第六話 アルヴァー先生と電話
プルルルルルル。プルルルルルル。
夜の八時、誰もいない職員室に電話の音が響き渡る。
アルヴァー先生は仕事を終え、デスクで帰り支度をしているところだった。
こんな時間に電話をかけてくるのはイタズラ目的の生徒ぐらいだろうと考え、すぐさま受話器を手に取った。
「もしもしこちら国際宇宙ステーション開発部ですけど何か御用ですか?」
自分が出せる限りの裏声でそう言ってみる。さぁ何年何組の誰が出るんだ。
「……何を言っとるんじゃアルヴァー先生」
「は⁉︎」
「ほっほっほ、こんばんは。孫のオリヴェルがお世話になっておるのぉ」
電話の主は予想外過ぎる人物だった。
「……どうもこんばんは」
電話を掛けてきたのはイタズラ目的の生徒ではなく、アルヴァー先生が担任を務めているクラスの生徒のお爺さんだった。
うわー恥ずかしー。
いやいやそれよりこんな夜遅くに何の用だろう。
「先生、ちょっとお尋ねしたいことがあるんじゃが」
「なんですか」
「わしのオリヴェルがまだ家に帰っとらんのじゃ」
「えぇ! そうなんですか」
「そうなんじゃ」
「たしかレイフ君とあともう一人ルーカス君という子と三人で一緒に帰ってましたけど」
「ということは学校は出てるんじゃな?」
「はい」
「おかしいのぉ」
まじか。いったい何があったんだ?
「わかりました。今から探してみます」
「助かるのぉ。オリヴェルがいないと畑仕事が捗らんのじゃ」
そういえばオリヴェルの家は農家だったな。おっとりしてるオリヴェルのイメージにぴったりだ。
しかし、オリヴェルが家の手伝いを投げ出すとは思えないし、大方レイフと何かやってるんだろうな。
「では失礼します」
ガチャっと電話を切り、今度はレイフの家の電話に掛けてみる。まぁ今頃オリヴェルと一緒にいて家にはいないんだろうが念のためだ。それに親御さんが心配しているかもしれないしな。
「……………………」
出ない。親もいないのか。
「ただいま留守にしております。ピーという発振音が鳴りましたらお名前と御用件をお話し下さい」
いつも家に誰もいないことが想定されているのか、電話機の留守モードがオンになっている。せっかくだしメッセージでも入れておこう。
「レイフー聴こえてるかー先生だ。今度またみんなでマーケット広場にでも行こう。もし行くならいつがいいか考えといてくれ。じゃあまたな」
アルヴァー先生はレイフにお出かけのお誘いをメッセージに残した。
レイフ達と遊ぶのは結構楽しい。メンバーはレイフ、オリヴェル、スティーナの三人。スティーナは学校では他の二人とよく喧嘩をするが、屋台をぶらぶら散歩をするときは少し穏やかになりほとんど言い合うことはない。だからみんなでわいわいとはしゃぎ一日を過ごす。アルヴァー先生はその賑やかさが面白くて好きだった。
「さてどうするかな」
アルヴァー先生は困った。レイフもダメとなるとあと頼りになるのはスティーナしかいない。
レイフの家の数件先がスティーナの家だっていうし、一応電話を掛けておこう。
「もしもしどちら様です?」
スティーナは秒で電話に出た。
「スティーナ、オリヴェルが家に帰ってないらしいんだがどこに行ったか知らないか」
「えぇっ先生ですの⁉︎」
「そうだ」
「やっぱりこうなると思ってましたわ」
電話越しにはぁ〜っとため息が聞こえた。
「???どういうことだ」
「オリヴェルさん、いやあの人達はもうシルベを出てるころだと思いますわ」
「は?あの人達って……」
「レイフさん、オリヴェルさん、ルーカス君、その他数名のことですわ」
「ルーカス君もか⁉︎」
レイフに加えルーカス君、さらにあと見知らぬ数名もいないらしい。かなりの大ごとだ。
それにシルベを出たとなると明日までにはもう帰ることが出来ない。
「そうですわ」
「それどこで知ったんだ?」
「レイフさん達が庭で大声で話してるのがたまたま聞こえただけですわ」
「そうか。ところでそうなった経緯を教えてくれないか? まだ全然話がわかんないんだ」
「いいですわ。話せば長くなるんですけどね……」