[♣8]ゲームスタート-3
スプエロという奇妙なキャラクターが消えた後、乾はただただ端末の画面をじっと見続けていた。
そこには仮面を付けた道化の姿は無く、画面には自分がよく使っていたスマホと似たインターフェースの画面が映っていた。
よく分からない所へ連れてこられて、後先考えず参加してしまったゲームをやらされ、死ぬかもしれない状況を受け入れていれずらかった。
「本当、よく分かんねーよ。まぁ参加した俺の自業自得か」
ここでうずうずしていても仕方ないと思い、状況を整理するためにも自分が持ってる端末の機能を確認してみる。
端末にはさまざまなアプリが搭載されており、一通り見てみると。
[お知らせ] [情報] [地図] [時計] [能力] [通信]
あとは[電卓]や[メモ帳]やらと一般的なスマホに搭載されているようなものが色々と搭載されていた。
そして右上の表示にはこの端末の電池状況を示すステータスバーが表示されており、今は100%と満タン状態だ。
とりあえずアプリの機能がどんなものか確認するためアプリを一つずつ見てみることにした。
まずお知らせには、特に目立った情報は無く、ただ”第00回 ちゅーとりある"という項目が存在するだけだった。先ほどのピエロが喋っていた映像がいつでも見直すことができるらしい。先ほど見たばかりなので次のアプリへ移る。
[情報]には、先ほどピエロが言っていた、プレイヤーナンバーや勝利条件が記載されており、でかでかしくトランプの[♣の8]が表示されていた。
「クラブの8か。これが何を意味しているのか分からないけど。数字がでかいほうが強いのか?」
そして♣の8の俺がこのゲームにおける勝利条件が、"プレイヤーナンバーの情報交換で得たランク数の総計が51を超える。"というものだ。そういえば[通信]というアプリが何やらとピエロ野郎が言ってたと思いそのアプリを開いてみると、周囲2m以内の参加者とゲーム中で得た情報のやりとりが出来る機能らしい。試しに通信ってやってみるが当然の如く誰もいないので反応は無かった。
「勝利条件ってのがよく分からんが、つまり他の参加者と会えということだよな」
大きいプレイヤーナンバーを持っているゲームの参加者。[♠K][♣K][♥K][♦K]の4人に会えば条件がすぐに達成できる。あれ意外と簡単じゃないか?と思ったが、ここが何処だか分からない以上、他の参加者にすぐに会えるか分からない。
そういやサラッと流していたが異世界がどうだかって、言っていたのを思い出す。
「そもそも異世界ってなんだよ……」
異世界といえば、ファンタジーな世界を思い浮かべるが…。そういえば、異能力ってのがあったな。
「物質を変化させる能力…。これよく分からないのだよな。あいつが石を重くするとか言ってたが」
地面に落ちているそこらへんの石を拾う。拾ってみても変化はなく、試に念を込めてみるが、やっぱりただの石に変わりない。
「うーん、どうすればいいんだ……? このケータイに能力ってのがあったよな…」
端末にあった[能力]のアプリを開いてみると、自分の能力のことが載されており、その下に使用するいう大きくボタンがあった。試しにボタンを押すと、使用中って表示になる。
「ん……? 特に何もおきねぇけど…」
身体中には変化はおとずれず、持っている石にも変化は見られなかった。
物質を変化させるのがよく分からない。重くする物質ってなんだ?重いって言えば金属だな…。タングステンあたりか…?そんな想像を思い浮かべると…。
「うわっ!?何だ?急に重くなったぞ」
先ほどまで重さを感じれなかった石が、分銅のような錘を手に取ったような手ごたえを感じた。
「すげぇ、見た目はまったく変わってねぇのに、金属みたいに硬ぇ」
少しでも衝撃を加えればぼろぼろと崩れるほど脆かった石が、指で弾いても物ともせず逆に痛みを感じるほど硬くなっていた。
非現実的なことばかりで、戸惑うことばかりだったが、不可解な現象を目の当たりにすれば、ここが本当に異世界ではないかと実感してしまう。
調子にのって、道端に落ちている木の枝を鉄のポールみたいに硬くしたり、葉っぱを板金みたく硬くして手裏剣のように投げて木に突き刺したりしていた。逆に重いものを軽くできるのではないかと思い、地面に埋まっていた自分の体より二回り大きい岩を発砲スチロールみたいに軽くしてみようと念じてから、持ち上げてみると、いとも容易く持ち上げられ、ゆっくりと地面に投げつける。
こうして何回か試していたら、この能力の使い方については何となく分かった気がする。
まずこの能力は、変えたい物質を触って、頭の中で変化させる物質をイメージさせることで物質を変化させることが出来る。そして変化させた物体は見た目は変わらないが、変化させた物質の特徴を持たせることが出来る。だけど、化学が苦手な自分としてはこの能力を十分に活用することが難しいだろう。さまざまな物質の理解があればいろいろと活用出来ただろう。
「こうなるんだったら、ちゃんと化学の授業受けてればよかったな……」
自分の頭の悪さに後悔しつつ、再び端末を覗くと、電池が減っていたことに気付いた。
「あれ、充電が92%になってる」
最初見たときは、100%はずが、今は92%と減少していた。この端末のバッテリーがそもそも弱く、たった30分程度つけっぱで8%減るのは特におかしくもないが、ゲームの説明時に言っていたスピエロの言葉を思い出す。
”能力を使うことでも電池減っちゃう。つまりゲームでいうMPみたいなもんだね!”
そして能力について書いてあった記載欄に、端末消費量という言葉を繋げると…。
「なるほど、使えば使うほど減るってことか……」
充電方法について、チェックポイントでしか出来ないってことしか分からないので、端末の電池を消費させるのは危ないと感じ、すぐにアプリ[能力]から能力解除させた。
ここでうだうだやって分かったことは、このゲームにおいて、この端末は重要な鍵であり武器だ。そう理解しただけでも、この30分間は無駄ではなかった。
このゲームは勝利しなければ死んでしまう。勝利するには他の参加者と会わなければならない。勝てば賞金を手に入れることが出来る。勝てば渚は助かる。負ければ助からない。
「何としてでも生き残る。そして勝って渚を救うからな!」
そして今出来ることは、このゲームに勝ち残るための情報を得ることだ。何か情報は無いかと再び端末を操作するのだった。