックスが自己紹介をし始めてから、馬車内の雰囲気が一気に明るくなる。この調子でどんどんいこう。
「レイフです。好きな動物はネコの茶トラで、両親が貿易商をやってるんだ」
アノマス家が今のようにお金持ちになったのには色々歴史があるがそこは割愛。
「貿易商か〜。響きからして金持ちそうだもんな」
ルーカスの目が『$』になってるのが見えそうで見えない。
「それだけ? 言わないの? 好きな人」
オリヴェルが何かを企んでいるようにニヤリと笑う。
「ちょっと! それは恥ずかしいから!」
「なになに好きな人がいるっぺ?」
「へぇ〜気になるな」
マックスとルーカスにせがまれ、レイフは渋々言うことにした。
「……実は、担任の先生が好きですごい憧れてるんだ」
「まさか、教師と生徒の禁断の恋⁉︎」
ルーカスが興味津々に言う。
「別にそんなんじゃないから!僕が一方的に慕ってるだけだし!」
「きっかけもどうぞ」
オリヴェルもいつになくノリノリだ。くそー!しょうがない、言ってやろう。
「僕が中学に入ったばっかりの頃学校で迷子になっちゃて、それを先生が助けてくれたんだ」
しかも一瞬手を繋いでしまったのだ。こんなの誰でも惚れるよね? そんでもって僕達と遊びに行ってくれるときたらこれはもう、ね。なんだって話だよ。
「ふ〜ん。まぁ頑張るっぺ!」
「応援してるぜ」
「相変わらずやな〜」
「あはは……」
こうなったからにはもう遅い。これからはみんなに先生の百の良いところを聞いてもらうことになるかもしれない。
「じゃあ次は僕が自己紹介するね。オリヴェルです。趣味はおじいちゃんの畑仕事を手伝うこと。レイフとは小学校の頃から友達なんだ」
「長い付き合いなんだっぺな!」
「せやねん。オリヴェル君はレイフとよく遊んでくれんねん」
「違いますよ僕が遊んであげてるんです」
「はいはい」
「ひどっ」
「俺はルーカス。港で働いてて、親分と出航していく豪華客船を眺めるのが好きかな」
「ルーカスも働いてるっぺ?」
「ああ」
「! だから新しく児童養護施設ができること知ってたんだっぺな。結構良い服着てるから驚いたっぺ」
「これ盗ったやつだけどな」
「凄いっぺ! 後でコツとか教えてほしいっぺ!」
前言撤回。ルーカスはいい子だけど少々問題アリ……。
でもそれ以上に、ルーカスとマックスが意気投合してるみたいでよかった。
「堂々としてんなぁ〜。ええ事やで」
「ちょっと!梅乃さんがそんなこと言っちゃダメでしょ!」
レイフが思わずツッこむ。
「神様が、『どうしてもっていう時は油揚げを踏み潰す以外ならなんでもやっていい』って言ってたで」
「何ですかその神様」
「さすがの俺も存在を疑うっぺ」
「本当や!」
珍しくルーカスとマックスもツッこみ、梅乃さんが総スカンを食らっている。
「後はマウリッツだね」
オリヴェルが言うと、みんな一斉にマウリッツの方を向く。
「え……。これボクも言わなきゃダメなの?」
「当たり前だっぺ!後お前だけだっぺ」
「マウリッツです。よろしく 」
「少ないっぺ!」
マックスが困ったように言った。
「うざっ……」
「ニャーオ」
「! ハッピーキャンディー!」
その時いきなりうちの飼い猫のチョコが馬車の窓に飛び込んできた。
家にいるんじゃなかったの⁉︎ どうしてここに⁉︎
チョコはまっすぐマウリッツの膝の上に向かいそこに収まった。
「ハッピーキャンディー、ずっと馬車の上にいたの?」
「ニャー!」
「よしよしハッピーキャンディーはいい子だね」
マウリッツはそう言ってチョコの頭を撫でた。
レイフの知らない間に、マウリッツにずいぶん懐いていたようだ。
「ハッピーキャンディハッピーキャンディー連呼してるけどうちのネコは『チョコ』って言う名前だから勝手に改名されちゃ困るんだけど」
「『チョコ』? ださっ」
ハッピーキャンディよりは百倍マシだと思う。
「そいつレイフん家のネコだっぺ?」
「そうだよ」
「どうりで上品だと思ったっぺ。よしよしこっち」
マックスがチョコを抱きかかえようとする。
「二゛ヤー‼︎」
「うわっ」
チョコは爪をシャっと出して抵抗した。
やっぱ飼い主が一番だよね。
「チョコ、こっちおいで」
レイフは両腕を広げる。
「ハッピーキャンディー、ボクの方がいいよね」
うん、呼び名変える気ないんだね……。
そしてチョコは迷うように首を傾げた。
最近構ってやれてないとはいえ、真っ先に飼い主を選ばないとは……! 早くその魅惑のbodyをもふりたい!
「ミャウ」
チョコはトテトテと歩くとマウリッツの膝の上に丸くなり結局そこに落ち着いた。
「飼い主よりボクを選んだってことは、これはもうハッピーキャンディーに改名だね」
マウリッツが得意気に言う。マウリッツとチョコを巡ってのライバル関係になるとは思いもしなかったわ。
「それはさすがにダサすぎて死んだ方がマシ」
「たしかし」
「じゃあ間をとってハッピーチョコはどうや?」
梅乃さんが名案!というように言う。
「「却下です」」
レイフとマウリッツが息ぴったり同時にいう。
そんなこんなでレイフ達初めての自己紹介大会は幕を閉じた。