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アラフォー・クエスト  作者: レト
第一章 カルガノ山
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6話 異世界混浴!

 鳥の羽ばたきと目覚ましのアラームが聞こえる。

 差し込んだ光が閉じた瞼越しに朝を告げる。全身を包む柔らかな布団と毛布の感触。

 やや息苦しいが、いつも通りの朝がきた。


 今日は何のゴミの日だったか、後輩の中津とどのような会話をしようかなどと考えながら、伸びとともに上半身を捻り、音を頼りにアラームを止める。


 ピピピピ、ピピピッ、ムギュウ……


 時計にかけたはずの右手の中から、潰れたような鳴き声がする。


「なんだ!? キモチわりい!」


 咄嗟に手を引き、飛び起きて手元を確認しようとするが身動きが取れない。


「ウッ……動けん!」


 背後では何かが羽ばたき飛び去って行く音だけが無情に響く。


「せめて何を触ってしまったかだけでも知りたい! 気になるわ!」

「どうしたのぉ?」


 頭上から眠気を孕んだやんわりとした女性の声。

 見上げると、片耳をパタパタはためかせるヴァティーと目が合う。


「何か……何か、掴んだ」


 目覚めた直後のせいか、思考が追いつかず覚束ない返答をした。


「も〜! 好きだなぁ」


 嬉しそうに頬を赤らめ、全身を用いて六道の身体を一層強く締め付ける。


「ち、違っ……」


 わがままボディでされるがまま。

 抵抗すればするほど相手が燃え上がりそうなので、風林火山の除かなること林の如くを用いて、寝起きの頭を回転させることのみに集中する。


(どうやら無事に朝を迎えたらしい。

 昨日は判断力が鈍っていたのか早計な行動を取ってしまった。反省しよう。命があるのは僥倖だ。

 何が出るか分からない異世界での野宿を無事に越えられたのは運によるところが大きい。

 知らず識らずに彼女に護られていた……ということだな。

 目を覚まして現実に戻れてたら、一番ありがたかったが仕方ない)


 思考を深め、今後の方針について熟慮する六道はおっぱいに挟まれている。


「もう起きよう」

「え? まだ昼だよ?」


 下目遣いで不思議そうな表情を浮かべる。


(おっと〜、ここに来て自分の認識の甘さが露呈したぞ。一緒に眠って、そのままずっと眠り続けて、共に朝を迎えたと思っていたのは〜……私だけ?)


 彼女は夜行性。


「やはり、もう起きよう!」


 先程より語気は強い。


(自分の身体を確認したいしな!)


 ヴァティーの腕を押し退けようとすると彼女は力を緩め、六道は荒縄が置いてある枕元からベッドを降り、地面へ踊り出る。

 乾燥した気候の影響か、やや乾きのスーツを手に取ると一目散に着替え出す。

 裸族ではない彼にとって裸でいる時間が長過ぎた。

 服装を整え、手櫛でオールバックを整える。なぜワックスも無しに整えられたのか。秘密のレシピは、ヴァティーのヨダレである。彼はその事実をまだ知らないが、尿じゃないだけ幸運だった。


「ヴァティー、何か予定あるかい?」

「ううん、予定なんてないよ」


(ここが彼女の好きな所だ。春の木漏れ日のような愛嬌と春疾風のような一徹な物言い。彼女のおかげでこの世界が好きになってきたよ)

『ありがとうございます』


 心の声に割り込むVR、その女性の声音。


(うん、あなたじゃない。うん、あなたじゃない! 物資をありがとう、腹を減らさず暖もとれて寝床もある。それは感謝している。でも、あなたじゃない)

『ご意見ありがとうございます。今後のサポートの参考にします』

(いや……すまない。まだ疲れが残っているようだ。ところで、後どれくらいでここから離れて良いんだ?)

『ダウンロード終了まで残り12時間』

(そうでした。何かをダウンロードしてるんでした)


 待つ意味を忘れる程度には、ここに滞在した六道。


「ヴァティー、私はあと1日ここで泊まる予定だが、一緒にいてくれないか?」

「え⁉ 良いけど……どうして?」


 何と説明しようか、やや言葉に詰まる。


「あの〜、プラズマを観察しようと思ってね」

「へ〜……うんうん。あなたが博識なのはわかりました! うんうん! も〜好きなんだからぁ!」


 恥らう素ぶりで上半身を振るヴァティー。


(何だ!? 誤解が生じたことはわかるが、それが何かが分からない!)


