[♣K]ファンタジーとの出会い-2
「うっわー、足元が真っ青だー。怖えええ」
「おい、あんまり暴れるな。静かにしないとこの深青の海の底まで突き落すぞ。だが貴様を落とすと我も落ちるが」
魔王ホルゼイスの空中飛行能力である≪悪魔の双翼≫によって、先ほどまでいた廃城から脱出し、海原の上を飛行していた。
「もう俺たちがいたところ、あんなに小さくなってるの。てかすごいボロッちいな」
「あそこは我が最初に支配した土地であり、本拠地でもある魔王カンバラ城だ。我が封印されてからずいぶんと立つと思うからな」
寛太郎を抱えながら飛んでいる魔王の背後には、二人が出会った城が小さく見えるぐらいの大きさになっており、いまそこでは燃やし尽くした兵士の仲間たちが慌てふためいる状況と想像し、魔王は心の中でフッと笑った。
「もうすぐ大陸が見えるな。そろそろ降りるとしよう。貴様の力を借り続けるのもよくないからな」
「えー、もっと飛んでたーいだけど」
不満そうな寛太郎を片手に翼を畳むように近くの陸地へ降りる。そして自身の能力を解除するかのように身体から寛太郎を離し、空を翔けていた翼が消えた。
「ちぇ、つまんねーの」
「そう言うでない。海ならまだしも、大陸の上で飛行するのは何かと目立つ可能性がある。それになぜ貴様がそれほどの力を持っているか分からんが、使役し続けるのは危険だと判断したのだ」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ俺行くわ」
興味が薄れたのか、その場から立ち去ろうとすると魔王に引き留められた。
「待て!」
「なんだよ?」
「我と手を組まないか? 我は今、封印の影響で力を失ってしまった。取り戻すのに時間が掛かる。その間、貴様の力を貸し、魔王としての再起を手伝え。そして大陸支配に成功した暁に人間にとって素晴らしい地位を与え、生涯不自由ない生活を保障しよう!」
「う~ん。興味ないし、何か失敗しそうだからヤダ。それに俺なんかゲームに参加してるし、それどころじゃないんだよ」
「失敬な! それにゲームとは何だ。我に言うてみよ」
「なんかさー、異世界サバイバルゲームというゲームでさ、俺はそこでクラブのKになってるみたいなんだよ。でさー何か条件というのを達成しないと死んじゃうってよくわかんねーんだよ」
「ふむ。何を言っているか分からん。我に分かるように話してみよ」
大雑把な説明に理解を示さなかったが、寛太郎の言葉を真摯に受け止めたいのか真剣な感じで問いただす。寛太郎の力の出所を見出すためなのか。
「それよりお腹すいたんだけど」
「……ふむ。そうだな。我も人間の姿に戻ってから、久しぶりに空腹というものを味わえたな。確か飛行しているときにあの方向に街が見えた。あそこへ向かおうではないか……む、何をしておる」
ホルゼイスが街へ向かおうと意気込んでいるさ中、寛太郎は自分が所持していた荷物を探っていた。
「あったあった食いもん。てか食べ物って乾パンかよ。これ味しないから嫌いなんだよなー」
「おい貴様だけ狡いぞ。我にも寄越せ」
寛太郎の手に持っていた乾パンの缶詰を奪い、ぼやかれるが気にせず口の中に一つ放り込んだ。
「なんだこれは味のしないクッキーではないか。こんなもの捨てるがよい」
「えー、勿体ないじゃん。っておい勝手に水飲むなよ!」
勝手に取り、勝手に食べ、評して、捨てられてしまった缶詰を回収していると、またしてホルゼイスが寛太郎の荷物を漁り、ペットボトルの水をごくごくと飲んでいた。
「……ふ、フフ、フハハハハハハハハ! なんだこれは。単なる水の分際で我の喉を万遍なく透き通るように潤す味わい。我が今まで飲んでいた水は泥水程度と評させても可笑しくは無い美味しさではないか!」
「何言ってんだこいつ。ただ水なのに大げさだなー……って! 全部飲んじゃったのかよ!」
ペットボトルには一リットルも残されていなく空となってしまい、魔王は名残惜しそうに容器を投げ捨てた。そのことを含め寛太郎が不平不満を垂らしている傍ら、魔王は再び寛太郎の荷物を探り始める。
「ふむ、あと貴様が持っているのは……。金貨1枚、初期資金としては十分だな。あとは、これは何だ? 黒い金属の板みたいだが、奇妙な魔力を感じる」
「おい! 触んなよ! 大事なもんなんだから!」
ゲーム参加者である寛太郎に配布されていた携帯端末から薄ら出てくる瘴気を感じ、姿形に興味を惹かれたのか食いつくように見始めた。そしてそれに気づいた寛太郎は魔王の手から端末を奪い返した。
「貴様とは色々と聞きたいことがあるが、こんなところで立ち話するのは何だ。我が先ほど見つけたと言った町へと向かおうではないか」
「まだ俺はお前と着いていくとは一度でも言ってねぇーぞ!」
「だがその逆の方へ行っても何もないぞ、大きな森林が広がって迷うだけだぞ」
すぐにでも魔王の元から立ち去る思いで背中を向けるが、魔王の忠告に足を止める。見知らぬ土地で訳も分からず歩くのは危険だろ寛太郎の頭でも理解は出来ていた。そして決心したのか振り向いた背中を戻した。
「分かったよ。ついていけばいいんだろ! ついていけば!」
「フハハハハハ! では行くぞカンタロウよ!」
こうして二人は街道に沿って歩き始め、一人は気持ちよく高笑いしながら。もう一人は屈辱の思いで魔王の背中を追うように町へ目指したのだった。