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この石には意志がある!  作者: 一狼
第1部 「幼女」 / 第1章 ファルト村・激闘編
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003.家族

 唐突に光が差し込む。


「それでねー、この子がきゅーちゃんー」


 光の先にはジルが居た。


 俺を手に持って自慢げに周囲に晒している。


「今までのコレクションと違って普通の石に見えるな」


「あら、真ん丸の石ね」


「まんまる~」


 よく見ればジルの他に3人居た。


 山賊と見間違いそうになる黒髪ヒゲモジャの厳ついおっさん。


 透き通るような金髪にほんわかした雰囲気の女性。


 その女性と同じ鮮やかな金髪の幼い男の子。


 おそらく父親、母親、弟と言ったところか?


 ジルの隣に父親、テーブルの向かいに母親、その隣に父親と向かい合うように弟。


 テーブルの上にある空の皿を見れば食事後になるのだろう。


 食後の団欒で新しく拾ってきたコレクション――俺を披露していたってところか。


 だが、俺はそんな事よりあの真っ黒な何も無い石空間から出されたことに喜びを感じていた。


『ジル~~~~っ!! よ゛がっだよ゛~~~! やっど出じでも゛らえだ~~~~~!!!』


「あれー? どうしたのー? きゅーちゃんー?」


『あの石空間は何なんだよー! 真っ黒で何も無くて! もうあんな所は二度と嫌だぞ!』


「ほえー、石空間って真っ黒で何も無いんだー?」


『幾らジルに呼びかけても返事も何も無いし! ジルに取り出されるまであんな所に1人だなんて……ああああっ! 考えただけでも恐ろしい!』


「うーんー、分かったー。きゅーちゃんがそう言うならもう石空間に仕舞わないねー。ずっと一緒だねー」


 ああ、良かった。ジルも納得してくれたみたいだ。


 どう足掻いても、主と言うか俺の所有者はジルになるからな。


 【ストーンコレクター】の影響もあるし、逆らえるわけがない。


 ……まぁ、文字通り手も足も出ないからされるがままなんだよな。


 と、改めて周囲を見れば、親たちのジルを見る目が何処か引いていた。


「あ~~っと、ジルは誰と話しているのかな?」


「きゅーちゃんだよー。さっきも言ったでしょー? きゅーちゃんはお話が出来るんだよー!」


「ああ、うん、そうか。そうだったな」


「ええ、お話が出来る石なんて素敵ね」


 父親は何処か諦めにも似た達観した表情だった。


 母親はほんわかした雰囲気で一見動じてないようにも見えるが、ジルを褒めているその笑みは若干引きつっている。


 そして弟はと言うと。


「わー、おねえちゃん石さんとおはなしができるんだ! すごいすごい!」


 まぁ子供らしく純粋に褒め称えていた。


 ……普通に考えればそうだよな。


 自分の子供が物言わぬ石と会話しているって、頭が可笑しくなったんじゃないかと思うよな。


 どうやら俺の声はジルにしか届いていないみたいだ。


 【ストーンコレクター】のスキルを持つジルにしか聞こえないってわけだ。


『あー、ジルさんや。他の人には俺の声が聞こえてないから、周囲に人が居る時はなるべく小声で話すか声を出さない方がいいぞ』


「んー? そうなのー?」


『傍から見れば1人で喋っているようにしか見えないからな』


「(うんー、分かったー。これからはこうするねー)」


 うおっ!? 急にジルの心の声が聞こえるようになった。


 【ストーンコレクター】による念話?なのか?


「ジル、どうしたんだ? 急に黙って」


「きゅーちゃんが1人で喋っているようにしか見えないって言うから心で会話してるのー」


「そ、そうか」


 おおぅ……親父さん、引いている引いてる。


 だが娘の奇行にも慣れているのかあっさりとスルーしているな。


 ……そりゃあ趣味で2,000個の石集めを目にしていれば、自ずとスルースキルも見に付くか。


「そうだー、おとーさんー。きゅーちゃんが石空間に戻るのは嫌だって言うんだけどー、このままじゃきゅーちゃんを持ち運びしていると無くしそうなのー。どうにかならないかなー?」


 あー、確かにこのままじゃどっかに転がして無くしそうだな。


 服に仕舞おうとしても結構かさばって邪魔になるしな。


 因みに俺の大きさは直径5cmちょい――ピンポン玉よりも一回り大きく、テニスボールより一回り小さいくらいだ。


「……ちょっと待ってろ」


 親父さんは席をたって外に出ていく。席を立って?


 そして10分くらいすると紐の付いた小さな木の板を持ってきた。


 六角形の板に丸い穴が開いており、角の一つから紐を通したペンダントだった。


 手作り感丸出しのペンダントだったが、穴の縁や六角形の角にはさり気ない装飾も施されている。


「ほら、これできゅーちゃんを無くすようなことは無いだろう」


「おとーさんー、ありがとー!」


 ジルは早速渡されたペンダントに俺をはめ込み首から下げる。


 ペンダントと言うには若干大きい上に、メインとなる中央が俺――ただの石と言う、ペンダントらしからぬものだが、ジルは喜んでいた。


 親父さんも何だかんだ言いつつも娘が可愛いんだろう。


 娘の為にわざわざこんな物を作ってくれるんだからな。


 と言うか、俺をはめ込むための穴なんかはジャストフィットしているんだが?


 10分かそこらで俺の大きさを目算で調べてここまで綺麗に作り上げるって、ジルの親父さんは職人か何かか?


「(おとーさんは狩人だよー)」


 そう思ってジルに聞けば、親父さんは職人ですらないバリバリの肉体系職業だった。


 えー、狩人ってここまで器用だっけー?


「ジルちゃん良かったわね。これできゅーちゃんとも一緒ね」


「おねーちゃん、かっこい!」


 ジルの母親は優しそうな目で微笑んでいて、弟は俺の嵌まったペンダントを見て羨ましそうに見ていた。


 ……まぁいいか。石空間に行かずにジルと一緒に居られるんだからな。










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