第二話 レイフのお供
二人は噴水広場の木々の裏にある道を走り抜け、ろくに整備されていないだろう蔦だらけの階段の前で立ち止まった。
「俺はこの階段を上ったらシルベ中学に着くって聞いたけど、全然先が見えなくて一人じゃ不安だったんだ」
道順が分からなかったんじゃなくて本当に学校に着くかかどうか確かめたかったんだ、とルーカスが付け加えて言う。一人じゃ不安だったなんてルーカスの性格じゃ考えられないけど、そういうところもあるんだ、と少しホッとした。初登校時の自分を思い出して、酸っぱい気持になる。
いやーしかしそういうのを正直に言っちゃうルーカス意外といい子かもしれない。
「この階段無駄にでかくて僕も最初は驚いたよ。でも校舎はもっとでかいんだ。何度迷子になったことか……」
そう、うちの学校は校舎も馬鹿でかく、外見もさながらお城のようと評判だ。
「へぇ〜そうなんだ。少しわくわくしてきた」
「いや期待しないほうがいい。中はくそボロいから」
「あははっ自分の通ってるとこなのによく言うな」
レイフはルーカスを先導し、階段を上っていった。五分ぐらい経った頃だろうか。ようやく門が見えてきた。うん、いつ見ても完全にお城だ……。
「さあ着いたよ。今は授業中だからそーーっと歩こう」
「わかった」
キィィィと扉が開く。一年生の教室は最上階の六階だから、またたくさん階段を登らなければならない。
「うわぁ確かにすっごい古い建物だな」
「でしょ」
ミシミシと音を立てる床、天井に張り付く蜘蛛の巣。全てが不気味だ。
六階に着いたので、自分の教室を目指す。階段から向かって右側に、普通の教室がある廊下が伸びている。AからGまでクラスがあって、レイフはそのうち五番目のE組なので、五つ目の扉の前に立った。
「あ、そういえばルーカスってどこのクラスを見に行くとか決まってる?」
レイフは小声で尋ねた。
「ううん、決まってない。けど親分が校長先生に、先生全員に俺が来ることを知らせてくれって頼んでたから多分大丈夫だと思う」
そうだよね。もしルーカスが服とかそのままで学校に来たら、色々と勘違いされちゃうかもしれない。そこまで考えてくれるルーカスの親分さん頭良いな。
「おはようございまーーす」
ガラガラと扉を開け、何事もなかったかのように教室に入る。
「それでこの符号は……おっ、レイフ遅刻か」
授業をやっていたのは数学のアルヴァー先生だった。若い男の先生で、アザリア色の髪の毛に藤色の眼、鼻の上にはそばかすがある。E組の担任でもあり、優しいし個人的に結構好きな先生だ。
「すみません。ちょっとこの子を案内してたんです」
「ルーカス君の話は聞いてるよ。学校を見学しに来たんだよな。えーとどこの席がいいかなー」
先生は教室内を見渡した。さっきからみんなの視線を感じるが、まあ気のせいだろう。
「あんた、その子無理やり連れて来たんじゃないでしょうね」
そう言って突っかかってきたのはレイフの隣の席のスティーナだった。赤茶色の髪の毛に茜色の眼、頭にはローズピンク色の薔薇の髪飾りが付いている。服は西洋のドレスのようで、思わず、お前ここ学校だぞダンスパーティーに来てるんじゃないんだぞ、とツッコミたくなるような風体だ。スティーナの家は僕の家の数件先にあって、幼馴染的な存在だ。それでいつも僕にだけ突っかかって来る。理由を聞いても聞く耳を持ってくれない。
「うーん空いている席がないな」
アルヴァー先生が困ったように言う。あっそうだ。
「先生、ルーカスの席なら大丈夫です。スティーナがあれを使ってくれるらしいので」
そう言ってレイフは掃除用具ロッカーの隣に置いてある一組の机と椅子を指差した。
「ちょっ、そんなこと言って……」
「じゃあルーカスにあのボロっちいの使えって言うんだー」
「別にそんなことは」
「いいのかスティーナさんありがとう。じゃあルーカス君はあそこのスティーナさんの席を使ってくれ」
「ぐぬぬ……」
アルヴァー先生に言われると弱いのか、スティーナは大人しく自分の教科書を持って席を立った。