 陥没乳首の大きな乳輪を目で追う六道は、思考が追い付かない。

 気がつけば無言でこちらを見つめ返すヴァティー。

 六道は彼女の胸元を直視していたことに気付くと、慌てて後ろを向く。


「その姿なら……後から来る彼女も大丈夫そう!」

「?」


 その姿の意味すること。この世界の人間は、スーツを着ないようだ。

 そして、もう一人来るらしい。


「来るって?」

「一緒にいた娘を置いてきちゃったの」

「へ〜、それまでは……二人っきりだな!」


 突如、瞳をギラつかせ振り返る六道。眼光が線を引く。


(日本人が特別、綺麗好きだとは思わない! しかし気が付いた。頭髪に染み付くこの臭いに! 朝風呂に入らずにはいられない。それに何だか身体も痒い。これは……蚤か⁉)

「くっそー!! 洗濯し直しか!」


 アイテム選択。

 右袖から木桶を射出し、左袖からはお湯を射出し続ける。続けざま右袖から石鹸を射出すると、慣れた手つきで石鹸を泡だて、服を脱ぎ捨て浸けて置く。

 無駄の無い動作。アイテムボックスに、水とお湯が別に存在すること。石鹸が異世界に存在することは僥倖。昨日、スーツを洗う際に確認していた。

 ウール生地の二度目の手洗い、結果は如何に。


「来たれ、箱根ぇ!」


 彼は何と言ったのか。

 そう宣言すると続け様、袖下から古代の浴槽であるバルネアを射出。テルマエと同義。

 突如、山肌の空間に現れたのは大理石の大質量、露天風呂である。


 大地を軽く揺らし、斜面に沿って崩れかけるも、山肌へと収まる。

 六道は外周を歩き回り、水漏れを石で埋め終えると、大理石の縁へと飛び乗る。

 シーウォークからチャールストン・ステップを決め、右腕を高く掲げると、左掌で顔を覆った。


「なんと素晴らしい風呂だろうか」


 この啖呵を見よ。

 その一挙手一投足が中二病の化身であるにも関わらず、その単語を辛うじて知る程度の一般人。

 なんたる原石、彼は少し頭がおかしい。


 感想を求めるべく振り返ると、六道の素肌に発情したヴァティーが今にも跳びかからんと構える。

 そういえば全裸だった。

 ギラつき合う二人の間合いに火花が散る。


(私の名は六道厳。日本人のプライドにかけ、ヴァティー。お前をキレイキレイしてやるぜ!)


(アタシはヴァティー。種族最後の一人になるやも知れぬ我が身ではあるが、ここは一生分のイチャイチャを堪能し、あわよくば……あわよくばしてやる!)


 互いの思惑がぶつかる時、戦いの火の手は上がる。

 それぞれの欲望を旗に掲げた裸同士の真剣勝負、結果や如何に。


 ——三十分後。

 青空のもと山肌に吹く風は、露天風呂に仲良く浸かる二人を涼しげに扇ぐ。散らかった桶と石鹸の泡は奮闘の名残。


「ふひ〜、アタシ、お湯に浸かったの初めて〜。水浴びと全然……全然違う〜」


 おろした髪は濡れ、その鮮やかなこと、湯船に舞い落ちる花びらである。

 また湯船に浮かぶ胸の狭間からは、六道の声。


「……腰、やってるな」


 一晩中、虎の前足に締めつけられていた余波である。

 初めて味わう風呂に感嘆を漏らすヴァティーと、軋みを上げる腰が気になる六道。


「気持ち良すぎる〜」

「そろそろ、耳を噛むのをやめてくれないか」


 六道は、ヴァティーに抱き抱えられながら耳をハムハムされている。


「イヤっ!」

「嫌なのかい!」


 腕力で勝る彼女に主導権がある。


「そういえば色々聞きたいんだが、そうだなぁ。この世界の人達ってどんな感じだい?」

「人間? 食べるの?」

「食べないよ! 私は人間に似てるだろ? ……気が引けるよ」


 そういうことにした。


「というよりその言い方、ヴァティーは食べるのか⁉」

「う〜ん、好き好んでは食べない」


 ならば何故、六道が食べると思ったのか。


「人間かぁ、動物が八割、マシなのが二割ってとこかな」

「一つ聞くが、そこにあった大きな都市。住んでたのは君の仲間?」


 山から見下ろした平地、未だ黒煙を巻き上げプラズマが疾る爆心地を指差す。


「う〜ん、知らないなぁ。アタシ達は森に住んでるよ。セントールの村でぇ、今度連れてってあげる」

「是非とも行こう」


 本心から相槌を打ったが、行くのはせめて人間に会ってからにしたい。


(ならば昨日までそこにあった都市は人によるものだ。一先ず安心した。動物が八割という言葉の意味はわからないが、街並みからすると石器を持った類人猿ではないだろう。それか八割は類人猿という意味かもしれないが) 


