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この石には意志がある!  作者: 一狼
第4章 迷宮大森林・疾走編
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066.時空波紋1

「キャンキャン!」


 子フェンリルがジルに駆け寄り顔を舐めまわす。


「くすぐったいよー」


 うーむ、随分と懐いているな。


 なりは小さくともれっきとした脅威度Sのモンスターなんだが。


「フェンリル……なんだよね? どう見ても子犬にしか見えないけど」


「ジルベールさんに懐いているところを見れば、敵対する気はなさそうですね」


 そう言いながらシロップも子フェンリルを撫でようと手を伸ばせば警戒して唸りを上げる。


「キャフウゥゥゥ……!」


「ええっ!? なんで!?」


「ダメだよー。シロップは仲間だよー。クローディアもねー」


 シロップ達に唸り声を上げている子フェンリルをジルは撫でながら宥める。


「キャウン……?」


「そうー、いい子ねー」


「【テイマー】じゃないのにフェンリルを躾けているよ……」


 大人しくなでられている子フェンリルを見ては、シロップは呆然としていた。


 まぁ、気持ちは分かる。


「それで、このフェンリルはどうしましょうか?」


 そう、問題はこれだけ懐いている子フェンリルをどうするか、なのだが。


「えー? 連れて行かないのー?」


「まぁ、連れて行っても問題は無いわよね?」


「……ですね。寧ろ戦力としてこちらからお願いしたいくらいでしたね」


 うん、問題は無かった。


「連れて行くんだったら、名前を付けないとね。ジルちゃん、なんてつける?」


 シロップの言葉にジルは少し考え、パッと閃いたかのように笑顔で答えた。


「マックスー! この子はマックスー!」


 ふむ、そう来たか。


「いい名前、ですね。この子は人の役に立つモンスターになりそうですね」


「良かったね。マックス。あんた人を見る目があるわ」


 先程のジルの躾けが効いているのか、今度はシロップに大人しくなでられているマックス。


『ジル、一応俺の【テイマー】スキルで契約しておくか?』


「(ううんー、大丈夫だよー。マックスは私達の言う事をちゃんと聞くからー)」


 さっき出会ったばかりなのに随分と信頼しちまったな。


 今はいいが、町中に入る時は色々問題が出てきそうだが……


 ま、その時に考えればいいか。


 今は迷宮大森林を抜ける方が先だ。


 こうして子フェンリルのマックスを新たに仲間に加え、迷宮大森林の3つ目の難所を目指す。







 迷宮大森林に入ってから約3ヵ月。


 ジル達は3つ目の難所に差し掛かっていた。


 迷宮大森林は時間だけでなく空間も歪められている。


 その所為か大森林と言ってもその広さは広大で、山のような地形に大河も流れていれば、谷のような断崖も存在する。


 そして3つ目の難所は大きな草木が生えていない荒地の渓谷だった。


 幅が約100mほど、長さが10km。


 規模としては小さいが、アメリカのグランドキャニオンを想像してもらえれば分かるだろう。


 渓谷の底を端から端へ渡り歩いて、渓谷を抜ければようやく迷宮大森林の出口となる。


「ふぁー、すごいねー、これー!」


「キャンキャン」


 ジルは目の前の光景に目を奪われていた。


 マックスも異様な光景に怯えているのか、しきりに鳴き声を上げている。


「これが時空波紋よ。あ、触っちゃだめだからね。触ったらそのままのみ込まれて何処に飛ばされるか分からないから」


 シロップが注意を促すのも分かる。


 目の前には水面の波紋のように空間に無数の波紋が広がっていた。


 1つが波紋を起こせば、共鳴するかのように複数の波紋が別の場所に広がる。


 そしてその波紋の影響を受けて、また別の場所で波紋が広がる。


 波紋が起こっては広がり、静まっては、また広がる。


 その無限の繰り返しだ。


 音は聞こえないが、リィン・リィンと風鈴の音が鳴り響いているようにも感じる。


 俺は目の前の波紋を【解析】してみると、その波紋に捉われれば、移動先は迷宮大森林の10km南、時間は1年先となっていた。


 その波紋は直ぐに消え、また新たに波紋が広がるが、【解析】によると今度は東大陸――ブロークンハート大陸の更に東、まだ未開拓地に繋がっており、時間も50年も昔へ飛ぶようになっていた。


 ほぼ全く同じ場所の波紋なのに、空間時間共に出現先がバラバラだ。


 これは下手に触ることも出来ないな。


 いや、触るつもりは元々ないが。


 この波紋が渓谷10kmに広がっていると言う。


『客観的に見ても、ここを通ると言うのは無謀極まりないですね』


『まぁ、見た感じは通れる隙間もないからな』


 収納能力は空間系に関する事だから気になるのか、かめちゃんが目の前の光景にここを通るのは無謀だと言う。


 それはシロップ達も最初から分かっている事だ。


 それでもここを通ると言う事は手段があると言う事でもある。


「でもこれじゃあ通れないよー?」


「ふっふっふ、安心してジルちゃん。あたし達は迷宮大森林のスペシャリスト案内人! ここを通る術は持っているわ!」


 と言いながら、シロップは懐から何やら懐中時計のようなものを取り出した。


「えーっと……ふむふむ、後8時間くらいしたらこの時空波紋は治まるから、その間に通れるわよ」


「ほえー、この波紋が治まるのー? 凄いー!」


『客観的に言って根拠がありません。これだけ複雑に絡み合っている歪みが治まるなんてあり得ません』


 素直に驚くジルに対し、かめちゃんが苦言を申し立てていた。


『突っかかるな、突っかかるな。シロップ達は努力して調べたんだろう。おそらく懐中時計みたいなのが観測機でパターンを計ったんだろう』


『あり得ません、あり得ません。たかが人間がこれだけ複雑に絡み合った時空を観測するなど……』


 空間系のプライドが傷つけられたのか、かめちゃんがちょっと壊れ気味だ。


「(多分、スキル持ちの人とか協力して調べたんじゃないのー? あの観測機もねー。例えばきゅーちゃんのように【解析】とか使ってー)」


 ああ、スキルなら調べるのも可能か。


 ジルの説得でかめちゃんも少しは落ち着きを取り戻した。


 ……ちょっと、納得はいってないみたいだったが。












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