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この石には意志がある!  作者: 一狼
第4章 迷宮大森林・疾走編
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057.交差点

 迷宮大森林に入って約2ヵ月が経った。


 地竜の巣(グラドラ・グランデ)を抜けてからも、様々なモンスターが襲ってきたが、ジル達4人は互いに連携を深めながら撃退していた。


 幸いにも恐れていた金色地竜の追撃は無く、ジル達は比較的安全に迷宮大森林を進んでいた。


「今日はここまでにして、野営の準備をしましょう」


 シロップの宣言に従い、ジル達は河の畔で野営の準備を始めた。


 迷宮大森林にも河は存在する。


 但し、時空間が歪んでいる関係か、迷宮大森林の内部は果てしなく広大だ。


 それに伴い、迷宮大森林を流れる河も大河と言って差し支えない程大きく、そして幾つも枝分かれをしている。


 今ジル達が野営の準備をしている河もその内の1つだ。


「いやー、ジルちゃんのかめちゃんはすっごく便利だね~。まさか迷宮大森林の中に居てもこれだけ充実した食事にありつけるとは思わなかったわ」


 野営の準備を終え、既に日が落ち星空が瞬く大空の元でジル達は今日の夕食を摂っていた。


 その中でシロップの何気ない会話が場の空気を微妙にする。


 かめちゃんの中には大量の食糧や野営の為の物資が入っている。


 迷宮大森林に入って約2ヵ月が経っているにも拘らず、毎日同じように変わらない食事を摂る事が出来ていた。


 そう、シロップはかめちゃんのアイテムボックスが時間停止機能まで付いているのではないかと疑っているみたいなのだ。


 おそらくクローディアも薄々気が付いているだろう。


 特に、地竜の巣(グラドラ・グランデ)では、惜しみなくかめちゃんの収納量を披露したから目を付けられていたので仕方のない事ではあるが。


 因みに、マックスにも時間停止機能の事までは言っては無いが、気が付いているだろう。


 その上で黙っていてくれていると思われる。


「うんー、迷宮大森林を抜けるのに何か月も掛かるって聞いたから、いっぱい用意したのー」


 ジルも分かっていてやっているのか、それとも知らずにやっているのか、敢えてはぐらかすような答えをしている。


「うーん、ジルちゃんが今回のお客さんですっごくラッキーね! いつもこうだと良いのに」


 シロップさんよ、地竜の巣(グラドラ・グランデ)で地竜の群れに襲われた時は、もう案内人の仕事を止めるーって言ってなかったっけ?


 ……っと、どうやらお客さんが来たみたいだな。


 俺の【気配察知】【魔力察知】【索敵】にこちらに向かってくる()の反応があった。


 【危険察知】に反応が無いところを見れば、襲撃ではないのでそこは安心だが、まさか時空間が歪んだこの広大な迷宮大森林の中で人と遭遇するとは。


 俺はジルにこちらに向かってくる人が居ることを伝える。


「誰かこっちに来るみたいだよー」


 ジルの言葉にマックスは警戒を顕わにする。


 だが、シロップとクローディアの2人は、気を張ってはいるもののそれ程警戒はしていなかった。


「あー、警戒しなくても大丈夫だよ。……多分」


「おそらく他の組織の依頼者と案内人でしょう。ここの休憩地点は他の組織とのルートの交差する場所でもありますので」


 あー、なるほどな。


 確かに水場でもある河の傍は休憩地点になりやすいから、自ずとルートの交差点になりやすいのだろう。


「何処の誰かと思ったら影ギルドの白黒コンビか」


「申し訳あらへんけど、お邪魔させてもらうわよ」


 現れたのは軽戦士の格好をした男と、背中に大荷物を背負った関西弁モドキを話す小柄な女性だ。


 その後ろから王宮などで見かける騎士の制服を纏った目つきの鋭い女性と、如何にも貴族と言わんばかりの派手で煌びやかな衣装を纏った男だった。


 騎士の女性はまだ許容範囲だが、貴族の男はその格好でこの迷宮大森林を抜けて来たのか?


 よく案内人はその格好での同行を許可したな。


「でたな! 強欲商人!」


「あら、マゼンダさんにシアンさん。ええ、ここは協定で定められたセーフティエリアですからどうぞご自由になさって下さい」


 シロップは小柄な女性――マゼンダを見ては嫌な顔をする。


 暗がりで良く見えなかったが、明かりの傍まで来ると彼女はドワーフだと分かる。


 軽戦士の方――シアンもよく見れば明らかにヒューマンとは違う。エルフだ。


 そしておそらくその背後の騎士と貴族の男女2人が依頼人だろう。


 シロップの強欲商人って言葉から、彼女らは裏の商人ギルド――裏ギルドの人たちかな?


「悪いな。思ったよりも時間を食ってへとへとなんだよ。出来ればその飯とかも分けてもらえば助かる。勿論、金は払う」


「ちょっ、何を無駄にお金を使おうとしてんの! ここは逆に同情を誘って只で物を手に入れるとこやろ! いえ、逆に物を売りつけるのよ!」


 おーい、聞こえているぞ。聞こえていたら同情も誘えないだろうよ。


 いや、寧ろワザと聞こえるように言って駆け引きをしているのか?


 シアンは食って掛かるマゼンダを無視し、シロップと交渉を始めた。


 シロップはジルを見てはどうするか訴えかけてくる。


 まぁ、食事なんかを用意したのは全てジルだからな。


 勿論、案内人であるシロップ達もまったく用意してないわけではないが、準備した量が全く違うから、迷宮大森林に入って数日もすれはほぼジルが用意したもので賄ってしまっていたのだ。


「うんー、いいよー。でもしっかりふんだくってねー」


 おおぅ、ジルも言うねぇ。


 商人相手にふんだくれとは。


 シロップもマゼンダにぎゃふんと言わせられるのが嬉しいのか、喜んで値段を吊り上げる交渉を始めた。


 まぁ、そんなんで図らずとも裏ギルドの者達と一夜を共にすることになったのだが、そこに全く空気を読まない者が居た訳だ。


「またこのような場所で夜を明かすのか? もう少し快適は空間を提供して欲しいものだ。まぁ、それは余も我慢はしよう。だが、その者達はならん。素性の知らぬものが余の傍にいることは許されぬ。即刻立ち去れ」










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