006.教会
悪がき3人を撃退したジルは何事も無かったかのように村の案内を再開した。
ただ、ちょっと子供のケンカにしては本格的な戦闘だったので聞いてみた。
『あ~~、ジルさんや。いっつもブランとあんなケンカをしているのか?』
「(うんー、そうだよー。最初の頃はちょっとした小突き合い程度だったんだけどー、最近じゃガチの戦闘になってるねー)」
『ガチって……怪我とかしたらどうすんだよ?』
「(何度か大怪我しちゃっておとーさんやおかーさんに怒られたねー)」
『おいおいおいおい、マジで大丈夫なのかよ』
「(あははー。でも向こうから突っかかって来るんだもんー。私は悪くないよー? 何で突っかかるんだろー?)」
あらら~、ブランご愁傷様。
ジルはブランの気持ちに全く気が付いてないみたいだな。
まぁ、7歳で恋愛の機微を感じ取れって言う方が難しいか。
尤もアプローチの仕方も典型的な好きな子を虐めて気を引こうとしているやり方だしな。
「(それにー、今日はアル君が居たから逃げられなかったしねー。いつもなら逃げられるんだったら直ぐに逃げるよー)」
ジルがその気になればブラン達から逃げるのは容易いらしい。
アルベルトはジルの活躍を間近で見れたのが余程嬉しかったのか、ニコニコしてジルに手を引かれていた。
そうしているうちに、ジルは村の真ん中にある建物の前に辿り着いた。
「(はいー、ここが村の中心ー、教会ですー)」
これまで見た村の建物の中で一番大きな建物だった。
前世ではこういった施設は集会場の役割も果たす為、また、避難所も兼ねている為に丈夫で大きい建物になっていると聞いた事があるからその為、村の中でも一番の大きさなんだろう。
『ここが女神Aliceを崇めているAlice神教の教会か。でもってスキルを授ける施設でもある、と』
「(うんー、そうだよー。この世界を創造しー、私達人間や動植物なんかを生み出した唯一神だよー。まぁ、ちょっと失敗して魔物も生み出しちゃったみたいだけどー)」
昨日の夜、ジルから教えてもらった世界の事を思い出す。
女神Aliceは何も無い空間に降り立ち、まず太陽と月を作り出した。
そして空と海と大地を作り出す。
空と海と大地を作り出したことによって、この世界に住まう植物・動物を生み出し、最後にエルフ・ドワーフ・獣人・人間と言った人類を生み出した。
ただ、複数の動植物・人類を生み出したことにより歪が生じ、魔物・魔族と言った負の感情を喰らう種族も生まれてしまったそうだ。
その為、魔物・魔族に対抗するために人類にスキルを授ける仕組みを作ったと言われている。
だが、そのスキルシステムは人類だけでなく、魔物・魔族にも影響を及ぼしてしまい世界には未だ魔物・魔族が蔓延っているとの事だ。
世界に魔族が蔓延っているが、唯一の救いはその数が少ない事だ。
まぁ、逆に魔物――モンスターが大量に蔓延ってはいるが。
人類を助けるためにスキルを授けたのに、逆にそれで人類に悪影響を及ぼしているのは皮肉な事だ。
意外と失敗している女神Aliceだが、その信仰は絶大で女神Aliceが居たからこそこの世界や自分たち人類が生まれたのだと言われて崇められているみたいだ。
そんな訳で、女神Aliceを崇める為、神託を授かる為、スキルを授かる為、人が住む村や町には必ず教会が建てられていると。
俺はジルに教会の中を見させてもらう為、中に入ってもらった。
教会の中は前世での教会のように、左右に長テーブルと長椅子が並べられ、正面中央奥には女神Aliceの像が祀られていた。
女神Aliceが俺をこの世界に転生させたのかと思い教会の中に入ってもらったのだが、何も変化は見られなかった。
うーん、俺の転生には女神Aliceは関係ないのか……?
ジルとアルベルトが女神Alice像の前に来ると、奥の扉から1人の神父服を着た男が現れた。
神父服を着ているところを見ると、この教会の神父か?
「おや、ジルベールさんとアルベルトくんじゃないですか。どうしたんですか? 今日は礼拝の日ではないですよ?
まぁ、礼拝の日ではなくとも女神Alice様への祈りは何時でも構いませんが」
「神父様ー、こんにちわー」
「しんぷさま、こんにちは」
現れた男は思った通りこの教会の神父だった。
神父は礼拝の日でもないのにジル達が教会に来たことを訝しんでいたが、Alice教は何時でも受け入れると懐の深いところを見せた。
とは言え、俺が中を見たいって言ったんだからジルが中に入った理由が無いんだよな。
と、俺がどう説明したらいいか思案していると。
「今日はアル君の『祝福』の前にー、いいスキルを授けてくれるようにお願いしに来たのー」
ジルが機転を利かせてアルベルトの為に教会に来たと説明する。
因みにスキルを授かる儀式を『祝福』と言うらしい。
「ああ、そうでしたね。アルベルトくんはもう少しで5歳になるのでしたね。アルベルトくんにもジルベールさんのように素敵なスキルが授かりますよ」
「うん! ぼくもおねえちゃんみたいにカッコいいスキルがほしい!」
「ふふふ、いい子にしていればその望みは叶いますよ」
ジルのスキルがカッコいい……?
うーん、スキル性能を考えれば確かに破格なんだけど、カッコいいか……?
どうもジルや周囲の反応を見るに、特殊系――ジルの場合はその中で称号系スキルと呼ばれているが、称号だけで大したことが無いスキルと認識されているらしい。
尤もジル本人は全く気にしてないが。
そんなスキルがカッコいいか?
まぁ、ジルのあの戦闘を見ればカッコいいと勘違いされても仕方がないのか。
「アル君は私のスキルよりもっと凄いスキルが授かるよー。これお姉ちゃんの勘ー」
「ほんとー!?」
「ふふふ、ジルベールさんの勘ですか。これは期待できそうですね、アルベルトくん」
アルベルトはジルにいいスキルが授かると保証され更にご機嫌になっていた。
おいおい、あんまり期待させて落ち込まれても知らねぇぞ。
ジル達は神父に改めて『祝福』をお願いし、今日の散歩と言う名の村の案内は終わり、家へ帰った。