[♣8]ファンタジーとの出会い-4
「はい! ここが私が住んでいる村のキイノ村でーす!」
勇者(の孫)に案内され、たどり着いた先は村という割には活気があり、子供から老人までとさまざまな人々が交わっていた。
「どうでしょう? ここはおじいちゃんが頑張って作り上げた村なんです!」
「へぇ~。すごいんだな、勇者だからっていうだけでこんなにも賑わうものなのか」
「もともとこの辺りにはおじいちゃんの故郷があったのだけど、魔王の手下によって焼かれちゃったんだ……」
村が焼かれたか。ゲームでよくある設定だよな。自分の村が魔王によって焼かれ、復讐の為に倒すたびに出るってのは定番の流れ。それでリナのお爺さんが勇者って訳か。
「でもおじいちゃんが魔王の封印に成功してから、頑張って立て直したんだよ!」
「なんだ~、俺の話でもしてなのか~リナ。今日もパトロールしてきたのか?」
「あ、おじいちゃん! ただいま!」
この人が勇者なのか、いくつもの修羅場を駆け抜けてきたのようか傷を残した体格をした男がリナに気さくに寄り添ってきた。
「うん? この人はどうしたんだい?」
「この人、迷子だったから連れてきました!」
「あちゃー、ついに人間を拾ってきたか~」
そりゃそうだよな。いきなり自分の孫が見知らぬ人を連れて来たら、誰だってそんな表情をする。しかし人間を拾ったという表現はなんだろうか。まるで自分が捨て犬のようなものではないか。心の中でツッコミを入れていると、リナとその祖父がこちらを見つめてきたので、慌てるように言葉を出した。
「あ、すいません、いきなり。訳合って、迷子になってます」
「ま~、よく分からんが、もうすぐ暗くなるし、俺んところで飯食ってけ。そこで事情を聴いてやる」
・・・・・・
・・・
「つまり。ニホンというところから、いつの間にかこの辺りに来てしまったということか?」
今、自分の向かいに座っている勇者の家で食卓を囲みながら、自分の事情を話した。ただ異世界の人々に自分が巻き込まれているゲームについて話しても理解不能だろうし、何かと躊躇ってしまったのでそこは詳しくは話さなかった。
「う~ん。おまえさんと同じ状況なやつらが他に51人もいるって事か。こりゃ大層な転移事件だな」
「転移事件ってなに?」
テーブルに出されている料理の中のパンを頬張りながらリナが勇者へ質問を投げかけていた。
「魔法のなかに、どこにでも移動できるという便利な魔法があってな。それが自分にではなく他の人にその魔法を掛けることによって訳の分からない場所へ飛ばし遭難させる。卑劣なやり方なんだ」
「へーそれはこわいですね!」
「しかし、俺が魔王封印の旅する時にこの大陸全部回ったが、ニホンという名前なんてもの聞いたことねぇな。もしかしたら俺らが知らない別の大陸から来た可能性もあるって事か……」
リナの祖父が悩みながら難しそうな顔をしている。薄ら期待はしていたが、やはり日本という名前には聞き覚えは無いだろう。自分がいる土地は完全な異世界なんであろう。
「この大陸の王国には顔が利くから色々と聞いておいてやることは出来る。お前さんも早く他の奴らと合流したいだろう?」
「まぁそうですね、その方が助かります」
「だったらうちに泊まっていったら?」
奥の台所から炊事の支度を終わらせ出てきた女性がそう提案しながら自分の達が座る食卓に腰を下ろす。
この女性は勇者の婦人でリナの祖母に当たるのだろうか、歳の割には若き美しさが微かに残る美貌の女性だ。
「この子にとっては周りは見知らぬ場所なんですし、そんな状況で野ざらしにさせるのも悪いしここで預からない?」
「そうだな、あいつが使っていた部屋が余っているし、そこを使わせよう」
「いや、そこまでして頂くなんて……」
いつの間にか、ここへ泊らせる算段になっていてこの家族には助けてもらってばかりで、いろいろと申し訳ない気持ちを感じ遠慮してしまう。
「いいんだぜ、困ったやつを助けるのも勇者の定めってなもんでな」
「そうですよね、おじいちゃん!」
””かリナも同じようなことを言っていたしやはり血がつながっているのだなと思える微笑ましい光景に思わず口元が緩んでしまう。
「それじゃ、これからよろしくな! ……っと、そういや自己紹介してねーな俺ら」
流れでリナのお爺さんと事情を話しながら食事をしていたので、名前を名乗るの忘れていた。心の中でずっとリナのお爺さんと呼ぶのも失礼だ。なので先に自分から名乗るようにした。
「俺は、西室乾と言います」
「ニシムロ=ケン、ニシムロって変な名前だな」
西室という名前に笑われるが、そういえば英語圏では先に名前を名乗る文化だよな。自分の名前が西室になって姓が乾って思われてるのか? そう理解をして、すぐに訂正した。
「あ、すいません。名前が乾で、姓が西室です」
「そういう意味か、お前んのところは先に姓を名乗る文化なんか」
「ということはケンっていう名前なのですね! ケンさんよろしくです!」
良かった、すぐに理解してくれてホッとする。これからはケン=ニシムロって名乗らないといちいち説明するのも面倒だからな。
「俺はレオ=キイノだ。そしてこの美しい女性が俺の嫁のソフィアだ」
「まったくレオったら、もう美しいって呼ばれる年齢じゃないのに」
”おまえはいつだって美しいぜ”といつの間にか、いちゃつき始めた夫婦二人。最初会ったときは怖い人かと思ったが、気さくで優しい人と感じられる。流石、勇者と称えられるだけ人柄も素晴らしいなと思う。
「で、私がリナです!」
そして自分もと言うように、狼から助けてくれた時には聞いた名前をまた名乗るリナ。他の家族だけど久しぶりに感じる家族という心の温かさに懐かしさを覚えた。なんとしてでも自分がいた世界に戻らなければ。今はこの人たちの好意に甘えさせてもらおう。