212.怒りのジル
「ほぉ、珍しくやる気になておるな、ジル嬢ちゃん」
……居たのか! ジジィ!
普段はいつの間にか何処かに居なくなったりしてる謎のジジィだが、どうやら今日は一緒にガダム村に居たようだ。
ただ、これまで口を出してこなかったから、今の今まで存在しているのをすっかり忘れてたぜ。
『儂はオブザーバーじゃから口を出さんと言っておるじゃろう』
『心を読むな! くそジジィ! と言うか、口じゃなく手を出さないんだろ。口まで利かなくなったら只の物置だぜ』
ジジィの戯言はどうでもいい。今はジルだな。
確かに珍しくやる気になっているし。
「うんー、〝サンダーボルト″の強くなるというその気概は別にいいよー。でもねー、他の人を巻き込むのはダメ。それは己の強さにつながらない、邪道の強さだよ」
おおぅ、ジルが静かに怒っている。
段々いつもの間延びした口調じゃなくなっている……
「……いいぜ、あんたがやりな。ボクたちは取り巻きが手を出してきた時の為の補佐だ」
「いいのか? 魔王軍であんたがその権威を示すために出た方がいいんじゃ?」
「いいんだよ。ボクの権威よりも村の安全が最優先だ。彼女ならまず間違いなく〝サンダーボルト″に勝てるからな」
あっさりと許可を出したジョージョーにそれでいのかとブラストールが尋ねるが、どうやら魔族のプライドよりも村の安全を取ったようだ。
……そう考えると、ジョージョーも魔族らしくないな。
「ありがとー。あの尖ったプライドをへし折ってくるねー」
早速ジルは分厚い門を出てゴブリンを背後に腕組みをして強者感を出しているゼタの前に歩を進める。
アルベルトたちもジルの後ろについていざと言う時の対応に備える。
因みに、村の外に出たのはアルベルト、ヒビキ、マックス、ジョージョーの3人と1匹だ。
ブラストールやゴダーダ、ファイは再び防壁の上に配置し、ゴブリンの攻撃に備える。
腕を組んでニヤニヤしていたゼタだったが、ジルを先頭にして近づくにつれて訝し気な表情になっていく。
「ぁん……? 女、お前に用はない。ジョーカー、さっさと前に出てこい。一戦交えようぜ」
「駄目だよー。あんたと戦うのは私だよー」
「ふざけてんのか? お前、人間の女だろう。どんなに強くたって所詮人間だ。しかも女! 女が俺の前に現れるんじゃねぇ! やる気が削がれちまうじゃねぇか」
あれ? こいつ、ジルのこと知らねぇのか?
これまでの魔王軍との戦いでそれなりにS級冒険者『幻』のジルベールって名が広まっていると思ったんだがな。
もしくは勇者の姉として。
あ、あーー……魔大陸に居たせいか、情報が届いていない可能性もあるか。
「ふーんー……見た目だけで強さを判断するなんて、〝サンダーボルト″って名ばかりなんだねー。ジョージョーが強いから気をつけろって言ってたけど、所詮は井の中の蛙だったんだー」
「……あ゛? てめぇ、舐めたこと言ってんじゃねぇぞ。人間の女なんぞ俺の【サンダーボルト】にかかれば即死だ」
そう言うなり、いきなり【サンダーボルト】を放つゼタ。
「えんちゃんー」
『奢れる者久しからず。自ら墓穴を掘ったな、奴は』
ジルがえんちゃんを装備し、無効化でゼタの【サンダーボルト】を打ち消す。
「…………は?」
邪魔者を退かすつもりだろうが、一撃必殺で放った【サンダーボルト】だったんだろう。
それをあっさり防がれて――それも人間の女と見下したジルに――ゼタは呆けた表情を見せていた。
「それでー?」
「ちっ、その楯、魔道具か。だったら、その魔道具の耐久を超えた攻撃を下すまでだ!
【サンダーボルト】!!」
先ほどよりも威力を増した【サンダーボルト】を連続で放つゼタだったが、まぁえんちゃんの能力の前には全くの無意味だよな。
たまに無効化ではなく、反射で自らの【サンダーボルト】をゼタに返して思いがけない反撃にゼタの表情が怒りに染まる。
「おーい、今更かもしれないが、そいつを舐めない方がいいぞ。ディーディー様を倒し、ユーユーが一目を置く奴だから」
「なっ……んだと。こんな人間の女が、か……? 信じられん。嘘をつくな、我々魔族よりただの人間の女が優れているわけがない! だが俺にダメージを与えた褒美に見せてやろう、この俺の〝サンダーボルト″の奥義を!
――【サンダーボルト・サンダーボルト】!!」
お? さっきの【サンダーボルト】を纏うのと似ているな。
【解析】でゼタの様子を見てみると、体内から【サンダーボルト】を発生させ無理やり筋肉や神経を雷化し、外側から【サンダーボルト】をぶつけそれを纏わせエネルギーとしたみたいだ。
但し、【解説】を見てわかる通り、かなり体に無理をしてる魔法だ。
「ふぅぅぅぅ……さぁこれでお前に勝ち目はなくなった」
うーん……ジルを見下している割には奥義まで使って全力で挑んでいる時点で矛盾しているって気づいて……いないな。
「ぼーちゃんー、それときゅーちゃんー、接続お願いー」
『分かりました。見ていて痛ましいです。早くあの者に引導を渡して下さい』
『了解~。ま、そうだな。天狗の鼻をへし折ってやりな』
ジルがぼーちゃんを石空間から取り出し、俺の【楯】スキルと接続する。
奥義を使い、体の痛みを堪えながら昂揚して油断しているゼタにジルはスキルを放つ。
「【シールドバッシュ】ー!」
『馬鹿だな、こいつは。気づくだろう、普通は。魔法が効かないことに』
「ぐふぅっ!!?」
ジルの一瞬で間合いを詰めてえんちゃんを突き出した【シールドバッシュ】により、ゼタを覆っていた【サンダーボルト・サンダーボルト】はあっさり無効化されて盛大に吹き飛ばされる。
そのまま盛大に転がり気を失った。




