[♣K]ファンタジーとの出会い-1
西室乾や香取佐助などさまざまな参加者が目覚め、ゲームへ理解している頃。一人の少年がどこかうす暗い廃城をさまよっていた。
「どこなんだよ……ここは……」
この少年も同じく異世界サバイバルゲームの参加者である。ソーシャルアプリに謎のメッセージが届き、何かのゲームと勘違いし参加してしまった。
「うわっ! びっくりしたな……」
突然、蝙蝠たちの羽ばたく音にびっくりする。ここには人の気配は無くねずみやコウモリが彷徨い、ただただうす暗く不気味な雰囲気が漂っていた。建物内はずいぶん前から手入れされていないのか廊下に飾られている装飾はずいぶんな有様になっていた。
「スプエロとかいうやつ、大きな扉の先の部屋に行けとか言ってたけど…。そんなところ見つかんねぇよ……」
この少年が目覚めたのはこの廃城の一室でそして、すぐに行われたゲーム説明にはこの少年の頭ではよく分かっていなく、理解せず言われるがままとある場所へ向かって城内を歩いて行った。
「…あ! これか、大きい扉って。でっけぇー」
少年が見つけた扉は、自分の身長より何回りも大きく、人の力で開くのか分からないぐらいの迫力があった。
「でもどうやって開けんだろ? 押せばいいのかな……っうわぁっ!」
見かけ倒しのかのごとく、少年のか弱い力でも簡単に開いてしまい、拍子抜けしてしまう。そして扉が開いた先には氷の塊のような白く輝く結晶が大きく佇んでいた。
「なんだこれ! 何か色々とキラキラしてスゲー!」
その結晶には様々な紋様が光彩陸離の如く輝いており、少年がその美しさに触れてしまうと、触れるものを近づけさせないように少年を吹き飛ばした。
「うわっ! いてて……。触ると危険だなこれ。そういえばスピエロ、こうしろって確か……」
説明の中でスピエロからアドバイスを貰った少年は、頭の中で思い出しながら言われた通りのことを行動に移したのだった。
「えーとこのボタンを長く押し続けて、この宝石みたいなやつをパリーンってやればいいだよな?」
端末の電源ボタンを長押しすることで能力を使用状態にし、少年の意識を人を閉じ込めている結晶へと意識を向けると、無自覚に自分の能力を発動してしまった。そして発動に成功し、結晶はガラスが割れたの如く砕け散っていた。
「え!? どういうこと?なんで割れたの!?」
そして砕け散った結晶から20代くらいの人間の男性が出てくる。まるで長年眠っていた身体を確かめるように身体を動き始め、その男の意識を覚醒させる。
「……フフフ。フハハハハハハ! 憎っくき勇者との戦いに敗れ、封印されし我! 今この永き眠りから目覚め降臨してのである!」
この空間を響かせるように高らかく笑いを上げ、自分自身の復活に良い痺れる。
「しかし、我の力は全て失われておるな。おかげでこの体を見るのは生前数百年ぶりといったところか」
「な、なんだよ……おまえ」
あまりの衝撃に腰を抜かしていた寛太郎の方へ、魔王は向け、少年に問い詰める。
「少年の風情が、なかなかの力を持っておるな。貴様、名はなんという?」
「か、寛太郎だけど? おじさんだれだよ?」
この少年の名前は三条 寛太郎。中学2年生で平均より身長が低いこと気にしいながらもやんちゃなお年頃である。そのため傲岸な態度をした男でも平気に対応していた。
「……フッ。余をおじさん呼ばわりか。カンタロウよ、なかなかの肝のすわり様。幼き知能のゆえ我の存在を理解してない故の発言。許そう。だったら教えてやろう」
男は大きく両手を広げ、自分自身の復活を宣言する。大きく高らかと城外に聞こえる勢いで。
「我の名はホルゼイス=カンバラ! すべての闇を極め、魔を統べる者! 魔王ホルゼイスである!」
「でも勇者というのに負けたんでしょ?」
「……フン。そこは聞いてたんだな。何かしらの因果の故、我はこうして再び地上へと足を踏み出すことが出来き、そして今度こそ憎き勇者を倒し全人類を支配するである!」
「う~ん、よく分かんないんだけど、漫画だと魔王って最後には結局倒されちゃうでしょう?」
「どこから刷り込まれた知識か分からんが。そんな運命など存在せず、我が今度こそ勝つのであるぞ」
「あー、そんなこと言うから負けちゃうんだよ!」
「……っく。生意気な餓鬼め。その減らず口を二度と叩かせないよう貴様から倒してやろうではないか。……む? 誰か来るな」
寛太郎と魔王と名乗る男がやり取りしていると、部屋の外からこちらへ向かってくるような複数の足音が聞こえてきた。この建物は自分が立てた音以外何も聞こえない閑静なところなので誰かが音を立てれば、遠くにいても響いて聞こえてくる。そしてその源が近づいてくるのか中年ぐらいの男性の声も聞こえてきた。
「たぶんのこの階から聞こえてきたと思う。おそらくあそこだ」
「おい! あの場所って確か……!」
どこかの国の兵装を着込む二人の中年男性が姿を現し、剣を構え警戒状態に入る。
「動くな! お前ら、こんな所で何やっている!」
「おいおい……あれ見ろよ、結界が……」
「ふむ。まずいな。すまんがカンタロウよ、貴様の力借りるぞ」
「え、ちょちょっと!」
「≪地獄の業火≫」
強引に寛太郎の手を握り、魔王はもう片方の手で空中に罰を描くようにして手を振り上げる。すると紫色のようなこの世にも無いような炎が 二人の身体が燃える。そして悲鳴を上げる間もなく一瞬にして焼きつかされ崩れ落ちた。
「つえぇぇぇ! 一瞬で死んだ!」
「フハハハハハハハ! すばらしい! 素晴らしい! そうだこの力だ!」
魔王自身、力を失っているため寛太郎の力を媒体にして、力を行使しなければならなかった。寛太郎の身体を触れている間、魔王の力は取り戻すことが出来る。その状態からこちらへ向かってくる数名の生体反応を感知していた。
「厄介だな。まだ数名こちらへ向かってくるようだ。少々手荒だが我慢しろよ。―――≪悪魔の双翼≫」
寛太郎を俵を担ぐように持ち、背中に力を込める。すると今度は魔王の背中から二つの黒い翼が生えてきた。
「なにそれ! かっけぇ!」
興奮する寛太郎を抑え込みながら、外に向かって走り出し窓を突き破り翼を広げる。すると魔王の身体は空中を浮かび高く飛びだっていった。その背中を見守るように見ていたのは、今さら現場に到着した仲間の兵士数人であった。二体の焼死体、壊された結界、時すでに遅しの廃城に混乱の渦に陥れたのであった。