001.出会い
「きゅっきゅっきゅー、きゅっきゅっきゅー」
……んぁ? なんだ? 暖かい……?
「きゅっきゅっきゅー、きゅっきゅっきゅー」
ああ……気持ちいな、これ……
「きゅっきゅっきゅー、むふー、綺麗になったー」
女の子……?
今、俺の前には女の子が居た。
「君の名前はきゅーちゃんだー!」
【名前がきゅーちゃんに設定されました】
『ふぁっ!?』
はっ!? 名前!? ちょっ、いったい何が起きている!?
思わず変な声あげちまったぞ!?
「ふぇー? なにー? 今の声ー?」
目の前の女の子――5・6歳くらいの金髪の少女――は周りをキョロキョロするが、周りには誰も居ない。
いや待て、あれから一体何年が過ぎた?
考えるのをやめてから何がどうなった?
もしかして俺は目の前の女の子に拾われたのか?
駄目だ。永い間思考を止めていたからめぐりが悪くなっている。
『こりゃあ、要リハビリだな』
「あー、また聞こえたー。だれー?」
女の子は不思議そうに周りを見渡す。
…………え? まさかこれ、俺の声が聞こえている?
『あー……えーっと、もしかして俺の声が聞こえているのか?』
「聞こえるよー。だぁれー?」
マジか!!!! マジで俺の声が聞こえているのか!!!!
あああああ、やっとだ。やっと意思が通じる相手と出会ったよ……
『君の目の前にある石だよ』
「きゅーちゃんー? わー! すごいすごいー! きゅーちゃんが喋ったー!」
あー、そう言えば名前がきゅーちゃんって設定されてたっけ。
……ん? 設定されてた?
今までそんなアナウンスみたいなの聞いた事ないぞ。
マジでどうなっているんだ、これ。
まさか……
【鑑定】!
名前:きゅーちゃん
形状:球型
スキル:百花繚乱
うおっ!? 【鑑定】が使えた!? って言うか、ステータスしょぼ!? これだけ!?
ん? でもスキルが【百花繚乱】? 【鑑定】じゃないのか?
いや、今は女の子の方が先か?
「今までいろんなコレクション集めて来たけどー、喋ったのはきゅーちゃんが初めてー」
『お、おう。俺もやっと話が出来る相手が見つかって嬉しいよ。って、コレクション?』
「うんー、私のスキル、【ストーンコレクター】なんだー。今まで沢山の石を集めて来たのー」
【ストーンコレクター】? 何だその変わったスキルは。
あ、もしかしてそのスキルの影響か? 俺が会話できるのは。
今まで100年以上もスキルのスの字も無かった俺に急に【百花繚乱】なんてスキルが手に入るのは可笑しいからな。
「私の名前はジルベールだよー。皆からはジルって呼ばれているよー。よろしくねー」
『ジルか。こちらこそよろしくな!
ところでジルのスキルの【ストーンコレクター】ってどんなスキルなんだ?』
「石を集めるスキルだよー」
そりゃあ石集めって言うくらいだからな。
「集めた石は石空間に仕舞う事が出来るんだよー。
スキルに目覚める前は集めた石を仕舞うところが無くてー、お部屋に沢山コレクションを置いてたら、おかーさんに怒られてたのー」
『怒られてたってどんだけ集めてたんだよ』
「んー? 分かんないー。1,000個ー? 2,000個ー? とにかく沢山ー」
多っ! 2,000個以上って、そりゃあ怒られるよ。
流石【ストーンコレクター】。
『それだけ沢山の石を集めたからスキルが目覚めたのか』
「ううん、違うよー。スキルはねー、5歳になったら教会で神様から授かるんだよー」
趣味が高じてスキルが目覚めたかと思ったらどうやら違うようだ。
詳しく聞いてみると5歳になったことでこの世界の一員として認められたと言う事で神様からスキルを授かるらしい。
まぁ、子供の頃って簡単に命を落としやすいからな。
特に魔物とか居る異世界は特に。
……そう言えばこの世界も魔物は居るのか?
100年以上もこの世界に居るが未だに見たことは無いな。
「私は元々石集めが好きだったからスキルが【ストーンコレクター】だったのですごい嬉しかったのー」
んー? やっぱり趣味が高じてスキルが目覚めたっぽいな。
それとも元々授かる予定だったスキルに影響して石集めの趣味に目覚めたとか?
『それで、【ストーンコレクター】には石空間の他にどんな能力があるんだ?』
「うんー? 集めたコレクションを仕舞うだけの能力だよー?」
『え? それだけ?』
「うんー、それだけー」
……マジか。思ったよりもしょぼいスキルだな。
いや、使い方によっては有能なスキルか?
例えば石細工の職業にとっては石を仕舞える石空間は便利なはずだ。
その事をジルに聞いてみると返ってきた答えは期待以下の物だった。
「石空間にはコレクションしか仕舞えないよー?」
つまり、ジルがコレクションと認めた石しか石空間に仕舞えないわけか。
……使えねぇー!
あ、いや、ジルは満足しているのか。
使えないと思っているのは俺や周りの人たちだけなんだろうなぁ~
『ジルはコレクションをたくさん集められて幸せか?』
「うんー! 沢山石を集められて幸せー!」
まぁいいか。本人が満足しているのなら。
それにジルの趣味が石集めだから俺が拾われたわけだし。
「きゅーちゃんはねー、真ん丸石だからすぐ気に入ったのー。きゅーちゃんは沢山あるコレクションの中でお気に入りの1つになったのー」
『おー、お気に入りに入ったのか。嬉しいねぇ。他にどんなお気に入りがあるんだ?』
「うんー、これー。お気に入りの1つのぼーちゃんー!」
そう言って、ジルは石空間から棒状の石を取り出した。
おおぅ、これが石空間か。急に手に石が現れたぞ。異世界ものによくあるアイテムボックスの石バージョンだな。
つーか、取り出したぼーちゃんは石か? 見事なまでに綺麗な棒状の石だぞ。
円柱状の細長い石だ。 石で出来た棍って言ったところか?
「ぼーちゃんはすごいんだよー。見て見てー、ぼーちゃん伸びろー!」
ドゴーン!
ジルはバトンのように回してたぼーちゃんを構えると、ジルの掛け声と共に如意棒のように伸び出し部屋の壁を突き破った。
「あー! またやっちゃったー」
……え? 何これ? というか、何でただの石が伸びるのっ!?