「……で、さっきのマシとはどういう意味?」

「剣聖とか一部の人は魔族を殺せるほどの力を持ってるの。一番東の島国にはいなかった?」

「いやぁ、日本に剣聖なんていても笑っちゃうね」


 日本でそんな職種、婚活パーティーにおいて笑い者である。


「そうなの、そうなの、うんうん!」


 耳元で凄く嬉しそうな声を上げられ、こそばゆい。


(剣聖か、その人達なら私を元の世界に返せるのでは無いか?)

「……方針は決まったな」


 キリッと表情を締めるが、大人が抱っこされている事実に変わりはない。


「なに……してるの?」


 ——っ!?


 突如、聞き覚えのない女性の声で呼びかけられ戦慄が走る。

 声は右側からするが、左耳を咬まれていて首が回せない。

 呼び声を無視した形になる。


「何してんのか、聞いてんだろ!」

(おわっ、沸点低いな! 誰だか知らないが取り繕わねば……)

「や、やあ、お嬢さん。君も一緒に入るかい?」


 身動きの取れない六道が出せる精一杯の親切。


「死ね」

(だろうな……)


 どうしようもない状況に打つ手なしと思われた。


「セルケト! 遅かったね」

「あんったねぇ! 急に飛び出して行って……こんなとこで何してんの!」


 正体は以前、会話にでたヴァティーの友人であった。

 耳を解放されようやく振り向くと、そこには背中まで伸びる艶やかな長い黒髪ストレートの少女。

 綺麗に切り揃えられた髪のサイドから尖ったエルフ耳を覗かせる。


「まったく! どれだけ走ったと思ってんのよ!」


 細い眉を釣り上げ、はっきりとした二重にアイシャドウの瞳を睨ませる。

 小ぶりの鼻にスッとした面立ちは、日本人にも見える容姿であり、口の悪さとは対象的にお淑やかな印象を受ける。こんな娘に死ねと言われるとは救いようが無い。


 そして話にあったように下半身は、成人男性の二倍はある巨大な蠍だ。


 細かくいうとシナイデザートスコーピオンに似ており、表皮には鮮やかな蛍光色の塗料で、彼女の民族のものであろう模様が刻まれている。

 セントール的にどうなのか、大きく鋭い鋏をもつ。


 黒光りする装甲のような下半身とは対象的に細雪のような白い肌に健康的なくびれ、細腕には文字の掘られた金のブレスレットを着ける。

 発育途中のような控えめな胸は、背徳感が生じて直視できない。


(なぜ、そんな事がわかるのかって? それはね、何も着けてないからだよ!)


 やれやれ、この世界に服という概念はないのか、と全裸の六道は思った。


「それと……いい加減、離れなさい! そいつニンゲンでしょ⁉」


 ヒステリックに叫び、多重の足音を響かせながら正面に回り込むと尾の毒針をこちらに向ける。

 実際に毒があるかはわからないが、毒針だと思った。


「い、いやだなぁ。私はジャパニーズだよ」


 向けられた針から目が話せないまま、何もない袖からアイテムを出してみせる。

 突如、右手に現れ掴まれる木桶。


「魔法……にしてもニンゲンに似ているのね。あなた」


 向けられた敵意が引いた気配はない。


「匂い嗅いでみ? 人間の匂いしないよ?」


 ヴァティーからフォローが入るが、友人の怒りは治らない。


「いや良いわ。けれどそこの貴方、非常識じゃない? つがいでもないのに、こんな所で抱き合って!」


 真っ当な意見。


 一方の六道はというと、学生時代に委員長気質の女の子によく怒られたなぁという思い出が蘇って悪い気はしない。この世界にメガネはあるのだろうかなどと考えていた。

 彼には敵意と怒りを向けられている自覚がない。


「それにあんたも、あんたよ! 魔具まで外すなんて何考えてるの!」

「だって、邪魔だったんだもん」

「だもんじゃない!」


 渋々、縄と共に縁に置かれていた金の輪を手に取り、尾の付け根に嵌める。

 会話から察するに護身用の武器か何かのようだ。

 昨夜は気付かなかったが、お風呂前に外す姿を見ていた。


(というより、何をどう弁解しても許してくれなさそうだ)


 説教中の二人に挟まれ肩身の狭い思いをする六道。

 ウール生地のスーツもまた粛々と縮み続けるのだった。


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