000.転生
俺は今、手足の出ない状況に置かれている。手も足も出ない?
気が付いたらこの状況になっていた。
体を動かそうにも身動き一つとれない。
幸い視界だけは360度確保できるので今自分が居る場所は把握できるが、把握できたところで状況は好転しないが。
俺が今居る場所は砂利がある川辺だ。
そこへ無造作に転がされていた。
何でここに居るのか覚えがない。
確かハードワークの仕事を終えて帰ろうかとしていたところまでは覚えているが……
あー……そう言えば、その帰り道で車に轢かれたんだっけ。
飲酒運転だか居眠り運転だか分からないが、今の俺の置かれている状況を考えれば俺はその交通事故で死んだんだろう。
なんせ、今俺の目の前に映っている月は3つ連なっているし。
そして今俺の置かれている状況は、川辺に転がっている砂利の中の石ころだしな!
文字通り手足も出ませんよ!手も足も?
ネット小説やラノベでよくある異世界転生って奴だ。
ちくせう。よりにもよって何で石なんだ。
確かになろう小説では石に転生した話もあるよ。
まぁ、その石は石でも賢者の石だけどな!
ふぅ……魂の雄叫びで少しは落ち着いた。
この状況でグチ愚痴言ってもしょうがない。
それこそ転生したのならチートは備わっているだろう。
まずはそれを確認だ。
最初は自分の能力の確認だな。
ステータス!
シーン………………………
ど・どうやらステータスではなかったみたいだな。
メニュー! オープン! データ!
シーン………………………………………………
ま・魔法の有無も確かめようか。
ファイヤ! メ○ミ! ア○ダイン!
シーン………………………………………………………………………
お・おかしい。こんなはずでは……
俺はこの後もいろいろ試した。
けど、何にも反応は無かった。
いや、諦めないぞ。
諦めたらそこで終わりだって偉い人も言っていた。
幸い石になった今は幾らでも時間がある。
それに誰かに拾ってもらわなきゃ移動もの儘ならん。移動もままならん?
その為には何かチートを使えないと。
そうして試行錯誤しているうちに夜が明けた。
日が昇ると川辺には子供たちが水浴びしに遊びに来ていた。
互いに水を掛け合ったり、砂利にある石を水切りしたりして楽しそうに遊んでいた。
そんな中、1人の男の子が俺を目聡く見つけ拾い上げる。
おお! 俺を見つけるとは見どころあるな少年!
「何だこれ。すっげー真ん丸!」
「えー? なになに?」
「ホントだ! 真ん丸!」
男の子が俺の素晴らしい体型に感動して声を上げると周りの子供たちも俺を見に集まってくる。
「でもこれじゃ水切りに使えないよ」
「だな。持ちやすいし手ごろな大きさだけど、今欲しいのはこれじゃないし」
ちょ! 待ってくれ! 確かに今はチートも何も無いが、これから覚える予定だし! 将来性あるよ! だから捨てないで!
だが俺の心の叫びを余所に男の子は俺をその辺に捨ててしまった。
ああ~~~~、なんてこったい。
どうやらまず最初に俺が覚えるべきチートは念話とかの意思疎通ができるチートのようだ。
そうして俺は諦めない意思で様々なチートの覚醒や検証などをすることにした。
たまに川辺に遊びに来る子供や、散歩による大人たちを眺めながら。
――そうして1年が経過した。
まぁ日が昇る回数や四季からおよそ1年と言った感じだが。
その1年の間に真ん丸の石が珍しいのか俺を手に取る人はいたが、意思疎通のチートが無いためただの石としか見られずその場へと捨てられた。
――2年が経過した。
俺は相変わらず意思疎通のチートや他のチートを求めて頑張っているが、一向に成果が上がらなかった。
2年目も何人か俺を手に取ったが俺を持ち替える様な奇特な人は誰も居なかった。持ち帰る?
まぁ、居たとしても会話は出来ないんだけどね!
――3年が経過した。
成果は出ない。だが俺は諦めない。諦めなければ望みは叶うのだ。
――5年が経過した。
周囲の状況は相変わらずだ。
だが少しだが、川の位置がずれているように感じた。
まぁ、5年も経てば川の流れにより地形は変わるか。
――10年、経過。
10年経ってもチートの1つや覚えもしない。
川の流れが変わったことによりここに来る人も少なくなってきた。
当然俺を見つけることも少なくなってきた。
――30年、経過。
もし俺が人間だったらいい歳したおっさんだな。
前世の年齢も加算すれば中年か?
――50年、経過。
……駄目だ。俺にチートなんて無かったんだ。
転生だ異世界だ浮かれていたあの頃が懐かしい。
――100年。
俺は考えるのを止めた。