Side-9 アルベルト3
あれから3年が経った。
3年と言う短い期間だが、俺は他の8歳の子供よりも心身ともにあり得ない程の成長を遂げた。
それもこれも、勇人部隊のとてもありがたい“教育”のお蔭だ。
その予定外の成長により、Alice神教教会――いや、“勇”の枢機卿のババァが俺の10歳の準成の儀の前に、勇者として大々的に公表するようだ。
どうも魔王軍との戦線が厳しいらしい。
そこで、勇者の存在を公表する事で戦線の士気を上げる腹積もりだろうな。
いずれ近いうちに俺も前線に送られる事だろう。
それとも大事な金づるだから前線には出さず、教会内で広告塔として使い潰すつもりかな?
まぁ、それは周囲が許さないだろうな。
唯一魔王に対抗できる戦力を、大事にしまっておけるはずがない。
それはババァも理解しているだろうから、何らかの手段を取って前線送りを先延ばしするだろう。
どちらにしろ、俺には従うしかないからどうでもいい。
さて、今日はギルドへ行って、村とかで被害が出ているモンスター退治でもするか。
「何処へ行かれるのですか? 勇者様」
こいつは俺の世話をすると言う名目で傍付きとなっている監視役のシスターだ。
「……ギルドだよ。困っている人を助けるのも勇者の仕事だろ」
「1人で勝手に出歩かないで下さいと言っているのです。今、護衛を呼びますので……」
「護衛は必要ない。付けるなら勝手にしろ」
俺はそう言い残し、後ろで喚いているシスターを置き去りにしてさっさとギルドへと向かう。
俺がギルドへ着く頃には、神殿騎士1人と勇人部隊1人が追いつき、護衛として俺の左右に立つ。
勇人部隊の1人は傍付きのシスターと同じく監視だろうが、神殿騎士はどうだろうな。
俺の周りはババァの管理下にあるが、神殿騎士は教会――さらに詳しく言えば、“軍”を司る枢機卿の管理下にある騎士だ。
ババァの影響が他の枢機卿にまで及んでいれば、この神殿騎士も俺を食い物にする為に理不尽な事を強いて来るだろうな。
……まぁ、どっちでもいいか。
Alice神教教会の腐敗は俺にとってはどうでもいい。
今の俺は教会にとっての駒の1つにしか過ぎない。
教会が腐っていようが腐っていまいが、俺は俺のやりたいようにするだけだ。
表向きはババァ達に屈し従っているように見せかけ、内心は何時でも牙を向けれるように研いでおく。
ギルドのクエストも表向きは勇者としての仕事をしているように見せかけ、力を付ける為と外の情報を知る為でもある。
「助けてよ! シークスの村を助けてよ!」
俺がギルドへと入ると、受付に俺より少し上の10歳くらいの女の子が騒いでいた。
女の子に対応している受付嬢は、少し困ったようにしていた。
おそらくだが、女の子の村のシークス村がモンスターに襲われ、ギルドに助けを求めに来たんだろう。
だが、モンスター退治のための依頼料が依頼内容に満たない額だったんだろうな。
もしかしたら依頼料なしで助けを求めに来たのかもしれない。
「俺が助けてやるよ」
「ホント!?」
俺が受付カウンターに向かい、女の子に向かってそう告げる。
「って、子供じゃない! ふざけないで」
「ふざけてない。俺はこう見えて結構強いぜ」
「うそよ! こっちは子供のお遊びに付き合っている暇はないのよ!」
はぁ、見た目で判断されるのは仕方ないとはいえ、信じてもらえないのは辛いな。
とは言え、今はまだ勇者として名乗るわけにはいかないからな。
表向きは勇者を育てる為に勇者の存在は秘匿という事になっているが、実際はババァが最大の利益を得るためにここぞと言う時に公表する為だ。
ギルドの上層部の一部の人間は俺の存在は知っているが、世間一般にはまだ勇者の存在は知られてない。
まぁ、噂程度には広まっているだろうが。
仕方ないから俺は受付嬢に俺の強さを証明してもらう。
