083.帰郷
「もう少しでファルト村だねー」
『ああ、ジルにとっては20年ぶりになるか』
「あははー、思いがけず大冒険になっちゃったねー」
『だな。まさか、アルベルトを連れ戻すだけだと思っていたが、こんなことになるとはな』
本当に、こんなことになるとは当時は思いもしなかったよ。
とは言え、全くの無駄な結果に終わった訳じゃない。
業腹だが、親元から引き離されたアルベルトは自立心が養われたのか、結構立派な勇者をやっていたし、ジルも20年の歳を取ってしまったが、名前だけではなく本当にS級に相応しい実力を身に着けた。
「アル君の事は心配しなくてもよさそうだけどー、やっぱり動きやすい方がいいよねー」
『ああ、その為にもあのクソババァの影響を排除しないとな』
「むふー、まずはアル君の行動を制限しているファルト村の監視の排除だねー」
『いや、排除はしない』
「えー? じゃあどうするのー?」
『マードックの時に気が付いたんだが……』
俺はジルにファルト村での作戦内容の変更を伝える。
「ふむふむー、了解ー。確かにその方がいいかもねー」
『敵の排除ばかりが最善ではない、と言う事だな。お、そろそろファスト村に着くな』
「おおー、懐かしき我が故郷よー」
『……どこでそんな言葉を覚えたんだ?』
ジルはファルト村が見えてくると両手を上げて大げさに喜びの感情を表現する。
因みに、ジルはふーちゃんに横座りして馬車の速度並みでファルト村に向かっていた。
ふーちゃんの移動速度を使えばあっという間だが、20年ぶりの帰郷がそれじゃああまりにも風情が無さすぎると言う事で、このような移動となっていた。
ファルト村にはこれまでにはみなかった立派な門と、村を覆い囲う丈夫な柵が作られていた。
そして門の傍には物見櫓も設置されている。
『しばらく見ない間にずいぶん立派になったな』
「(もしかしたら野盗騒動の時の教訓で作ったのかもねー)」
ああ、そう言えばそんな事もあったな。
ジルが門の前に着くと、そこには1人の若者が門番が立っていた。
おそらく物見櫓の見張りから村に近づいている者が居る事を伝えられていたのだろう。
門番は慌てることなく手にした槍を構えながらジルを見定める。
と言うか、あれ? この門番、見たことあるような……
「(きゅーちゃんー、この門番、ブランだよー)」
へ? ブランってあの?
ジルにベタ惚れでよく突っかかっていた、あのガキ大将のブランなのか?
いや待て。ブランって確かジルと同じ10歳だろう。
なんだよその体格は。
ブランはとても10歳とは思えない体に成長していた。
150cm位の身長にがっしりとした鍛え上げられた体。
見事にいっぱしの兵士に見える。
「見たところ冒険者のようだが、ファルト村に何のようだ? この村には冒険者が来るような遺跡も無ければ凶悪なモンスターも居ないぞ」
「ブランー、すっかり見違えちゃってー。10歳で門番を任せてもらえるなんて出世したねー」
因みに、この世界だと10歳で1人前扱いで、大人に交じって仕事が出来るようになるが、普通は直ぐにそんなに仕事を任せてはもらえない。
「何で俺の名前を知っている……? いや、待て……その顔に見覚えが……」
「酷いなー。幼馴染の顔を忘れるなんてー。あれだけ俺の嫁にするとか言ってたのにー」
『いや、今のジルを見て分かれって言う方がムズイと思うぞ』
今のジルは身長180cmの大女だもんな。しかもFカップの巨乳。
「まさ、か……ジル、なのか……? 本当に……生きて、いたんだ! ジル! お前この野郎! 心配したんだぞ! 今までどこをほっつき歩いていたんだ!!」
ブランは我を忘れて思いっきりジルに抱きつく。
尤も身長差があるせいか、イマイチ絵的には見栄えが良くなかったが。
「ブランー、痛いよー」
「うるさい! 今まで心配をかけていた罰だ。大人しく受け入れろ!」
「もうー、しょうがないなー」
暫くジルをギュッと抱きしめていたブランだったが、ふと我に返ったのか急にジルを引き離し顔を真っ赤にしながら捲し立てる。
「そ、そうだ! ジルの親父さん達も心配していたぞ。早く顔を見せて安心させてやれよ」
「うんー、おとーさんとおかーさんを安心させて上げないとねー」
「詳しい話は後で聞かせてもらうからな!」
ブランはジルを送り出し、暫くすると後ろから歓喜の雄叫びが上がっていた。
うーん、青春だねー。
大人になったジルを村人は不審人物を見る様な訝しげな表情をしていたが、ジルはそれには構わずに真っ直ぐ自分の家へ向かって行く。
『懐かしいか?』
「(うんー、本当に帰って来たんだねー)」
20年ぶりの家は、出て行った時と何ら変わりはなかった。
そりゃあこっちではまだ3年しかたってないからそんなに変わらないか。
ジルはそっと家の戸をあけ中へ入る。
家の中には誰もおらず、何処かくたびれたようにも見えた。
『居ないな……』
ジルは俺の呟きには答えず、そっとテーブルやイスを撫でて当時を懐かしんでいた。
キィ……
とその時、家の中に入ってくる人物がいた。
ジルの母親だ。
「あー……」
ジルは何かを言おうとしたが、言いたいことが沢山あるのか、それとも歓喜のあまり声が出なかったのか、言葉に詰まる。
「ジルちゃん……、ジルちゃんなのね。おかえりなさい」
「おかーさんー、私が分かるのー?」
「ええ、分かるわよ。だってジルちゃんの母親ですもの」
そう言って、母親はジルをギュッと抱きしめる。
「おかーさんー、ただいまー」
「ええ、おかえりなさい」
おお、母親すげー。
まさか大人になったジルを一発で分かるとは。
「おい、どうしたんだ、急に走り出して」
お、今度は親父さんも来た。
どうやらお袋さんと一緒に畑仕事をしていたのか、手には鍬を持っていた。
「あなた、ジルちゃんですよ。ジルちゃんが帰って来たの」
「おとーさんー」
「ジル……お前……、馬鹿野郎! 心配させやがって! 本当に、本当に、もう……!」
親父さんも感極まって涙を流しながら母親ごとジルを抱きしめる。
「おとーさんー、痛いよー」
「うるさい! 心配をかけた罰だ! ちょっと見ないうちに大きくなりがやって…………んん!?」
親父さんは抱きしめていたジルを引き離し、思わず大人に成長したジルをまじまじと上から下まで見た。
「は? え? はぁぁぁっ!? お前、ジルだよな? 何だその成長っぷりは!?」
そりゃあ驚くよなぁ。
3年ぶりに帰ってきた娘が急に大人になって帰って来たんだもの。
「あははー、あれから色々あってねー」
ジルはアルベルトを追いかけて出て行った時からの3年間――ジルにとっては20年間の出来事を両親に説明する。