「アルベルトさんはC級冒険者ですので、実力には申し分ありません」
「え? うそ、本当に……?」
女の子は流石に受付嬢に言われ、更には俺の後ろに付きそう勇人と神殿騎士を見ては思い直したようだ。
「じゃぁ、助けてくれるの……?」
「アルベルトさん、宜しいのですか? このクエストは依頼料がほぼ無いと言っても過言でもありません」
受付嬢がわざわざ心配してくれて忠告をしてくれる。
何度もギルドでクエストを受けた事で、特に依頼料の低いクエストでも受けるものだから、ギルドや受付嬢たちには俺の受けがいい。
「それでもいいよ。困っている人たちの為に戦うんだ。俺には願っても無い依頼だよ」
「ほ・本当にシークス村を助けてくれるの……?」
「ああ、任せておけ」
俺の言葉に女の子が喜びの表情を見せる。
だが、それに水を差すのはクソッたれのババァの手下だ。
「なりませんぞ、アルベルト様。アルベルト様ともあろうがこの程度のクエストに手を出そうとは。この手のクエストはそこら辺の冒険者に任せておけばいいのです。アルベルト様にはもっと相応しいクエストを受けるべきです」
「そうですな。アルベルト様の力はもっと他の事に向けるべきですな」
監視の勇人の言葉に同調するように、神殿騎士もこのクエストは俺には相応しくないと反対意見を述べてくる。
クソッたれが!
勇者は困っている人を助ける存在だろう!
勇者に格を付けるんじゃねぇ!
そんな事をしたら助けられる存在も助けられねぇじゃねぇか!
力を付ける前はそれ程口を挟んでこなかったが、大抵のモンスターを相手取ることが出来るようになると、最近は俺の受けるクエストにもいろいろ口を出すようになってきやがった。
今のようにな!
勇者に相応しくないなどそれなりに理由を付けて、強引にでも俺を管理下に置こうとしている。
まぁ、何度かクエストのたびに護衛の制止を振り切り行動を起こせば管理監視もきつくなるだろう。
さて、どうするべきか。
このまま女の子を見捨てる選択は俺には無い。
かと言って、今はこれ以上ババァに逆らうのは必要以上に目を付けられる恐れがある。
そう考えていると―――
「そのクエスト、良かったら私が受けるよー」
俺は声の方を見ると、そこには1人の女冒険者が居た。
180cmほどの身長に、ポニーテールにしたくすんだ金髪。
肩と腹の素肌を晒した、胸だけの革の胸当て。
胸には銀に輝く水晶をはめた、見覚えのある木彫りのペンダント。
両腕はガントレットを装備し、ホットパンツから伸びるスラリとした脚に、ニーハイブーツに金属の脛当て。
ボロボロの袖なしコートに羽織ったその姿は一見そこら辺に居る冒険者に見えたが、良く目を凝らしてみれば歴戦の強者の気配を纏っていた。
だが、俺はそんな気配を見なくても、直ぐにその女冒険者が只者ではない事を知っていた。
ああ……ああ……生きて、いたんだ……
「任せて、いいんだな?」
俺は泣きそうになる顔を無理やり抑え、感情を押し殺した声で問う。
今は、周りに気づかれてはダメだ。
「うんー、任せてー。私に掛かればあっという間に解決よー」
それはそうだろうな。何てったって、規格外と言う言葉は彼女の為にあるようなものだ。
もう、大抵の事は心配しなくていい。
俺も、抑えていたものを解放し、行動をする時が来た。
「分かった。任せた」
俺はそう言い残し、踵を返してギルドを後にする。
「アルベルト様、もうこれからはギルドに通うのはやめてください。アルベルト様に相応しい仕事は俺ら勇人部隊が用意しましょう」
「待て、これ以上アルベルト様を独占するのはやめてもらおう。我ら神殿騎士こそがアルベルト様を支えるのに相応しい」
俺を余所に、勇人部隊の1人と神殿騎士の1人は言い合う。
ふん、精々互いの利権を貪りあってろ。
お前らが良い目を見るのはここまでだ。




